十八
「それで、えーと、なんだっけ。夜継を倒す方法、だよね。」
少々ぎこちなく、本当に話し合わなければいけない問題へと話を戻す。
「あ、ああ。」
「どうしようか。でも、実行するのはみんなが蜂起してくれた時なんでしょう?」
「そうだな。それで混乱を呼んだ隙に俺たちも動くしかない。混乱の中なら俺の家族や沙枝の親友に危害が及ぶ可能性も下がるだろうしな。」
「ならその時にさ、私たちが夜継のいるところまで乗り込むしかないよ。」
「しかしな…、そんな簡単に行くか…?」
「うーん、確かにそうだね…。」
「…なら、その時に帰ってきたことにすればいいんじゃないか?沙枝は夜継に、俺を見つけたら戻ってこいって言われていたんだろ?」
「そっか。そうしたら、丁度良いところに帰ってきたな、ってなって。」
「夜継に相対できる。」
二人は目を合わせたまま同時に頷いた。
「よし。そうしよう。後はどうやって夜継を倒すかだけだが…。」
そうなのだ。そこに至るまでの段取りがいくらうまくいったところで、夜継を倒す具体的な手立てが分かった訳ではない。
「それは…。こんな言い方しかできないけど、私達の力を信じるしかないよ。私達はまだ、二人揃った時の“真の力”を目にしてない。それはきっと、私がまだ《流水の守り手》として成熟してないってことなんだよ。」
「沙枝。自分を責める必要はない。それだって、俺の力が至らないせいなのかもしれない訳だし…。」
「ううん燥耶。私のせいなの。私まだ、燥耶ほど自分の力を上手く使いこなせてない。自分が一番分かってるんだ。でも、どうしたらいいのかも分からない。」
「沙枝…。」
「ねえ燥耶、私、どうしたらいいの?」
気付くと沙枝はそう燥耶に問いかけていた。そして言ったそばから後悔し、思わず俯いてしまう。私が自分で考えて、答えを出さなきゃいけないことなのに。それ以前に、燥耶ならきっと優しいから。
「大丈夫。沙枝は俺のそばにいてくれるだけでいいんだ。」
こう言ってくれるに違いないのだ。想像通りの言葉が聞こえ、嬉しい気持ちと、寂しい気持ちが同時に浮かぶ。
「と、言おうと思ってたけど。」
顔を上げる。
「沙枝、こう言うと寂しそうな顔するだろ?」
はっとした。
「沙枝のことはよく見てる。それくらい気付いてるさ。大方、自分が要らないって思われてるんじゃないかとか、そんなこと思ってたんだろうけど。」
そこで燥耶は一息置く。沙枝は思わず息を吞んだ。
「そんなことは絶対にない。」
「でも…。」
思わず口からこぼれ出た否定の言葉に。
「これでも信じられないなら、俺の鍛錬に付き合ってくれ。なにか身体を動かしていた方がいい。…俺も、沙枝が一緒にやってくれれば嬉しいし。」
燥耶はかぶせるようにそう言ってくれた。ぶっきらぼうな言い方に、優しさが滲み出る。だから。
「分かった。そうするね。…ありがとう。」
沙枝は笑顔でそう言った。
「きっと大丈夫。二人ならなんだってできる。」
「うん。」
今ならその言葉も、すんなりと信じられた。




