十五
その日の晩、三人は作戦会議を開くことにした。あと五回寝たらミヤコ。その近さに驚くとともに、まだなにも計画を詰められていないことに三人は今更ながらに気付いたのだ。
「まず困るのは。」
響夜はそう切り出した。
「ミヤコに着いた時の僕の暮らす場所だと思うんだ。」
「どうして?私たちと一緒に社に来るものと思ってたけど…。」
沙枝がそう言う横で、燥耶も頷いていた。
「大丈夫なのかな?僕がいきなり行って、すぐに泊めてもらえるようなところなのかい?巫女さんばかりなんだろう?」
「でも燥耶はずっといたよ?」
「そりゃ燥耶は事情が事情だし、なにより《炎花の遣い手》だよね。住まわせてもらっていたことも、説明はつく。でも僕は?なんの肩書きも力ももたない、ただの一般男性の僕が、いきなり行って快く長期間泊めてもらえるとは思えないんだ。」
「そっか…。」
「なら俺の家に泊まればいい。」
「そっか、その手があったね!」
「え?いやだから社には…。」
「俺の実家の方だよ、響夜。一応ミヤコの中だ。」
「あ、ああ…。そうか。そういえば、燥耶はミヤコで生まれ育ったって言っていたね。」
「広い家だし、空き部屋もいくつかあるはずだ。響夜くらいの年の奴もいるし、暖かく迎えてくれるだろ。俺からも言っておくよ。」
「あ、春則さんだね。元気かな?」
「…沙枝は行ったことあるの?」
「うん。すっごい大きなお屋敷なんだよ。ね、燥耶。」
「まあ、そうだな。でも、俺が建てた訳じゃないから。」
「…そっか。………。じゃあ、そうしようかな。ごめんな、迷惑かけちゃって。」
「きっと大丈夫だ。よし、じゃあミヤコに着いたらまずは、俺の家に行こう。」
「そうだね。」
「それで当面の僕の寝床は確保できたとして…。次の問題は、二人の大切な人たちををどう保護するかだ。」
「あ、そうだった。燥耶の家の人たちも、避難させないといけないよね…?」
「それなんだけど。おそらく、避難させなきゃいけない期間は一日に満たないと思うんだ。すなわち、僕たちが今まで通ってきたムラの人たちが蜂起して、そして沙枝が夜継を倒す。その間だけ、避難できていれば十分なはず。」
「本当に…?それで大丈夫なのかな?」
「そもそもこの避難させなきゃ、っていう話って、沙枝と燥耶が大々的に夜継に反抗した時に、夜継に人質として押さえられると困るから生まれた話だよね?」
「そうだね。もともとそれがなければ、戦にだって参加しない道があったかもしれないもの。」
「なら、今回の作戦なら大丈夫なんじゃないかな。みんなが蜂起した段階で夜継は二人の叛意を知るんだよ?それより前に、その人たちを深く隠しておく必要はないさ。逆に怪しまれてしまうかもしれない。」
「それもそうだね…。…でも、この三人の誰かしらの目が届く位置にいてもらった方が良いと思うんだ。燥耶の家族は響夜が見るとして…。咲と幸の二人は?」
脳裏に再会した日の二人の姿が浮かんだ。私のせいで、二人に危険が及んではいけない。そう強く思った。




