一
荷車が一際大きく揺れる。ガタンという音で沙枝は目を覚ました。身体の節々(ふしぶし)が痛み、頭がはっきりしない。身体をほぐすため腕を伸ばそうとしたところで、自分の腕が後ろ手に縛られていることに気付く。
その途端、今までの記憶が奔流のように押し寄せ、沙枝は思わずうめき声を上げた。同時に身体の痛みも思い出したかのようにひどくなる。
十三人の捕虜は後ろ手に縛られ、足も縛られた状態で檻状になった荷車に放り込まれ運搬されていた。路面がきちんと整備されている訳ではないためひどく揺れ、とても眠れるような状況ではなかったはずだが、沙枝はいつの間にか極度の疲れで眠りにおちてしまっていたようだ。
沙枝は、今はもう、どうでもいいような気になっていた。
守りたかったものはとうになく、身を焦がした復讐心もこうなってしまっては沸き起こるはずもなく。ただ物のように扱われ転がされ。
「もう、どうにでもなれ」
思わず呟き、周りを見回す。辺りは暗く、捕虜の男衆は皆眠っていた。その中に、見慣れた顔、シノミ族の男の顔は見あたらない。沙枝はそのことから目を背けるかのようにもう一度目を閉じた。
これが全部夢で、起きたら何事も無かったかのようなムラの朝だったら良いのにーーーーーーー
茂繁が目の前に、目に涙を浮かべながら立っている。
「わかってくれ、沙枝。……お前にはこの先も、笑って生きていてほしい…………」
その隣に、咲と幸が佇む。どこからか声が聞こえた。…これは誰の声?
「約束する。必ず生きて、また会いにくるから…………」
振り向くと、九乃がいた。何故か辛そうな様子で、口を開く。
「……貴方は生きて。生き延びて、争いのない、平和な地をつくって…………」
と、四人は急速に遠ざかってゆく。周囲には白い靄が立ちこめーーーーーーー
ガタンッ!
沙枝は目を覚ました。思わず自分の身体を見る。両手両足が縛られたままの現実に顔をしかめた。
夢か。不思議な夢だった。生き延びろというメッセージが、確かに込められていた。何か気持ちが軽くなったような、前向きにさせてくれたような、そんな気がした。
周囲は明るくなっており、捕虜の男衆も皆起きていた。寝たせいか、口を開くのも億劫だったほどの疲労がすこし和らいでいた沙枝は、彼らに何がどうなったのかを詳しく聞かないといけないなと思い立った。




