十四
「なあ、沙枝。」
次の日の朝、起きてきた沙枝に話し掛けてきたのは燥耶だった。
「おはよう、燥耶。どうしたの?」
「今から朝駆けに行くんだが…、一緒に行くか?」
「え?どうしたの急に。」
「いや、何というか最近の沙枝が………。何でもない。」
「何か言いかけた?」
「何でもないさ。…一人だと寂しいんだよ。それで?行くの?行かないの?」
「…行く!行きたい!」
「ならさっさと顔洗ってこい。響夜が起きるより前に帰ってきた方が良いだろ。沙枝が戻ってきたらすぐ出発だ。」
「うん!」
嬉しかった。ミヤコの社にいた頃に思ったことを思い出す。《守り手》として出来ること。燥耶の側にいること。私にも、少しは何か為せるような気がしてきた。
二人は響夜が早く起きてしまった時のために書き置きを残すと、朝駆けに出掛けた。いつもより身体が軽い気がした沙枝は燥耶に合わせて速く走って、途中で疲れはててしまったけれど。
「沙枝。明日も一緒に走ろう。」
燥耶の帰りがけのその言葉に、笑顔で頷いた。
「おはよう…。沙枝?いないの?」
「書き置きがある…そうか、燥耶と一緒に走りに、ね…。」
「響夜、朝だよー。起きてー。」
燥耶との朝駆けから帰ってきた沙枝は、毎朝と同じように響夜を起こしに行く。
「ああ、おはよう、沙枝。」
「…なんかいつもよりすっきり起きたね。よく寝られた?」
「そうかもね。」
いつものように笑顔をたたえて、響夜はそう言った。
「ところで沙枝。」
「ん?どうしたの?」
「最近、何だか悩んでるように見えたけど、大丈夫?」
「え…。…いや、何ともないよ?」
「…そう?まあ確かに、今日の沙枝は昨日までより元気そうだけど。いつでも何でも相談してよ?」
「うん。ありがとう、響夜。」
「よし、朝ごはん食べようか。」
「もう下に用意できてるみたいだよ。行こう?」
振り返って階段を下りていく沙枝に続いて、響夜も一階へ向かう。小さく呟いた声は、沙枝の耳には届かない。
「昨日の晩までとは全然違う…。やっぱり今日の朝の…。少し遅かったかな…。」
朝食を食べると出発だ。
「昨日の晩、ここのムラの長がやっと頷いてくれたよ。今回は手こずったな。」
「やっぱり大変?」
「そうだね。最初の頃に比べれば格段に。けど、僕の方もどんどん慣れていってるし、あともうちょっと頑張れそう。」
「そうなんだ。頑張ってね、響夜。」
「沙枝にそう言われると力が湧くよ。それでさ。」
「?」
「その長に言われたよ。」
「なんて?」
「あと五回宿をとるくらいで、ミヤコに着くだろうって。沙枝も、燥耶も、分かってた?」
沙枝は驚いた。植物が段々とミヤコの社で見慣れていたものに近くなってきたなとは思っていたが、まさかそんな近くまで戻ってきていたとは。身体に少し震えが走った。
「分かった。忠告ありがとう。」
静かにそう燥耶が言った。その顔は、覚悟を決めたことを物語っている。沙枝も気持ちを切り替えることにした。自分に何が出来るのか、具体的に分かった訳ではないけれど。燥耶に何がなんでもついていく。そう決めたから。




