十二
すみません。大変遅くなってしまいました。昨日分の更新です。
またスリナのムラを離れる時がやってきた。稲芽と目を見合って握手する。
「では稲芽さん、行ってきますね。よろしくお願いします。」
「ああ。私たちは沙枝さんにしてもらったことを決して忘れない。必ず君たちの期待に応えようじゃないか。」
「ありがとうございます。心強いです。」
笑顔で送り出そうとしてくれる稲芽。その下から、心配そうな顔の雪が顔を出した。
「ねえ、沙枝お姉ちゃん。」
「なあに?雪。」
「わたしたちはいいの。お姉ちゃんたちに協力したくてやってるし、みんなでだからきっと大丈夫。でも。お姉ちゃんたちは?三人しかいないんだよ?危ないんじゃないの?」
分かっていた。もう分かりきっていることであり、何度も考えたことでもあった。
「きっと大丈夫だよ。私も、燥耶も、他の誰にもないものを持ってる。それは、このために与えられたものだと思うの。だから、私のできる精一杯をやるつもり。夜継をこのままにはさせない。」
「…うん。気を付けてね、お姉ちゃん。わたし、元気な沙枝お姉ちゃんにまた会いたいな。」
「分かった。また会おうね、雪。」
こう言うしかなかった。沙枝にとってかけがえのない二人の顔、咲と幸の笑顔が浮かぶ。あの時と同じ、これもまた約束。私の背中を押す力。死ねない理由が、また一つ増えた。
「…大丈夫だ。」
こう割り込んできたのは、意外にも燥耶だった。
「俺は君に怖がられているし、信用もしにくいかもしれない。けど、これだけは言える。沙枝は俺が、全力で守る。絶対にだ。」
沙枝は、自分の顔が赤くなっていることを自覚した。
「…あーあ。見せつけてくれちゃって。」
「おっ、奇遇だな草太くん。僕も同じことを考えていたところだよ。」
「分かってくれますか響夜さん!」
「でもね、君も早くさらけ出してしまえば楽になるのに、とも思うよ。」
「え、ええー…。意地悪ですよ、響夜さん…。そういえば、そういう響夜さんはいないんですか?」
「え?」
「いや、今までの話の流れ的に分かるでしょう。気になる人とかですよ。」
「…いや?何のことやら。」
「あ、今目を逸らしましたね。」
「いや、何でもないんだよ?」
「…はあ。そりゃ、俺もすぐにばれるはずですね。傍から見たらこんなに分かりやすいなんて。」
「いや、だから…。」
「なになに?何の話?」
「さ、沙枝!?何でもない、何でもないよ?」
「?」
「ま、まさか、響夜さんの、って…。……………俺より辛いじゃないですか…。」
「ん?何か言ったの?草太くん。」
「いや、何でもないです。……自分のことには鈍感なのか…?それとも燥耶さんしか見えてないのか…?」
「ほ、ほら沙枝、そろそろ行こう?」
「そうだね響夜。よし。」
沙枝はムラに向かって頭を下げた。また来たいな。
「今度こそ行ってきます。本当にお世話になりました。またよろしくお願いします。」
三人はスリナのムラに背を向け歩き始めた。
「またね!沙枝お姉ちゃん!」
雪のその声が、やけに遠くから聞こえた。




