十一
響夜の言う沙枝御殿に移動する。思っていたよりもはるかに大きな建物に目を見張った。
「これはすごいな。」
響夜が楽しそうな声を上げる。当人じゃなければ気楽でいいよね、と沙枝は思った。
その建物は沙枝が復活させた川のすぐそば、まさしく以前に宴会が催されたその場に建っており、真新しい木の色が鮮やかだ。クナイのミヤコで過ごした社ほどとは言わないが、スリナのムラの他のどんな家々よりも大きいその建物からは、ムラの人たちの気持ちがひしひしと伝わってきて。沙枝は思わず涙ぐんでいた。
「こんな…。こんなに。ありがとうございます、皆さん。」
「分かったかね。沙枝さんがしてくれたことは、こんなにもムラの皆に感謝されているんだ。」
「本当ですね。…嬉しいです。」
「だってよ、皆!」
稲芽が急にそう大きな声を上げると、それに応える更に大きな声が四方から上がった。
「皆さん…。」
スリナのムラの皆が、そこには集まっていた。あの日、あの宴会の再現かのように、人々の顔には満面の笑みが浮かぶ。
「本当に、ありがとうございます。ここまでして頂けるなんて、思ってもみませんでした。」
真新しい"沙枝御殿"の前で、目尻に涙を浮かべた笑顔の沙枝が頭を下げた前で、スリナのムラの皆が歓声をあげた。
「沙枝。ここでは沙枝が説得してみたら?」
沙枝の気持ちが落ち着いてきたのを見計らってか、響夜がそう声をかけてきた。今までは通りすがりのムラなどでも響夜が説得してきたのだが、ここでは沙枝が言った方が良いだろうと響夜が気をきかせたのだ。
「うん。やってみる。」
沙枝は一度下を向き、深く息を吸う。言わなければいけない言葉が自然と頭の中に浮かんでいた。
「皆さん。改めて、ありがとうございました。立派な建物を目にし、感動しました。」
もう一度頭を下げる。今度は拍手が起こった。
「私は今、燥耶と響夜ととともにクナイのミヤコへと旅をしています。目的は。…クナイの王、夜継を倒すためです。」
その場にいる人々にざわめきが走る。
「そんな…。」
「できるのか、そんなことが…。」
「いや、しかし…。」
「でも、沙枝さんならあるいは…。」
色んな声が聞こえる。沙枝は構わずに続けた。
「でもそれは、私たち三人の力だけではなしえません。そこで、皆さんの力をお借りしたいのです。」
具体的な日時を伝える。
「他のいくつものムラにも、協力を頂く約束をしています。皆さんも、一斉に立ち上がって頂けませんか。私たちと一緒に、戦っては頂けないでしょうか。」
人々の間に、沈黙がおりた。しかしその目の色は真剣だ。
「もちろん、無理にとは言いません。皆さんにも生活があるでしょうし、川の件を貸しにしたつもりもありません。それでも。」
沙枝はここで一息おいた。
「私たちと一緒に、新しい世界をつくりませんか?」
やがて。最初は控えめに、段々と大きく、最後には地を轟かすような、拍手と歓声が起こった。沙枝たちはまた、協力者を得たのだ。




