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炎花流水  作者: くまくま33233
玖 蜂起
101/159

 とは言え、沙枝と燥耶の毎日は今までと大して変わらない。燥耶が本格的に鍛練を再開したくらいだ。沙枝は、燥耶には内緒で、《炎花》との剣の稽古を続けていた。燥耶が遠駆けなどでいない隙にやるのだ。《炎花》との時間を重ねれば、何となくだが自分の中の《流水の守り手》としての能力が成長するように思えた。まあ、根拠はなかったが。



〈よし、沙枝。今日の分も終わりだよ。〉


 そんな稽古を今日も終わらせた、ちょうどその時。


〈おや、お客さんの登場だ。〉

〈え?〉


 振り返ると、そこにいたのは響夜だった。呆けたような顔をして、こちらを見つめている。声も出せない様子だ。


「んーと、響夜?どうしたの?」


 沙枝の声にはっと我に返る響夜。


「沙枝…。まさか、そんなに剣がつかえたなんて…。」

「ええ!わ、私なんて全然だよ!」


 そう言って首を振る沙枝は気付いていないが、実際沙枝の剣の腕は既にかなりの域に達していた。それもひとえに、沙枝が《守り手》であるからこそ《炎花》との親和性が高いがゆえだ。


〈いやいや、沙枝はもう十分すごいと思うよー。〉

〈《炎花》まで…。全然そんなんじゃないよ、私。〉


 赤くなってしまう沙枝。響夜は更に言葉を重ねた。


「謙遜しないでいいよ。十分すごいって。なんて言うか…、見とれちゃったよ。」

「そんな…。その、ありがとう。」

「えと、今日はもうやらないのかい?」

「うん。今日の分は終わり。そろそろ燥耶も帰ってきちゃうしね。」

「…燥耶には内緒なんだ。」

「あ…。そう。何となくね。燥耶が《炎花》を使って鍛錬するのの邪魔になるっていうのも勿論あるけど。なんか、燥耶に言ったら止められそうな気がするんだ。沙枝がそんなことしなくていい、って。」

「そっか。燥耶は知らないのか…。」

「…?どうしたの?」

「いやいや、こっちの話。邪魔してごめんね。」

「ちょうど終わったところだし大丈夫だよ。片付けてくるね。」


 そう言って沙枝は響夜に背を向ける。最後にちらっと見えた響夜の顔が、笑っているように見えた。


〈へえ…。〉

〈ん?どうしたの、《炎花》まで。〉

〈いやー?こっちの話。〉

〈なになに?みんななんか変だよ。〉

〈まあ、沙枝もすぐに分かるよ。〉

〈そうなの?なーんかやな感じ。〉

〈まあまあ。ここで私が言ってしまったら、彼に悪いし。〉

〈…?〉





 しばらくすると燥耶が帰ってきた。いつものように燥耶が鍛錬をするのを、いつものように沙枝は近くで見守る。まるでその光景は、社での毎日の再現のようで。あの時と同じ安らかな気持ちを、沙枝は覚えていた。しかしこの時は、いつまでもは続かないと、沙枝はもう知ってしまっていたから。嵐の前の静けさだと、痛いほど分かってしまっていたから。少しでも長く、この時を楽しみたいと思っていた。

 目の前には、《炎花》とともに舞う燥耶。形作る炎の筋の残像が、沙枝の眼にいつもより長く焼き付いた。

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