無言で見つめる壁
「着替えるから絶対こっち向かないでね!」
レビの号令のあと、恵はそう言いながら奥のタンスの方へ向かって走った。
イブは部屋中のぬいぐるみを集めてきて、何やら話かけているようだった。
(あの子大丈夫かな…。)
司はイブの不思議な行動を心配しつつ、レビと一緒に恵の言い付けどおり、木の壁を見つめた。
バキバキ!!
壁を見つめる司とレビの背後から、物凄い音がして司とレビは反射的に振り返る。
すると、いつの間にか昼寝を終えたデン爺が、素手でパソコンを粉砕していた。
そのデン爺の奥では、恵が何故か巫女装束に着替え中だった。
ちょうど黒いタイトスカートを降ろしおり、白いショーツが目に飛び込んできた。
「見ないで!!」
恵は一旦スカートを上げ直し、焦って声をあげた。
司とレビはまたすぐに壁の方を向いた。
一瞬の沈黙の内、気を取り直しレビが言った。
「えーと、、デン爺。パソコン壊して大丈夫だっけ…。」
レビは壁を見つめたまま言った。
「ハードにはデータは残しとらんけど、念のための。」
「あー…。はーどにはね…。」
「レビさん。なんで恵はわざわざ動きにくそうな服に着替えてるの?」
司はこそっとレビに聞いた。
「おっ、おう。慣れた服装や道具だと、能力をより引き出すことができるからね。」
「なるほど…。」
数秒して、レビの顔がきりっと真剣な表情に変わる。
「仕度しながら聞きな。最優先は恵と司の次拠点までの保護。」
「先頭は俺、真ん中にイブと司を背負った恵。後ろにデン爺。お互いの距離は10M程度。俺は高速移動しながらの探知はせいぜい5、60メートル程度だから、そこんとこよろしく!」
後ろを振り返ると、恵は巫女装束に着替え終わっていた。イブは部屋中のぬいぐるみを手に抱えている。
恵は司を背負うために腰を曲げた。司は遠慮しながら恵の背へと乗った。
細身の華奢な体についた僅かな脂肪が、女性特有の柔らかさを感じさせた。
「はい40秒!!行くよ!」
レビは腕時計に目をやったあとに扉を開け、勢いよく飛び出した。
女性に背負われるなんてみっともな…。
と、思う間もなかった。
疾ッ。
まるでチーターのようなスピードで、恵は森の中を司を抱えて疾走していく。
景色がビュンビュンと後方へと流れていく。
司は振り落とされないように夢中で恵を掴んだ。