運命とは
北条恵はそういうと、部屋の隅に立て掛けてあった、いくつもの鈴がついた金色の棒を持ち上げ目の前にかざす。
そして、シャリンと音を一回鳴らすと目を瞑った。
司は北条恵を改めて眺める。
黒髪のロングヘアーに、整った顔立、大きな目、透き通るような白い肌、少し厚めの唇…。
(綺麗だ…。)
その美しさと、一連の所作に思わず見惚れる。
北条恵は暫くして目を開けると、スラリとした白い手を古い木箱に入れ、一枚の紙を取り出し読み上げた。
「プリンを得る。」
北条恵はそう言って、司に引いた紙を見せた。確かにプリンを得ると書かれている。
「……。」
司は間の抜けた結果に言葉を失う。
「これ…。」
北条恵の左手には、いつの間にかカッププリンが握られていた。
「おぉー。」
司はマジックを見た時のような、軽いリアクションをした。
「私の能力は本来の運命に対して、足し、引きを強制的に加え運命を変えることができます。」
北条恵は、司の微妙なリアクションに納得がいかなかったのか、少し早めの口調になった。
「運命とは、「思い」が「行動」となり、「行動」が「習慣」となり、「習慣」が「運命」となるように、徐々に手繰り寄せていくものです。」
「この能力も長い時間と鍛錬の末、力を増していき、より大きく運命を変えることができます。ただ、いささか今回のように乱数が大きい…。」
「何を言ってるのか、全くわからないんだけど…。」
北条恵が発する言葉に理解が追いつかずに司が混乱していると、ノックに続けて扉を開ける音が聞こえ、黒いスーツを着た、赤髪の男が現れた。髪は短く、涼しく精悍な顔が見るもの好印象を与える。また、そのスタイルの良さも相俟って、少しの色気も湛えている。
その男の脚の後に隠れるようにして付いてきた少女が、おどおどと丸い顔を覗かせた。9、10歳ぐらいだろうか。手には手編みの女の子のぬいぐるみを大事そうに抱えていた。