最後の夢
死ぬことに後悔はなかった。
元々、やりたいこともなかった私に、未練なんてひとつもなかった。
上辺の愛に情はないし、上辺だけの友に楽しさなんてない。
演技なんてできなかった私は、すぐに飽きられ、暴力、いじめに発展していった。
最初は食事がでなくなった。冷蔵庫にはなにも入っていないから私はただただ空腹に耐えるだけだった。
最初は無視された。誰もが私をないものとし、そこには先生も加わっていた。友達とも思っていないし、興味のなかった私は、なにも感じなかった。
次に、電気がつかなくなった。家にあまりいない両親が電気のもとを切ったようだった。暗闇になれていた私は、月明かりだけで夜を過ごした。
次に、机がなくなっていた。幸い、教室に行く前にトイレに行っていたから、机は見つけたけれど、匂いは消えることはなかった。
次は水が止まっていた。毎日水を飲み、お風呂や洗濯をしていたので、一気にできなくなった。近くの川へ行って、お風呂にはいるのではなく体を拭いて、洗濯は手洗いに変わっていった。
次はゴミだまりになっていた。机には溢れんばかりのゴミ、そしてその回りにもたくさんのゴミがあり、そこは座れる状態ではなかった。
最終的には家でも学校でも暴力を受けるようになった。殴られ、蹴られ、階段から落とされたこともあった。
母だけでなく、父も暴力を振るってきた。お前なんて生まれてこなければよかった、なんて。それならどうして私を産んだのだろう。
女だけでなく、男も暴力を振るってきた。空き教室に閉じ込められたこともあった。
どうして殴られるんだろう。
どうして蹴られるんだろう。
…もう、ナニモイラナイ。
私の足は自然と上に向いていた。ドアに鍵はついていなかった。
キーという甲高い音を立ててドアを開ける。フラフラと私はそこから外に出た。
屋上からの眺めはまぁまぁだった。夕日はよかったが、それだけだった。
私は網を登って内から外に出る。眺めがクリアなった。
フワリと風が吹く。ビューと音も鳴っていた。
ふと、下を見てみた。そこのは誰もおらず、ただ地面があるだけだった。
そういえば、私には夢があった。
飛行機にも乗ったことのない私は、空を飛んでみたかった。気持ちのいい風を浴びて、重力を感じず、自由になりたかった。
今日、私はその夢を叶えるのかもしれない。
少しずつ、一歩一歩、足を出していく。その度にたまぬるい風が吹いて、気分が悪かった。
…こんなことをする必要はないか。
私は足を止めた。
深く、深呼吸する。
何故だか、だんだん笑いが込み上げてきた。
「っふふ…ははっ!あははははは!」
私は笑う。ただ笑う。
笑い声がおさまっても、笑顔は消えることはなかった。
恐怖なんてもうない。いい気分だ。
私は飛んだ。一瞬の無重力。そしてすぐさま真っ逆さまに落ちていく。それでも笑顔は消えなかった。
「ああ、楽し」
ニッコリと笑ってそう言う。
私は最後に最高の夢を叶えて、肉片と血だまりと化した。




