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連国記  作者: なつ
2/3

イリス・騎士の国


 イリスの紋章はイリス騎士団のもの。

 そして、

 イリス騎士団はイリス王国の正当なる騎士にして、強く、尊い。


                  イルデンバーク老王「未来記」より



 1


 昼下がり、ワンピースを着た少女が、手入れのよく行き届いた街路を走っている。腰の周りの大きなリボンが、少女の走りに合わせるようにはたはたと揺れている。少女の表情は、ちょうど空を渡る太陽のようにまぶしく輝いている。

 ふっと立ち止まると、少女はその太陽を見上げるように顔を上げる。まぶしさを遮るように手を額に当てると、鳥たちが空を横切るのを見送る。視線は自然とその鳥を追い、小さくなっていく先に時計塔がそびえている。

「うん、満足満足!」

 少女は立ち止まると、腰に両手を当てて胸を張った。

「リュート、今日もお使いかい?」

 ちょうど角の、出店を仕切っている女性が少女に声をかける。体格のいい女性は、リュートと呼ばれた少女の、ちょうど母親くらいの歳だろうか、少しよごれたエプロンで手を拭きながら、リュートに手を振る。

女将(おかみ)さん、こんにちは。お使いじゃないのよ、何度言ったら分かってもらえるのかしら。だって、私は使われているわけじゃないわ。自分の意思で動いているんだもの」

「それで、少しは元気に?」

 それにはリュートはただ笑顔で答える。

 角の先には少し開いた広場になっていて、中央に小さいながら噴水がある。煉瓦づくりのその周りには、リュートと同じくらいの少年や少女たちが、やはり笑顔で走り回っている。それをうらやましいと思えるほど、リュートは幼くなかったが。

「ほら、これをあげる」

 女性は、自らの店先にあるリンゴを一つ持つと、リュートに向かって放物線を描くようにそれを投げた。急なことに驚いたリュートは、ぱっと体を動かすと、リンゴを落とすことなく上手に手につかむ。

「ありがとう、女将さん」

「前途ある若者は、とにもかくにも腹を満たしておけ。これ、うちのだんなのモットー」

「聞き飽きた」

 もう一度リュートは笑う。

 けれど、その笑いを打ち消すように、女性の表情が急に曇った。リュートはその代わりぶりに驚き、彼女のすぐ近くに駆け寄る。

「あいつらだよ。まったく、何様のつもりなんだか」

 顎で広場の一角を指す。リュートがそちらに視線を向けると、かなり体格のいい男が二人、まだ太陽が高いというのに、明らかに酒に酔った表情をしている。

「誰?」

「イリスの騎士様さ」

「あれが?」

「あれも、さね」

 リュートがその様子を見ていると、彼ら二人は何事かを叫びながら、広場を駆け回っていた少女の一人を捕まえる。少女が嫌がる素振りを見せるが、男の力に敵うはずもなく、軽く持ち上げられる。

 少女の悲痛な叫びは、けれど誰の耳にも届いていない。他の子どもたちはすでに広場から隠れ、偶然に居合わせた大人たちは、ただ見ているだけだ。

「!!」

 走り出そうとしたリュートの腕を女性はしっかりと掴む。

「何をするの?」

「気持ちは分かるが、それはだめだよ、リュート。私たちの国はイリス騎士団に守られているんだ。逆らうなんてこと、してはだめ」

「だけど、そんなのって?」

「私たちだって、そりゃ、最初は文句も言ってやったさ。でもね、それで捕らえられた人がもう何十といる」

「私は、だからって何もしないなんてできない。それなら、捕まったほうがましよ」

「あなたには帰りを待ってくれる人がいる」

 その一言に、リュートの体は止まった。まるで鎖で縛られたように、動くことができない。彼女が帰らなければ、あの人は一人でどうなってしまうのだろう。

 広場から、男二人は姿を消した。

「とにかく、絶対に早まったことをしてはだめだよ」



  2


 西の方、上弦の、月からの矢は何度彼の胸を貫いただろう。とうに朽ち果てたはずの彼の肉体は、彼の愛娘イルフィンの、げに恐ろしきかな、黒魔術によって失われることがない。かつてはルードと呼ばれた国の、イルデンバーク老王は疲れた体をベッドに休め、西に浮かぶ月をただぼぉと見ていた。

「おじいちゃん」

 いつもなら、元気よく扉を開けて入ってくるリュートが、今日は珍しく音も立てずに部屋の扉を開けてそこに立っている。

「おや、どうしたんだい。めずらしい」

「この国は淀んでいるわ。できるなら早く旅立ってしまいたい。まだ元気にならないの?」

「そろそろ、魔術の力が落ちてきたのかも知れんな」

「そんな話、もう何百回と聞いてきた。だけど、1年もすればいつも元通りじゃない」

「何の保障もない。どうしたんだ?」

 再び彼は彼女に優しく声をかける。

「まだ旅立てないなら、私、一人でも行くわ」

 その発言に驚いた彼は重たいはずの体を無理やり起こす。それ以上に驚いた彼女は駆け寄ると、その体を支える。

「もしも、の話。もし、私がいなくなったら、おじいちゃんはどうするの」

「お前がいなくなるなら、わたしもいなくなるだろうな」

「嘘。一人で旅立つなんてことはしない。でも、もしかしたら、しばらく帰ってこないかも」

「恋人でもできたのか?」

「ばか。そんなはずないでしょ。私なんかを理解してくれる人なんていない。それはおじいちゃんだけよ。でも、もし、しばらく帰ってこなくても」

「わたしはここで待っているよ」

「だから、もしそれが長くても、いなくならないって約束してくれる?」

「不思議なことを言う子だ」

「たまには我が侭もいいでしょ」

 それから彼女は笑うと、いつもの陽気さを取り戻し、食事を彼に与える。それから、西の窓から見える月を一緒に見ながら、昔の旅の思い出に花を咲かせる。



  3


 鷹が広く両翼を広げ、その鋭い脚には王冠が、まるでその上で踊っているように、握られている。ただのシルエットだというのに、立体的で、力強く白地の布の上に存在している。

 イリスの紋章。

 イリス王国の若者であれば、誰もがあの旗の下で戦うことを望むであろう、この国の象徴にして、宣伝の要。

 勇者ハルザードが、かつてこの国の危機において、その旗印を持ち、奇跡的な勝利を得たときから、今年でちょうど300年。今なお、ハルザードの鎧と剣はイリス王国の宝物庫の中央に、燦然と飾られている。

 騎士団に入団し、3年の勤勉な就労の後に、一度だけその輝きを見たウルフィは、未だその興奮冷めやらぬ様子でこう語る。

「あれこそは、すべてのイリス国民の誉れ」

 彼は今年、勇者ハルザードの300年祭の警備に当たる一人だ。その一人に選ばれたことでさえ、誇りである。

「わが生涯のすべてを賭して、その職務にあたらん」

 教会で彼は言う。

「これがこの国の最高の宝であることは、この国のものであれば誰もが知るところ。さあれば、なんぞ、危ういことがあろうか。誰もがこれを愛でることあれ、これを奪おうとするものなぞあるまい」

「誰もが、ウルフィよ、お主のような心の持ち主であれば、警備など必要ないであろうよ。だが、そうではないということは、お前も知っていよう。そうでなければ、勇者なぞ、この世に存在せぬよ」

「言葉が過ぎませんか」

「これは失礼。だが、私のような職務にあたるものは、時に人から悪と思われるようなこともせねばならんのだよ」

「あなたの性格は以前からよく知っています」

 教会の狭い部屋の中で、彼は鞘に納まったままの剣を抜く。

「願わくは、これを使うことなどないにこしたことはない。此度の我が使命、司教様は、その故をご存知なのでしょうか」

「その故、とは?」

「勇者ハルザードの装備を、誰かが狙っているという情報は?」

「わたしは知らぬよ。だが、警戒するにこしたことはない。特に、敵国からすれば、士気を高めるために、この装備を奪うに適うものはない」

「そうですね」

「ああ、すまない、次の者が見えたようだ。どうか、私も、その剣を使うことなく無事に式典が終わることを祈って居るよ」

 彼がその狭い部屋から出て行くと、入れ替わりで小さな少女が入ってくる。シンプルなワンピースに大きなリボンが一層彼女を押さなく見せている。

「司教様、いらっしゃいますか?」

「ああおるよ。どうされたかね」

「イリスの騎士団は、正義でしょうか?」

「……難しい質問だね。何かあったのかい」

「私は、多くの国同士の、愚かな戦争を見てきました。私の故郷も、今はもうありません。一時期どれほど栄えようとも、それは見せかけの偽りでしかない」

「今、この国は平和に満ちている。それはイリスの騎士団のおかげではないかね」

「全体として正義でも、それは安定しない。ということを、私は知っている」

「お嬢さんは、イリスの何を知っているのだね?」

「いいえ、何も。どこも同じ。ただ、今はこの国にいるだけ」

「その小さな体に、とても長い過去を感じる」

「司教さまは、さすがでございます。イリスの騎士団は正義でしょうか?」

「わたしは正義だと信じている」

「もし、彼らに歯向かうことになったら、私は悪でしょうか?」

「……」

「正義の裁きにより、私は罰せられるでしょう」

「お嬢さんが悪のようには私には思えぬ。何をしようとしているのだい?」

「イリスの一部には、確かな悪が根付いている。それは、騎士団の中でも同じ。わたしはそれを見過ごすほど、優しくない」

「わたしは否定も肯定もしたくない立場にあるが、もし、お嬢さんが大事を起こそうとしているのなら、止めたいと思うよ」

「司教さま。私は見かけほど弱くないわ。もしそれで、この国が滅んでしまったとしても、私は後悔しない」

 司祭は、笑うべきではないと判断したが、言葉を発することができなかった。やがて、狭い告解の部屋から少女の気配が消える。

 少女が何をしようとしているのか、司祭には分かりようもなかった。



  4


 ……御霊よ、東の方より来たりて、わが祖国を守り給う、

   延々と遅々と進みたる霊脈の、果てることなきがごとくに、

   この国を、真に千年、万年と。


 コーラスが開かれた城下の中央広場に木霊(こだま)する。イリスの国歌が聖歌隊とそれを取り巻く楽団によって奏でられる。

 南天する太陽のやわらかな光が、コンダクターの指揮棒に反射し、四方、八方へとその光を拡散する。やがて収束する音に合いクロスするように、取り囲む国民の歓声と拍手とが、一層に大きな音を、広場を越えて響き渡る。

 騎士団が王宮の門から姿を現し、列をなして広場を練り歩く。

 やがて、その最後尾にイリスの騎士団の誉れ、勇者ハルザードの鎧と剣とが姿を現した。300年の時を経てもなお、その輝きが衰えることはない。鮮やかな白の輝く甲冑に、深紅のマントが、台座の上で揺れている。

 広場の喝采は最高潮に達した。



 それを客観的に、感情のない目で眺めていた一隊があった。次の瞬間、彼らは音を立てることなく行動に移す。

 屋根から屋根へ、まるで着ている鎧などないかのごとくに。

 城門の、やや高い位置から彼らが広場へと飛び降りたとき、勇者ハルザードの鎧と剣は、まさに彼らの正面にあった。

 ウルフィは、それがさらに音もなく近づいてくるまで事態を把握できなかった。彼らの鎧は、そう、この国のものではない。イリス騎士団が身にまとうものではない。

「て、敵襲だーぁ!」

 誰かの叫び声で、ようやくウルフィの頭が働く。彼らと鎧の間にはウルフィを含めて4人しかいない。彼らの数は、およそ10。この瞬間を彼らは待ち構えていたのだ。

 ウルフィはとっさに剣を抜いた。

 が、そのときにはすでに彼らの半数が、ウルフィの脇をすり抜けていた。

 勇者ハルザードの鎧と剣。

 そこに最初の手が掛かろうとした瞬間に、その間に光が落ちる。

「ちがーう」

 その手を払いのけたのはリュートだった。

「わ、私はこんなことのために、これを見張ってたんじゃなーい」

 叫びながら、リュートは身体を反転させ、目の前の相手のみぞおちを両手で突き放す。けれど、まだ彼ら全体の動きは止まらない。

 二度、三度とリュートはハルザードの鎧の前で相手をいなす。

 一人だけ、今までとは違う鎧を着た男がリュートの前に立った。

「じゃまだ、小娘、俺の前に立つなら、俺は遠慮しない」

 彼は剣を抜いた。それだけで、リュートの身長を越える長さの剣だ。

「私だって、もう、予定外なんだから」

「それでは遠慮せずに」

 リュートは相手の目を睨む。そこには強い意思がある。かなりの強い思いがあって、この勇者ハルザードの鎧と剣を奪いに来たのだろう。確かに、これが盗られるようなことがあれば、イリス騎士団の威信にも傷がつくだろうし、それよりも士気に大きな影響が出る。リュートは、これまで転々としてきた世界から、戦において士気ほど大切なものはないことを知っている。

 目の前の相手が、このわずかな人数でことに及んでいるのも、それだけ士気が高いからだ。

 だからといって、これを奪われるわけにはいかない。

 リュートは一歩引くと、勇者ハルザードの剣を取った。リュートの身長を越える、もう、300年は前のものだというのに、未だに錆のない、剣。

 それを振り上げると共に、リュートは相手との間合いを一気につめる。

 剣同士がぶつかる音が、広場に響いた。

 それは悲鳴に似ていて、とても悲しい音だ。

 勇者ハルザードの剣が空を舞い、空しく、地面に突き刺さる。

「俺たちに逆らったことを後悔せよ」

 剣がリュートの左胸を貫く。



  5


「……主の御許へ」

 司祭の静かな声が、それでも教会に響き、壮大な葬式は幕を下ろした。それでも、まだ教会の中には、多くの参列者に溢れている。

 勇者ハルザードの鎧と剣とを守った英雄にして、

 その命を失った聖女、リュート。

 その名は、イリスの国が続く限り連綿と伝え語られることだろう。あの、300年祭の様子を目の当たりにしたものであれば、語らずにはいられないほどの、奇跡であった。

 あるものは、それを天使だと評するだろう。

 リュートがいなければ、イリス騎士団の団長クラスの、つまりはその乱を治めることになる騎士の到着は間に合わなかっただろう。

 ウルフィは、その最後の参列者であった。

「司祭様、自分の無力さを改めて知らされました。自分の生涯を賭して、勇者ハルザード様の鎧を守ると誓っておきながら、愚かなことです」

 司祭は何も答えることなく、ただ、棺に横たわっているリュートの表情を見ている。まるで、まだ生きているかのような、色めき。

 けれど、その心臓が動いていないことは明らかだ。

「すまない。自分が未熟だったばかりに、君のようなものを犠牲にしてしまって。君が、最後まであれに抗ってくれていたから、こうして自分たちは今、ここにいられるんだ」

「もしも、そう思っているなら、少し付き合って欲しいんだけど」

 リュートの口が動いた。ウルフィは、自分の目と耳を疑う。

「し、司祭様!」

「彼女は死んでいるよ。明らかなことだ……それも、今日、昨日の話じゃない。おそらく、何千年も前に、その心臓は役割を終えている」

「そうなの」

 リュートの瞳が開き、ウルフィを見る。

「多くの人に知られるわけにいかないから、あなたが最後なのでしょ?」

「信じられない」

「信じてもらえなくて結構。どうせ私はもうこの国にいられないのだもの、出て行かなければならない。だから、司祭様にはすぐにこうして葬式を開いてもらったのよ」

 リュートは、その半身を棺から持ち上げる。

「私には、この国に残してきた大事な人がいる。その人の面倒を見て欲しいの」

「分かった、いいだろう」

「あら、ずいぶん物分りがいいのね」

「それだけが取り柄でね」

「イルデンバーク、この名前を聞いたことがあるかしら」

「伝説のルード王、建国の父、だったか」

「そのまさに本人なんだけど、最近すっかり年老いてしまって」

「……それは絵本の話?」

「だから、私はその時代からこの世界にいるのよ」

「とにかく、その人の面倒を見ればいいってこと?」

「そう。それと、見たところあなたイリスの騎士団みたいだけど」

「そうだ」

「イリスの騎士団は、今、弱っている。このままじゃあこの国を守れない。原因はうちにあるわ。あなた、どうにかして」

「それは、頼まれたところでどうにかできるか分からないけど、な」

「そうじゃないと、何とために私が犠牲になったんだか分からないもの。それに、死んだはずの私が、彼らを今から脅かしに行くんだから、後始末をお願いしたいだけ」

「はあ、それは面白そうだな」

 司祭が咳払いをする。

「そういうわけだから、お願いね」

 さっとリュートは棺から立ち上がると、ほとんど音を立てることなく教会から出て行ってしまった。



  6


 イリスを騎士の国だと表現するも者がある。それは概ね正しい解釈といえるだろう。だが、本質とは少しの乖離がある。イリスの歴史において、勇者ハルザードが国家の危機において騎士の立場にあって国を救った話がある。それ以降の長くのときを、イリス繁栄のときというならば、その時代は騎士の国であった。

 けれども、騎士が必ずしも正義ではない、とうことも覚えておいて貰いたい。その活躍が故、平民から貴族へと階級があがり、一層騎士の地位があがった反面、愚かにもその地位を悪用するものが現れた。

 それが、勇者ハルザードの300年祭のときに爆発したといえるだろう。

 このとき、聖女リュートがその命を落としてまでもこの危機を救ったといえる。

 そこから、イリス第二の繁栄が始まる。



「それで、どうしてあなたが私についてくるの?」

「仕方がないだろ、そう命令されたんだから」

「私も命令したはずなんだけど」

「君は確かに命の恩人ともいえるけど、伝説上の王に命令された以上、そちらの(めい)を優先させるのは騎士たるものの務め、だろ?」

「だろ? だって、もう、格好悪いったらないわ」

 イリスの国から離れ、遥かな高原をリュートは歩いていた。その隣には重苦しい鎧をまとったウルフィが付き従っている。

「私はおじいちゃんとの旅がこれで結構好きだったのに。あの男め、さては私がお荷物になったな」

「そんな方じゃないことぐらい、君にだって分かってるだろ」

「ええそうね、分かってるわ」

 立ち止まり、頬を膨らませながらリュートがウルフィを睨む。

「それにしても、あなたも酔狂よね」

「何が?」

「いくら命令だからって、私を追ってくるなんて」

「イリスの汚い部分を見てしまったから。でも、酔狂ってほどのことか?」

「私は死んでるのよ?」

「分かってる」

 リュートはため息をつきながら、再び草原を歩き出す。

「きっと、分かってないわ」

「うん? 何か言った?」

「何でもない」

 おじいちゃんも意地悪な人。次にあったら、絶対びんたを食らわせてやるんだから、とリュートは微笑む。

「馬鹿にした?」

「あなたのことじゃない」

「ウルフィ」

「何?」

「名前、ウルフィ。これから先長いんだから、名前を覚えてもらおうと思ってね」

「そう、それじゃあ私はリュート」

「あらためて、よろしく、リュート」

「あなたが、私に様をつけるようになったら、私も名前で呼んであげるわ」

 今度はウルフィがため息をつく。


 イリスの繁栄は、この先も続いていく。強く尊い、イリスの騎士団がある限り。



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