本の話
母親は表紙のページを開き、右側にかかれた数行の文章を朗読する。
「ここは魔法使い達が住む世界
これはそんな魔界で起こった、悲しい戦争のお話しです。
ページはめくられる。
すると見開きで地図が縮小して書かれてあり、右ページに左手で火を操る黒魔導師の絵
左ページに辺りを明るく照らす白魔導師の絵が描かれており、両端に小さな村と城があり、更にその間は大自然とオアシスが何ヵ所かあった。
母親は淡々と朗読する。
「以前黒魔導師と白魔導師はとても仲が良く暮らしていました。
大切なオアシスの水も分け合いながら共に暮らしていくいわば家族・仲間でした。
ある黒魔導師は暗い洞窟に仕事に行くため、白魔導師に光を照らす魔法を唱えてもらったり、ある白魔導師はか自分ではなかなか火がおこせないので、黒魔導師の人につけてもらったりと、本当に幸せで楽しい生活が長らく続きました。
白魔導師と黒魔導師同士で結婚して、子供が産まれることも当たり前のように思っていました」
次のページが開かれる。
見開きのページで先程と同じような地図がかいてある。
だが、オアシスが一つも無くなっていた。
黒魔導師達は氷を剣のように構え、白魔導師は光の楯で身を隠している。
「ですがある日の事です。
あっという間に三つのオアシスは枯れ果て、原因もわからないと言う大惨事が起きました。
そして黒魔導師達の研究者は、オアシスについて調べることになり、白魔導師はその補助をする事になりました。
そして白魔法と黒魔法を合わせたある魔法が新たに完成しました。
名前は未だかつて誰も聞いたことがないと言います。
その魔法は白魔法が水辺の近くの次元に穴をあける。
その間に黒魔法でその水を倍増させ、オアシスを元に戻そうと言う作戦でした。
実行の準備は着々と進み、何の問題も生じないまま作戦実行の そしてその当日がやって来ました。
何かあったときのために黒魔導師は騎兵隊を500人程出し、白魔導師は救急隊を600人出しました。
準備は万全で当日の天候も良く、皆は作戦は成功するものだと思っていました」
そしてまた次のページが開かれる。
そこには様々なモンスターと戦う騎士団と、それを援護する援護部隊、更に怪我をした人を処置する救急隊のえが描かれている。
「作戦当日、多くの民に見守られる中作戦は開始されました。
先ずは白魔導師達で次元を歪ませ穴を開ける。
ここは素晴らしいほどに成功し、時間も思ったよりかからなかった。
さて次は黒魔導師達総勢30名が、呪文を唱え始める頃には辺りは緊張のせいか沈黙となっていました。
合掌が終わり、あとはオアシスが出てくるのを待つだけ。
多くの民がまだかまだかと待ち望む時だった。
だが、現実は残酷な結果になってしまいました。
なぜならオアシスがでできたのではなく、今までこの世界に居なかったモンスター達が次々と出てくるのをそこにいた民ふくめ皆が目の当たりにした。
直ちに次元を復元しようと黒魔導師達は頑張るが、モンスターに襲われそれどころではなかった。
騎兵隊も手にあわず、怪我をしていく人たちはどんどん増える一方です。
戦う力のない白魔導師達は一層被害が増していきました。
やっとの事で次元を修復させ、これ以上モンスターが増える事は無くなりましたが、体力も無いまま黒と白で別れて一旦町に戻る事にした。
白魔導師の白の国は光の壁を作り、モンスターの町への侵入を防いだ。
黒魔導師は高い壁を作り、モンスターの町への侵入を防いだ。
白と黒は離ればなれになり、以後国の中で一番強い者だけが国と国を往き来出来るまでに落ち着いた」
そして次のページがめくられる。
見開きに最初の様に地図がかいてあり、右ページの黒の国は高く塀が書き込まれている
左ページの白の国は白い壁のような物が半透明に描かれており、真ん中は砂漠と化していた。
やがて、モンスターは森林を壊し辺りいっぺんを砂漠に変えてしまいました。
ある日、白の騎士が国の様子を伝えにいくと、黒の国王はこう言いました。
こうなってしまったのも全て白魔導師のせいだ。
人口は以前の2分の1までになり、食べ物は農作物ばかり、水もまともなのも飲めない。
白魔導師はあのとき、本当は水辺の近くではなくモンスターの巣にでも次元を通したんだろう。
そういうと黒の国の国王は怒鳴り付けました。
私達は白魔導師に宣戦布告を申し立てる! この国にいる白魔導師を全て排除する!
白の国はそれを反対したが、黒の国の意思は硬く、結局冷戦状態となりました。
パラリ
次のページだ。
今度は左側に幼い子供と母親が大勢の人に冷たい目で見つめられているえが描かれていた。
黒の国は白魔導師を断固反対し、黒魔導師と白魔導師で、結婚したもの達を無理矢理向こうへ送ったり、どちらも混ざった子供は選べられる選択肢は『粗末な扱いをされ生きて行く』か『死刑』でした。
白魔導師達もそんな事をされては黙って居られない、黒魔導師に宣戦布告を申し立てました。
今ではすっかり人口も戻り、農業だけでなく、魔法道具などを製造している。
次のページにいどうする。
そのページには数多くのお墓に、花束を置く女の人の絵が描かれていた。
今に伝えることは、絶対に黒魔導師を許してはならないこと。
黒魔導師は私たちの末裔を見殺しにした犯人なのだから」
と書かれてあった。
母親は本をパタンと閉じ本を指定の場所に置くとアリアと向かい合って、真剣な眼差しでアリアを見つめる。
「アリア、いい?黒魔導師は怖い人なのよ、だから近づいちゃダメ!特にあそこの森へは入ってはダメ!良いわね?」
「はい」
アリアがそう言うと母親はアリアの頭を優しく撫でて、また、仕事に戻っていった。
アリアもまた、その部屋を後にした。
机にはあの本が寂しそうに置かれていた。
その数分後、何者かの影がその本に近寄ってきた。
その人影は部屋が暗くなってきたためか、持っていた蝋燭に火を点け、机にあった本を拾い上げた。
その人物はデーゼだった。
蝋燭を机の上に置くと、本の表紙をなぞりページを次々と捲ってゆく。
すると、魔導師達が戦っているページを出すと深くため息を吐き本を閉じて机の上に置くと、そそくさと部屋から出ていった。
丁度部屋から出ると仲間のメイドが通りかかる。
「あら? デーゼどうしたの? 顔色悪いわよ?」
深刻そうな顔をしていたデーゼをみたメイドは心配そうに顔を覗き込む。
「大丈夫よ、さぁお風呂の準備をしましょう、今から掃除しないと間に合わないわ、他の三人も呼んでくれる?」
「ええ、分かったわ、でもあんまり無理しないようにね、デーゼったら何でもかんでも自分で無理しちゃうんだから」
そう言うと他のメイドは過ぎ去っていった。
デーゼは蝋燭の火を息で吹いて消すと、その部屋の鍵を閉めたまま自分の手に巻いている右手のバンドに目線を会わせる。
(いつから私はこんな卑怯な魔法使いになったのかしら……)
デーゼは心のなかでそう呟くと、鍵が掛かった事を確認し、その部屋を睨みながら仕事に戻っていった。
階段を降りた所にはシャンネイスが手すりに座って、デーゼが来るのを待っていた。
「いつまで隠すの?」
「さぁ? いつまで隠せるかしらね」
デーゼは無関心のように目をつぶり、すれ違い様にそう答える。
「アリアにまで隠し通せると思う?」
その言葉を聞き、驚いた表情を見せながら一気に振り返るデーゼの動作を見てシャンネイスは目の前にある大きな窓から空を見上げた。
「驚いたなぁ、デーゼがそんなに取り乱すなんて……でもアリアだってそんなにバカじゃない……もしも全てばれたとしても、それでどうゆう事ないと思うけれどな」
「バカね……それが一番危ないのよ、……もしばれたらアリア様が私を避けるようになる、それが本当なのよ」
「……やれやれ君は結局どうなりたいのかわからないね……」
「……」
「……」
お互い見つめ合い、沈黙になる
「……ところで……今晩のおかずは?」
「……意味の分からない事をほざく奴にはやらないわよ」
「えぇぇええ!?」
黙々と進み始めたデーゼにご飯のおねだりを必死にするのであった。