森の手招き(絵あり)
「運命は忽然に訪れる、避けられない運命に抵抗する術を貴女に与えましょう……」
「私と共になる術を貴女に与えましょう」
「きっと彼との出会いは私の貴女の間を引き裂く事になる」
「私は貴女を信じましょう……」
コンコン!
「アリア様朝ですよ。」
朝、一番にメイドがアリアの部屋をノックした。
「はい」
アリアは既に着替えており、扉が開くと同時に出てきた。
「おはようございます、さーお母様に挨拶に行きましょう。」
「おはようデーゼ……うん」
アリアはデーゼの後を小走りで付いていく。
ここはいわゆる魔界
その中でも黒魔導師と白魔導師がいる。
アリアは女王白魔導師の一人娘だった。
父親は何年も前に息を絶ったらしい。
「お母様おはようございます」
「おはようアリア、今日も元気ね」
アリアと同じ金髪の髪を腰まで流し、お茶を飲んでいるのがアリアの母、この国の女王メイだ。
「今日も夕方からあの絵本を読みましょうね? とても大事なお話だから、さぁ、あの言葉を言ってみて? 」
アリアはまたいつもの事だと思い抵抗せず胸の前で手を組みその言葉を口にした。
「はい、お母様、私達白魔導師は黒魔導師を許しません、黒魔導師は私達の敵です」
アリアがそういうとメイはにこやかに笑みを浮かべ、アリアの頭を撫でた。
「フフ、よろしい、さぁまだ朝食まで早いからお部屋にいらっしゃい」
そう言い残すとメイは誰かに呼ばれその場を立ち去った。
すると近くにいた先ほどの青い髪を背中まで伸ばしているデーゼがアリアに話しかける。
「さぁ、アリア様遅れますよ?お供しますのでお部屋へ戻りましょう、朝食の用意が出来たら声を掛けます」
「私一人でも大丈夫よ? お部屋はすぐそこだもん」
「ですが……あらら」
アリアはデーゼの言うことは耳に入っていないようで、すぐに部屋へと戻っていった。
デーゼはその走る後ろ姿を見て、少し寂しそうな表情をしながら自分の仕事に入っていった。
「えーっとー、ハンカチにこの間のお菓子にあと……」
物が詰め込まれた鞄をアリアは少し重そうに持ち上げ、ベッドの下に隠して、朝食の時を待った。
その後すぐ朝食の準備が整い、声が掛かると先程のメイドと一緒に大広間へ移動する。
「ねぇ、デーゼ」
デーゼとはこの城で長く勤めている、アリアの側近のメイドだった。
「どうしましたか?」
にこりと微笑みながらアリアに視線を向けるデーゼ。
「今日の部屋のお掃除は夕方にして欲しいの……良いかな?」
いつもは午前中に済まされるアリアの部屋の掃除を午後にして欲しいと言うアリアの要望に、デーゼは少し頭を傾げ不思議そうに問いかける。
「え? どうかなさいましたか?」
「あ、あの、あのね、朝は魔法の勉強もしたいし、まだシャンネイスのお世話も出来てないから今日は二人で沢山遊びたいと思って……良い、かな?」
アリアがそう言うとデーゼはそれを快く引き受け、あの本を読む前、夕方頃に掃除に入ることと昼食も送らせる事をを了承した。
食堂へ行く途中の所々でお手伝いさん達に会うたびに、アリアは小さくお辞儀をする。
「あらアリア様! おはようございます」
「おはよう!」
いつもと変わらない風景、この後はご飯を食べてシャンネイスのお世話をして、お勉強をして、メイド達とお部屋で遊んで、夕方になったらあの本を読んで、夕食を食べて……。
全部昨日の繰り返しだった。
いろんな人達が声を掛けてくれる中、アリアは足早に大広間へ急ぐ。
食事をし終えると、デーゼの手を引きながら部屋へと戻った。
「アリア様!? そんなに慌てなくてもシャンネイスは逃げたりしませんよ?」
「ちょっとでも早く遊びたいの!」
「そ、それもそうですがぁ」
部屋の前まで走って移動するとアリアは早速ドアを開けて入ろうとする。
「このデーゼも遊びに御共致します」
「い、いいの! 今日は二人で遊びたいの! お願い!」
必死に訴えるアリアにデーゼは一つため息を吐き、承諾すると、仕事へと戻っていった。
「ふぅ……さぁて! 」
アリアが気を張ると近くの小さなベッドで寝ていた黄金の翼が生えた小さな白い龍に声を掛ける。
「シャンネイス! 行くよ!」
「キュゥ?」
不思議そうに頭を傾げるとゆっくりと翼を広げアリアの方に飛び乗る。
アリアはそれを確認すると先程準備しておいた物をベッドの下から持ち出し、窓に近づく。
窓には頑丈に鍵が掛かっていて、窓の向こうには鉄格子が張られていた。
アリアはその鉄格子の向こう側に見える町を眺めると、息を飲んだ。
「……よし」
アリアは部屋を出て、辺りを見渡しながら進み始める。
人影が見えると壁際に隠れるの繰り返しで何とか玄関前まで辿り着いた。
今の時間朝礼を行っているため、この時間がほとんど出入りが少ない、アリアはそれを知っていて思いっきり玄関を飛び出し、広い庭を走り抜ける。
門番も今は支度中のため、人手が薄い、アリアはそっぽを向いている間に門を越えきった。
バレないうちに坂を走り抜け、一気に町の前まで下りていった、そして、町にはいるための階段の前で足を止め、風景を見渡す。
「わぁああ!」
それは初めての外の空気だった。
空は青く澄んでいて、回りは家が幾つも建って、真ん中には大通りがあり、お昼はいつも賑わっていた。
まるで、一人旅でもするかのように心踊らせていた。
するとそんなアリアの気持ちとは裏腹に、シャンネイスは欠伸をしながらめんどくさそうに話し出す。
「良かったねー、今日は上手くいって、でも怒られちゃうよ? 今からでも戻った方がいいと思う」
全て棒読みなシャンネイスに対して少し膨れっ面になりながら、後ろを振り向いた。
後ろを見ればさっきまで自分がいた、高く聳えた城が見える。
「私……」
皆が見惚れる程綺麗な城だが、アリアにはそうは見えなかった。
アリアは目線を町に戻すと大きく息を吸い、一気に目の前にある階段をかけ降りた。
「わぁあ!」
振り落とされそうになるのを必死でしがみつくシャンネイスを傍らに全速力で走る。
家の中からは家族の楽しそうな笑い声、美味しそうな朝食の匂い。
珍しいものでもないのにアリアは辺りを見回しながら大通りを走り抜けた。
アリアが一気に駆け抜け、町の端まで来るとそこから先は川があり、小さな古い橋がある。
ここまで来るのに朝が早かったからか誰とも会わずにこれた。
その手前のおしゃれな家の目の前でアリアは足を止めた。
アリアは息を落ち着かせて、扉をノックした。
「叔母あちゃーん! きたよー」
「……」
中からは何も返答がない。
「今何時だと思ってるの……」
目を回しながら呟くシャンネイスにアリアもそうかと納得すると、周りを見渡し近くにあったお店の時計をみる。
約束の時間は9時、今は7時……早すぎていた。
「……やっぱり早いよね……」
困った顔をしているアリアを横目にシャンネイスは突っ込みをいれる。
「早すぎだよ」
アリアはこの家に住むおばあちゃんとパンを作る約束を密かにしていたのだ、最もおばあさんはアリアが城の娘だと言うことは知っていないのだろう。
「大体アリアは計画せずになんでもかんでもして、この間の家を出るときも~」
また長い説教が始まったとため息を吐き、どうしようかと悩んでいたその時アリアの視界に入ったのは、川の向こうの森だった。
鬱蒼としていて、町の皆は近づかない、寧ろ近づいてはいけないと言われている場所だった。
(……ちょっとくらい、時間あるよね)
アリアは高鳴る気持ちを押さえきれずに、橋を渡り森の中へ入っていった。
「だから君はいつまでもお城から出られなくて~」
シャンネイスの説教はまだまだ続く。
森の中は見たことのないきれいなお花や動物たちがたくさんいた。
「かわいい! あ! あそこにも綺麗なお花!」
「って! 聞いてるの!」
「はいはい、大丈夫だって」
シャンネイスの話を聞き流しながら花を摘んでいる時、白い花に綺麗な黒色の蝶が止まっていることに気づき、声をあげないように、静かに近づく。
「そーっと…そーっと」
「だから、そんなんじゃ」
「あ!」
蝶はシャンネイスの声に驚いたのか羽ばたてしまった。
「ま、待ってー!」
「えー!」
アリアもシャンネイスも蝶の後を追ってどんどん森の奥へ入っていることに気づかなかった。
「……あれ? 蝶々見失っちゃった……? ……ここどこ?」
「え? どうすんのさー、こんなことになって」
五分ほど走り蝶は見失ってしまい、帰り道も分からなくなってしまったせいか、アリアは少し慌てながら来た道を思い返して行く。
だが、なかなか思い当たる場所が見当たらず、方向感覚も分からなくなってしまった。
「ど、どうしよう…今何時かな? 早くしないと、お祖母ちゃんの約束遅れちゃう…」
「僕が飛べたらなぁ」
「飛べないんじゃなくて飛ばないんでしょ?」
「だって翼が疲れるから」
二人でああだこうだいっていると、アリアは何かの音に気づき辺りを見回した、確かに人が歩いている音がする。
「誰?」
小さい声で見えない相手に呟く。
「隠れる……」
「え!?」
鞄に器用に羽を折り畳み隠れるシャンネイスをみてアリアが焦りだしていると、その足音はどんどん近づいてきて、アリアの後ろでピタッと止まった。
鼓動が高鳴り、後ろを振り返りたくても振り返れない、恐怖感で一杯だった。
「あ、あの」
「誰?」
「きゃぁあ!」
声がした瞬間アリアは悲鳴をあげながら後ろを振り返る。
「……うるさい」
少し怒ったような声がして、アリアは瞼をを少しずつ開けた。
目の前には男の子が一人立っていた。
少しムスッとしながらアリアの方を見ている。
アリアは少し安心して頭を下げて謝った。
「ご、ごめんなさい、あのビックリして」
男の子はそんなアリアを無視して、歩き始めると、アリアは涙目になりながら男の子の方を見ていた。
「あ、あのぅ……」
「……」
「うぅ……(怒ってるよ)」
一向にアリアの話を聞かずに進んでいく、男の子にアリアは戸惑いながら、森の抜け道を聞くことにした。
「す、すみません、森からどうやって出たら良いですか?」
「知るか」
「え!? でも、あなたも出るんでしょ?」
「どっか行け」
「でも、私一人じゃ」
「うるさい」
「……」
アリアは男の子の背中が消えるまでずっと見ていたが、怒らせてしまったし、仕方ないとため息を吐いた。
「さっきのはアリアが悪いよ……帰る道を探そう?」
「う、うん」
今まで見ていた景色が一変し、どこに行っても入り口は見えないような気がした。
アリアは勇気を振り絞りながら反対方向へとあるきだした。
何分か歩いているとアリアは足をピタリと止めた。
「ここ、さっきも通った気がする、どうしよう……」
「うーん、これは完全に遭難だね」
「そんなぁ……」
完全に迷子になったアリアの目からは涙が流れ始めた。
今までの事を後悔しながらとにかく前に進み、あちらこちらを見渡していた時だった。
ふとシャンネイスが顔を出し翼を広げる。
「水の音を感じる……」
アリアはシャンネイスの案内を便りに、道を進んでいった。
すると向こうの方にさっきの男の子がいて、アリアは気がつくと、涙を流しながら男の子の方へ走っていった。
「うわ!」
「もー、怖かったんだよー!」
アリアは男の子の元へ着くと目の前に座り込んで泣き出してしまった。
男の子もどういう反応をとっていいかわからずその場で驚いた様子を見せていた。
※やっぱり夏はスイカですね
絵豆椿様