当然のお断り
公の場で王子様の求婚を断りましたけど、不敬罪にはなりません。 だって、ワケ有りですから。
********************
「私は彼女と婚約する!」
「お断りします!」
私の社交界デビュー舞踏会で、第3王子殿下が爆弾発言なさいました。
そして私は即座に断りました。
周りは『まだ言うか』『最後の最後まで・・・』と呆れた目で殿下を見てます。
そして、普通だったら嫉妬するだろう令嬢たちは私に同情の目を向けてます。
ホントに、いたたまれない!
ちなみに、相手は王子様、私は子爵令嬢、普通だったら不敬罪ですが、適用されません。
理由の1つは、この舞踏会での社交界デビューが終わるまでは子供とみなされるため、よほどのことをやらかさない限りは許容されることになってるから。
「なぜだ?」
「何回言えば分かるんですか! 王族の結婚相手は伯爵家以上が条件です!」
「養女になればいい。」
「能力的にも精神的にも私では無理です!」
「努力家の貴女なら大丈夫だ。」
「殿下を好きではないし、好きになる予定も有りません!」
「ゆっくり愛を育めばいい。」
「殿下のは愛ではありません!」
「私の愛は誰にも否定させはしない。」
「話が通じない相手なんてイヤです!」
「通じてるだろう?」
殿下は食い下がります。 私と同じ年の殿下も今日が社交界デビュー、好きに発言しても大目に見てもらえる最後のチャンスだと分かってるんでしょう。
でも、コレ、今までに何度も繰り返した遣り取りなんですよね。
周りの目が『ココでもやるのか』と、令嬢たちが『ご苦労様』と、視線が変化してます。 見てないで助けて!
「お前の主張は認めない。」
「なぜですか?」
「1か月後にはお前の婚約者になる隣国の第2王女が来訪される。 半年後に婚約、それから半年後の王女の社交界デビュー舞踏会の翌日には婚姻式だ。」 「そんな!」
「王族の政略結婚など貴族以上に当然だろう?」
「 ! 」
「これは決定事項であり王命だ。 社交界デビュー後の話になることだし、拒否するなら反逆罪だぞ? 事情を汲んでも王籍・身分剥奪のうえで国外永久追放だな。」
「 ! 」
救いは思わぬところから来ました。 助け舟の主は、なんと国王陛下。
殿下の縁談は私も初耳でしたが、王命となれば誰にも拒否権は有りません。
暫くの無言の後、殿下は黙ったまま一礼して退室されました。
私がひとまず解放された瞬間です。
「長い間、ごめんなさいね。」
「畏れ多いお言葉です。」
「貴女はペットじゃないのにねぇ。」
「・・・はい。」
「いつまでも気付かなかったら勘当するしかないわね。」
「それは・・・。」
王妃様が軽いため息とともに謝ってくださいます。 ここ1年近く、私につきまとう殿下を止めきれなかったことを気にしてらっしゃるようです。
この国では、王族につらなる公爵家以外の貴族令嬢には、社交界デビュー前の1年間、侯爵・伯爵令嬢は女官として、子爵・男爵令嬢は侍女として、王宮で務める義務が有ります。
より上質な振る舞いを周りの令夫人などを見て学ぶため、使用人の使い方を使用人の立場から学ぶため、半年間はみっちり仕込まれます。
残り半年は、業務をこなしながら、令嬢としての教養やマナーや心構えなどを改めて教育されます。
そんな中、殿下は私を追い掛け回し、構い倒そうとしていたんです。
相手は王子様、王妃様などでなくては止められません。 実際、王妃様には再三かくまっていただきました。
私自身だけでなく周りも、執着の原因が愛ではないと気付いてました。
王妃様曰く、『貴女は、あの子が幼い時に死なせてしまった子犬に雰囲気が似ているの』だそうです。 そして、それを話してくださった時も、『令嬢に対して失礼よね。』と殿下の代わりに謝ってくださいました。
小柄で、天然のウェーブのかかった茶色のフワフワ広がる髪と同色の目とで『小動物みたい』と言われることは有りますけど、無自覚で完全な子犬扱いって・・・。
そういえば、みんな、同情して、殿下をかわすのに協力したりはしてくれましたが、王妃殿下による『子犬』論は誰も否定はしてくれませんでしたね。
とにかく、そうした事情は周知の事実だったので、なおのこと不敬罪と咎める人は居ないというわけです。
社交界デビュー後の半年ほど、私は社交の場には最低限しか出ませんでした。
社交界デビュー舞踏会というあまりにも大きな舞台での出来事は広く知られていて、みなさま、殿下に出くわすのを防ぎたい点を理解してくださり、招待は女性だけのお茶会がほとんどでしたので、それには参加してましたけど。
もともと、子爵家レベルでは招待も参加義務も限られるのも幸いでした。
貴族全員に参加義務の有る社交シーズン最初と終わりの王宮舞踏会では、令夫人や令嬢たちが常に寄り添って守ってくださいました。
そして、結局、殿下は隣国の王女と婚約したので、私も社交活動の場を広げました。
殿下のせいで、ただでさえ出遅れているんです。 子爵家レベルでは相手も限られますから、結婚のチャンスを逃すわけにはいきません。
そんな状況でさらに半年後、殿下の婚姻が成立。
この国では、王族に側室や愛人は認められてませんから、私は殿下から完全に解放されたんです。
それから約1年後、私は同格の子爵家の令息に嫁ぎました。 それも恋愛結婚です。 殿下の結婚後に参加した舞踏会で出会い、意気投合したんです。
そして今、王族とかかわることはほとんど無く、平穏に暮らしてます。
********** 完 **********
私(作者)にしては珍しいほど短い話。 思い付いて一気書きした作品。
固有名詞ゼロ、外見描写も主人公のみ、という簡潔さなので、お好みで設定してください(笑)。