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僕の使い魔紹介します

「いっただきまーす」

「……イリーナ。そんな偏ったメニューにするなといい加減…」


 わからないか、というヴァンの言葉を最後まで聞かず、イリーナは大きな口を開けてサンドウィッチを頬張る。

 話の途中で口を動かし始めたイリーナに、ヴァンは言葉を続けようとして、諦めやめた。

 購買でサンドウィッチとオレンジジュースを買ったイリーナは、ヴァンに案内されて食堂の一角に座っていた。時刻は正午を少し回った頃。生徒達もぞくぞくとテーブルにつき、ランチタイムを楽しんでいる。

 イリーナの向かいに座るヴァンは、つやつやした白米をこんもり乗せたお椀を持って、日替わりメニューのステーキをひとかけらをご飯にのせる。ステーキにかけてあるソースがとろりと米粒のあいだを通っていった。ヴァンはその米と肉を同時に口へ運んで咀嚼する。


「わたしはこれがいつもの量よ。昼間からそんながつがつ食べられないし。…そんなことより」

「これぐらい普通の量だ、お前が少ないだけだろう。…なんだ」


 箸を置いて、ヴァンは少し姿勢を正した。イリーナはパックからもうひとつサンドウィッチを取り出しながら、ひとりの生徒を思い浮かべる。


「セフィールって王子。あの子、なんであんなツンツンしてるの?」

「…その〝どうして〟を、俺に聞いたら意味がないだろう」

「……ヴァン、…先生は知らないの?」


 ヴァンの顔を覗き込むイリーナは、ぱくりとサンドウィッチを食べながら答えを待った。しかしヴァンから戻ってくるのは、イリーナの欲しい回答ではなかった。


「そうだな、詳しくは分からないと言っておく。…これまでの経緯も含めてお前が知って、そこで起こす行動に意味があるんだからな」


 一応ヴァンの言ったことを反芻してみるも、相変わらず頭には疑問符ばかりが立ち並ぶ。はっきり今分かっているのは、「あ、これ面倒くさいやつだ」ということだけだった。


「なあんだ、残念。なにか収穫があると思ったのになあ」

「そんな簡単なものではないということだ。…それより、メリプールたちがどこで食事しているのか、気にならないのか?」


 ステーキに添えてあるポテトとにんじんを順に口へ運び、口内が空になった後にイリーナに問う。問いを受けた方は、指先でだるそうに首飾りをいじりつつ、窓の外を見た。


「さあ?昼の時間だし、どこで何してても自由じゃない。まあ大方、お抱えシェフとかがいらっしゃって寮かどこかで食べているんじゃないの?興味ないけど」


 ばっさり言い切って、オレンジジュースをずるずる啜り始めるイリーナに、マナーがなっていない、とヴァンの説教が始まった。右から左に受け流しつつも、一応相槌を打つ程度の反応を見せておく。


(それにしても、王子かあ…まったくオーラがなかったけど)


 しいて言うなら美形である、ということか。メリプールと初めて会った時も、確かに目を奪われるものはあった。見た目に。

 そんなことを思いつつもそもそサンドウィッチを食べていると、ヴァンの後ろから何人かの女子生徒がやってくる。気配とイリーナの視線で振り返ったヴァンに、女子生徒の一人が声を掛けた。


「こんにちはヴァン先生。今日は食堂でランチなんですね?めずらしいー」


 めずらしい事なのか、とイリーナは観察しながら思う。普段のヴァンがどんなふうにこの学園で過ごしているかなど聞いてもいなかった為、どんな情報でも割と新鮮だった。


「ああ、まあな…案内も兼ねている」

「案内?」


 その言葉に、イリーナの方へ向き直る女子生徒たち。傍観していたイリーナは、女子生徒と目が合ってようやく片手を挙げた。口にあったサンドウィッチをオレンジジュースで飲み込む。


「こんにちは、ええっと…生徒ではない、ですよね?その首飾り…」

「ええ、別になりたかった訳ではないけど、一応教師よ。今日来たばかりだけれど」


 にこやかに答えると、女子生徒はちらとヴァンを盗み視たあとに、あの…と言い淀んだ。


「その…失礼ですが、ヴァン先生とは…?」

「ただの腐れ縁、ただの幼馴染みよ」


 本日二回目の質問に盛大にうんざりした表情を隠そうともせずイリーナは言い切った。ヴァンは黙って会話を聞いている。


「そ、そうでしたか!…あ、すみませんお邪魔してしまって」

「いいのよ別に。なんならわたしと席変わる?もう食事は済んだし」


 パックに残ったもうひとつを口に挟んで、イリーナは椅子から立ち上がった。オレンジジュースを持ち、ヴァンに目配せする。立ち上がりかけたヴァンを片手で制して、女子生徒たちへ微笑みながら、食堂の入り口へ向かって歩き始める。


「なっ、…おいイリーナっ」

「ふぁふぁふぁふぉふぇ~」

「モノを食べながら喋るな馬鹿者!」

「…ヴァン先生……」


 軽快な足取りで、イリーナは食堂を後にした。



 すっかりサンドウィッチも食べ終わり、持っていたオレンジジュースもゴミ箱に捨てた後。まだ昼休憩の時間は余っているため、図書室でも覗いてみるか、とイリーナは階段を昇っていく。


「なにか面白い本があればいいけど…ん?」

「………げっ」


 顔を顰めてイリーナを見下ろしていたのは、セフィールだった。



 イリーナは自己紹介のあとに行った能力チェックのことを思い出す。それは生徒達にパートナーである使い魔を呼び出してもらうものだった。

 使い魔を見れば、どれぐらい彼らを使役できているか、またどんな使い魔を扱っているかによって術者の能力値を測ることが出来るためだった。

 普段使い魔は術者が身につけている魔術具の中にいて、必要な時に呼び出して助力を得る。だいたい指輪や腕輪など、手元から呼び出す事が一般的である。

 誰からやりたい?と生徒達に問うてみると、まっさきに「はい!」と手を挙げたのはメリプールだった。


「僕からやります!」


 なにやら自信満々なメリプールを見て、イリーナはひとつ頷く。「それじゃあお願い」と教壇からじっとメリプールを見つめた。

 こくりと頷いて、メリプールは指輪の嵌まった右手を前に伸ばし、左手で添える。短い詠唱の後、指輪がまばゆい光を放ち、そこから現れたのは…


『…ンだよ、メリーぼっちゃん。オレぁ眠いんだっつの…』


 大きく口を開いてあくびしつつ、現れた使い魔はだるそうにまた指輪へ戻ろうとする。慌ててその使い魔に「まだ戻っちゃだめ!」とメリプールは制止の声を上げた。


「もう、なんでいつも君はそういう態度なの?少しは僕の言うこと聞こうよ?」

『はぁー?なんでお前なんかの命令なんざ聞かなきゃなんねぇーんだよ』

「そんなの、君が僕の使い魔だからに決まってるだろう!」


 腕を組み、鼻息荒く迫るメリプールに、しかし使い魔はぴくりとも態度を変えなかった。


『だからってオレがなんでもかんでも言うこと聞くわけないだろ、いい加減学習しろよ、オージサマ』


 実につまらなさそうに悪態をついた後、メリプールの声も聞かぬまま使い魔は指輪の中へ勝手に戻ってしまった。その後、何度呼びかけても再び出てくることはなく、メリプールは湿った空気を泳がせながら落ち込んでしまう。


(主従関係が完全に崩壊してるわね…使い魔がメリプールを認めてない、かあ)


 そんなに気落ちすることはないよ、とクリスが慰めているのを見つつ、それじゃあ、とイリーナが次に指名した人物が、セフィールだった。




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