理想の生活
「ところで家族なったけど俺は何をすればいいのかな?」
「私の願いは家族を作ること。その願いは叶えられました。特にハルにお願いしたいことはありませんよ」
ユグは、いそいそとそこら辺の葉っぱや果実を集めテーブルに並べた。
「ハル、食事にしましょう。お口に合えば良いのですが・・・」
「俺はグルメだから味にはうるさいぞ・・・何だ、この旨さは!今まで食べた中で一番、旨い!」
信じられない旨さだった。雑草にしか見えない葉っぱは、上品な甘みがある最高のサラダだ。果実も1つ1つ味が異なり、いくらでも食べられそうだ。
「こんなに喜んで頂いて嬉しいです。この辺りの草や花は全て私と繋がった私の一部です・・・そんなに貪るように食べられて、私は少しゾクゾクしました」
ユグは何故か真っ赤になり瞳も潤んでいる。調子に乗った俺は、果実を舌の上に載せ「レロレロレロ」と転がした。
「ひゃん!そんな卑猥な食べ方はダメです・・・」
「俺の世界では、果実はレロレロ食べるのが一般的なんだけどな。やれやれだぜ」
「恐ろしい世界ですね。ハルの世界の植物達が心配になります・・・」
食事を終えた2人は、世界樹の巨木に背中を預けながら、ハルの世界のこと、ユグの世界のこと、家族のこと、友人のこと・・・
ハルは眠くなると、世界樹の巨木にある大きな洞の中で眠った。洞の中は、枯れ葉が敷き詰められ温かく、とても快適だった。
枯れ葉に埋まり目を閉じたハルは、視線を感じ洞の中を見る。洞の表面に浮かぶ1本の切れ目が、がばっと上下に裂け巨大な瞳が現われた。
「私の中で赤ちゃんみたい眠るハルは可愛いです。困ったことがあったら言って下さいね。いつでも見守っていますよ」
薄暗い洞の中に突然浮かんだ巨大な目。声はどこから響いてくるのか場所さえ解らない・・・
「あの・・・いきなり巨大な目に見つめられると怖いかな・・・」
「1つ目だから怖いのかもしれません。目の数はいくらでも増やせますよ?」
「巨大なたくさんの目に見つめられながら寝るなんて、トラウマになるよ!できれば、お話は擬人化してからお願いします」
ユグから美味しいご飯と快適な寝床(いつ巨大な目が出るビクビクしているけど・・・)を与えられ、ユグと世界樹の周りを散歩したり、星を眺めながらとりとめのない話をしたり・・・そんな生活が1週間続いた。
「俺はヒモか!」
完全にヒモだった。理想の生活だが、理想を満喫するにはハルは若過ぎたのだろう。
俺は異世界の冒険に出る決意をした。