世界樹
唐突な質問に曖昧に答えながら、まずは彼女を落ち着かせることにした。頭と背中をなでなで。ついでに腰もなでなでする。背中はほっそりしているが腰のボリュームは予想以上だ。
「ごめんなさい・・・私、願いが叶って嬉しくて」
なでなで効果で、落ち着きを取り戻した彼女は俺から離れ語り出した。
長い話だった、彼女が生まれ、エルフと人間を作り、争いが起こり去っていく人々、それでも家族が欲しいと願った自分・・・
「つまり、あなたはそこにある巨木ってことなの?」
「はい。人々は私を世界樹“ユグドラシル”と名付けました。巨木では人と会話が難しいので、意識を擬人化しています。私の本体はあの巨木です」
巨木を見ると彼女の話の通り、葉が落ち枯れかかっている。
「今度は俺が説明する番だな・・・」
自分が(たぶん)異世界から来たこと。流れ星が願いを叶えてくれたこと。俺の説明をユグドラシルは興味深そうに聞いている。
「最後に俺の名前は千葉春斗。ハルって呼ばれている」
「千葉春斗でハル?名前を略すのですか?それでは私はユグと呼んで下さい」
ユグが微笑むとピンク色の花が1輪、彼女の髪の毛でパッと咲いた。感情の変化によって頭の花が咲くようだ。
「ハルは何故、異世界に行きたいと願ったのですか?」
「異世界には男のロマンが詰まっているからね。男はロマンを求める生き物なんだ」
「男のロマンですか。抽象的ですね。私やこの世界はハルに男のロマンを与えられるのでしょうか?」
「ユグはどこから見ても男のロマンだよ。世界樹だし、擬人化しているし、超美人だし。この世界は俺が求めた世界だ。エルフのお姉さんとか、モフモフの獣人少女とか、いろんな意味で豊満な巨人娘とか・・・男のロマンが俺をまっている」
「・・・よ、良かったですね・・・ロマンが何かは謎のままですが、ハルが女性に対して異常な執着があることがわかりました。正直、ドン引きです」
男のロマンは、女子供には判らない、熱き心を持った男たちのみ理解できる。ドン引きされても追い求める、これこそが男のロマンだ。
「まだ、問い掛けの答えを聞いていません。ハル、私の家族になってくれますか?」
この世界で1人ぼっちになり家族が欲しいと願ったユグ。異世界に行きたいと流れ星に願ったハル。呼びたい者、行きたい者、裏表のような2人の願いは同時に叶えられた。
ユグは祈るように真っすぐに俺を見つめている。目をウルウルさせながら答えを待っているようだ。年上の超美人の懇願・・・これは胸が熱くなる。
「・・・俺でよければ、家族からお願いします!」
かっこいいセリフで返答をしたかったが、16歳で彼女いない歴16年の俺のデータバンクには女性がキュンとなるようなセリフは記録されていなかった。緊張のあまり声が裏返っていたし。
「嬉しいです・・・」
答えを聞いたユグは再び俺に抱きつき、にっこりと微笑む。ユグの髪に咲く花は満開となり、ウエディングベールのように頭を包んでいた。