アリア、一段上がる
ちょっとした騒動はあったが、アリアは合宿を無事に終え、正式に中級魔術師に認定された。
中級魔術師になると魔術師名簿に登録され、単独で仕事を請け負うことも出来るようになる。
そう、アリアは世間一般的に魔術師として一人前になったのだ。とはいえ、魔術師の業界では、中級魔術師は、これから本格的な高度な魔術を教わることが出来るというスタートラインに立ったにすぎない。言うなれば、アリアの魔術の訓練はこれからが本番なのだ。
アリアは合宿前に落ち着かない様子だった上に合宿中にちょっとした騒動を起こしていたので、ロジーナはこの先のことが心配でしかたがなかった。しきし、合宿から帰ったアリアは、まだ若干の危うい感じは残ってはいたが、訓練中の様子が以前とガラリと変わった。ロジーナのお手本をしっかり見るようになったのだ。
それまでのアリアは、ロジーナのお手本を見るには見ていたが、ロジーナにしてみれば、ただ単に眺めているようにしか感じられなかった。
ところが、近頃のアリアは、何一つ見逃さないぞと言わんばかりに、まばたきもせずに食い入るように見つめてくる。
あまりの変わりにようにロジーナは、
「アリア、合宿でなんかあった? 」
と、尋ねてみた。
「え? あの……ネコちゃんのことですか? 」
アリアは沈んだ声で眉間にシワを寄せた。
「ごめん、ごめん、そのことじゃなくって。あんた帰って来てから、なんか変わった気がする」
ロジーナの言葉に、アリアは不思議そうに首をかしげた。
「さっき、あんた、私のお手本をじっくり見てたわよね」
「はい」
「どこを見てたの? 」
アリアは考えるように少し視線をただよわせたあと、
「呼吸です」
と、こたえた。
「呼吸? 」
「はい。カトリーナちゃんが、礼儀作法のとき、呼吸で変わるって教えてくれて……。お辞儀だけじゃなくて、魔術もそうだよって……」
アリアの声は自信なさげに小さくなっていく。
「だから、さっき、お師匠様がいつ息を吸って吐くのか見て……真似して……みたんです……」
しどろもどろになったアリアは、ロジーナの顔色を上目遣いでうかがう。
「アリア……」
ロジーナは驚きに目を見開いたが、すぐにニッコリと満面の笑みを浮かべた。
「それでいいのよ。その通りよ。呼吸のタイミングで全然違ってくるの。あと、深さでもね」
ロジーナの言葉にアリアの顔がパッと輝く。
「今まで習った術も、呼吸を意識すると感触が変わってくるはずよ」
ロジーナはニコニコしながら続けた。
「すごいわね、アリア。あなた、一段、階段をのぼったのよ」
手放しで誉めるロジーナに、アリアは少し照れくさそうに鼻の下をこすった。
「これから、もっと楽しくなるわよ」
嬉しそうにニッコリと笑いかけるロジーナに、アリアは「はいっ」と、元気よく頷いた。
*****
「ロジーナ、ずいぶんと楽しそうだな」
リビングでくつろいでいたロジーナに、クレメンスが声をかけた。
「そうなのよ。わかる? 」
ロジーナは嬉しそうにニッコリする。
「アリア、気がついたのよ」
「ん? 」
クレメンスは不思議そうに小首をかしげた。
「呼吸にね」
ロジーナはニヤリとしながらそう言った。
「ほぅ。ずいぶん早かったな」
クレメンスは興味深げに目を細めた。
「ええ。合宿でカトリーナちゃんに教わったんですって。さすがは、イーウイア先生のお弟子さんね」
ニコニコと説明するロジーナに、クレメンスは「フッ」と鼻を鳴らすと腕を組み、
「やはり、合宿は得るものが大きいな」
と、感心した様子で言った。
「ええ」
ロジーナは大きく頷いた。




