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ロジーナ弟子をとる  作者: 岸野果絵
中級魔術師編
95/100

[番外編]ニコラス、イーウイアに叱られる(中級魔術師試験の数ヶ月前)

「ねぇ~、もっとオイシイお仕事はないの?」

 ニコラスは今日も事務局のカウンターでごねていた。


「いたいた」

 声とともに肩を何か固いものでトントンと叩かれる。

 振り向くと、扇子を手にしたイーウイアが立っていた。

「ちょいと顔かしてくんな」

 イーウイアは顎をしゃくるようにして、廊下へ視線を動かすと、そのまま歩き出した。

 ニコラスは仕方なく後をついて行く。


 イーウイアは人気ひとけのないところに来ると、立ち止まり、ニコラスに向きなおった。

「カトリーナのことなんだけどさ。あの()、未だに中魔試験受けられないでいるんだよ」

「え?  そうなの?」

 ニコラスは驚いた声を出した。


 ニコラスの記憶が確かなら、カトリーナは今年17歳になるはずだ。

 中級魔術師試験は15歳から受けることができる。カトリーナの素質を考えれば、とっくに中級魔術師になっているはずだった。


「 そうなんだよ。信じられないでしょ?  あたしも何度もお願いに伺ってるんだけどねぇ。あの親父おやじさん、ホント、話しのわかんない石頭なんだ」

 イーウイアは扇子で掌をパシパシ打ちながら言った。

「親の許可がおりないの? 」

 ニコラスは小首をかしげる。

「そ。あたしをバカにしてるってぇのがみえみえで、毎回毎回、腹が立つっ」

 イーウイアは忌々しげに顔を歪め、扇子を強く握りながら吐き捨てるように言った。

 ニコラスはそんなイーウイアの様子にちょっぴりたじろぐ。


「あのさぁ、なんでお貴族さまって、魔術師のこと見下してるんだい?  何様のつもりなんだろねぇ?  これでもあたしはザルリディアの人間だよ?」

 イーウイアは少し身体を引いたニコラスに向かって、足を半歩前に出すと、掴みかかりそうな勢いでまくし立てた。


「そんなこと、オイラにきかれても分からないよ」

 ニコラスは両手を胸の前で振りながら、後退あとずさりする。

「はあっ?  おまえさんも同類じゃないか」

 イーウイアがドスのきいた声をだし、扇子をニコラスに向かって突き出すように一歩前に出る。


「一緒にしないでよ」

 ニコラスは「心外な」という感じで眉根を寄せる。

「はあ?」

 イーウイアは顔を歪めながら、薄い目でニコラスを睨みつける。今にも扇子が飛んできそうな雰囲気だ。


「分かったよ。オイラが裏から手を回せばいいんでしょ」

 ニコラスは半歩後ろにさがり、引きつった顔をしながら言った。


「そうしとくれ」

 イーウイアは表情を緩めると、

「ついでに上魔試験のときも頼んだよ」

 わらざとらしいくらいご機嫌な声色で、にっこりと可愛らしく小首をかしげる。


「えっ、上魔も?」

 ニコラスの言葉に、イーウイアは険悪な顔になった。

「決まってるじゃないか。あぁたが撒いたタネなんだよ。あ゛? 」

 ドスのきいた声は殺気すら感じる。


「分かったよ」

 ニコラスの返答に、イーウイアは満足そうに表情を緩めた。

 ニコラスはホッとすると、口を開く。

「今日のイーちゃん。いつにも増しておっかないなぁ~。もしかして、更年期? 」

 ニコラスはニタァと気持ち悪い笑みを浮かべた。


「はあ?  叩くよ?」

 イーウイアは険悪な声をだし、手をにもった扇子を振り上げる。

「キャー。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」

 ニコラスは慌てて逃げ出した。

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