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ロジーナ弟子をとる  作者: 岸野果絵
中級魔術師編
92/100

カメリアに謝罪にいく

「師匠。すみやせんでした」

 リュークの声に合わせ、アリアたちは一斉に頭を下げた。

「おいおい、オレたちに謝ってどうすんだよ。謝るならカメリア先生にだろ?  」

 怒鳴られると覚悟していたアリアたちは、カルロスの意外な反応に顔を上げた。

「そうよ、あぁた達。謝る相手を間違っちゃ、ダ・メ」

 イーウイアが人差し指を立てて「ダメ」を強調するかのように優しい声で言う。その翡翠色の瞳には少し悪戯っぽい光が宿っている。

「さて、謝りに行くかのぉ~」

 グリンテルがのんびりしたした声で言った。


 アリアたちは首をひねりながら、師匠たちの後に続き、医務室へと向かった。


「カメリア先生。お加減はいかがですか?  」

 イーウイアはカメリアの枕元にいくと、尋ねた。

 カメリアはイーウイアの舞台化粧な顔をみて、一瞬ギョッとした表情を浮かべたが、すぐに気をとりなおしたらしく、

「ええ。お蔭様で……」

 と、こたえた。カメリアの顔色は悪くはない。


 「この度は、弟子たちが大変な粗相をいたしまして、誠に申し訳ございません」

 イーウイアは優しく真摯な口調でそう言うと、恭しく頭を下げた。髪に挿された何本もの簪がシャラシャラと音を立てる。


「いいえ。私も少し驚きすぎてしまって、お恥ずかしい限りですわ」

 カメリアは微笑みながら首を左右にふり、少し恥ずかしそうに視線を落とした。


「いえいえ、とんでもございません。ホントに魔術師ときたら、野蛮な者たちばかりで……。これに懲りずに、引き続きよろしくご指導のほど、お願い申し上げます」

 イーウイアは少し芝居かがった口調で言うと、居並ぶ弟子たちに視線を移す。

「ほら、あぁた達、一人ずつ来て謝りなさい」

 そう言って、「こっちにこい」というように指をくいっと動かした。


「すみやせんでした」

 リュークはカメリアの枕元に立つと、バッと直角にお辞儀をした。

 カメリアはニッコリと微笑む。

「申し訳ございませんでした」

 リュークと場所を入れ替わったカトリーナは授業で教わった通りの優雅なお辞儀をする。

 カメリアは頷くようにニッコリと微笑む。

「すみませんでした」

 アリアもぺこりとお辞儀をする。

 カメリアは微笑む。

「ごめんなさい」

 サーナもぺこりとお辞儀をする。

 頷くようにサーナを見たカメリアの目が見開かれた。

「ヒィ」

 カメリアは声にならない悲鳴をあげると、のけ反るように後ろに倒れこむ。

 とっさにそばに控えていたジョンがカメリアを支える。

 いつの間にかサーナのすぐ後ろに熊のベティがいた。

 

「こりゃベティ」

 グリンテルが慌てた様子でベティを廊下へ連れだした。

「あーあ、グリンテル先生、やっちゃった……」

 イーウイアは困り顔をしてみせてはいたが、その声色はどこか楽しそうだ。

 アリアたちはカルロスに促され、そそくさと医務室を出た。


「すまんのぉ~」

 グリンテルが廊下から医務室内に顔だけのぞかせて謝った。

「驚いただけのようですから、大丈夫ですよ」

 カメリアを寝かせると、ジョンはグリンテルの方を向いた。

「僕が上手く言い繕っておきますから」

 そう言って微笑む。

「じゃがのぉ~」

「ご心配には及びません。僕はトラブルには慣れてますから」

「ま、確かに慣れてるわね」

 イーウイアはニヤリとし、

「じゃ、よろしくね。ジョン先生」

 そう言って医務室から出た。


「グリンテル先生。とりあえずベティちゃんを……」

 廊下に出たイーウイアは、熊にちらりと目をやった。

「そうじゃった。ほれ、ベティ、ミーア、帰るぞ」

 グリンテルはベティとミーアが近くに来るやいなや、パッと姿を消した。


「さてと、あぁた達、もう遅いから、部屋に帰って休みなさい」

 なかば呆然としていたアリアたちだったが、イーウイアにそう言われ、ハッとしたように頷いた。


「おい、おめーたち。しっかり勉強すんだぞ」

 カルロスはそう言いながらリュークの背中をバシッと叩く。

「へいっ」

 リュークは元気よく返事をする。

 イーウイアはその様子みて微笑むと、「おやすみなさい」と言った。

 弟子たちも口々に挨拶をし、部屋へ帰っていった。


「一件落着だな」

 弟子たちの姿を見送り、カルロスは軽く息をついた。

「では、お開きといたしましょうか」

 イーウイアはカルロスとロジーナの顔を交互に見ながら、つややかな笑みを浮かべた。

 二人は頷く。


「おぅロジーナ、師匠によろしくな」

 カルロスはそう言って、ロジーナの肩をバシッと叩く。

 ロジーナはなんとか踏ん張って衝撃に耐えた。

「あら、そうでしたわね。ロジーナ先生、クレメンス先生によろしく」

 イーウイアが扇子を口元にやり、ロジーナに流し目を送る。

 ロジーナはその少し芝居がかった独特な風情に気圧されながらも「はい」と返事をした。


「では、お先に。ご機嫌よう」

 イーウイアはそう言うと扇をひろげ、ゆっくりとひと振りした。

 風が巻き起こり、イーウイアの姿はその風の中に消える。

 後にはその余韻のような小さな風の渦が残っていたが、それもすぐに消えた。


「さすがイーウイア先生。消え方もかっけーな」

 カルロスが感心したようにつぶやくと、ロジーナの方を向き、

「じゃな。ロジーナ」

 そう言って姿を消した。


 ロジーナはホッと息をつくと、自身も術を行使し帰宅した。

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