ロジーナ、いらいらする
「そうじゃないでしょ!そっちじゃない!!何度言ったらわかるの?ほんと不器用な子ね」
ロジーナの叱責が飛ぶ。
アリアは懸命に魔力を操作して水を操っていた。
目の前の池に水柱があがる。
「違う!もっと絞って。違うっ。それじゃ絞りすぎでしょ!!」
水柱はゆらゆらと不安定にゆれる。
アリアの指先は小刻みに震えていた。
水柱は次第に細く高くなり、密度を増してゆく。
「そうよ、そのままだんだん強く……」
アリアの額に汗がにじむ。
ピシャ
ふっとアリアの気が途切れる。
ザバァァ
水柱は空中崩壊し、ロジーナとアリアは頭の上からまともに水をかぶった。
「信じらんない……」
顔に掛かった水を拭いながら、ロジーナが低い声でつぶやいた。
「すみません」
消え入りそうな声でアリアが言った。
そんなアリアをロジーナはじろりと睨み、大きなため息をつく。
「今日はもう無理ね。風邪ひかないようにさっさと着替えなさい」
ロジーナはそう言い残し、館の中へ消えて行った。
「信じらんない。なんであんな簡単なこともできないのよ」
ロジーナは髪の毛をふきながらぶつぶつ文句を言っていた。
そんなロジーナの様子を見ながら、クレメンスはやれやれという顔をした。
「確かに今のお前なら難なくこなせることだ。だが、昔はどうだった?」
ロジーナの手が止まる。
昔……。魔術を習いはじめた頃……。
ロジーナは古い記憶をたぐりよせる。
そうだった。自分も同じところで散々苦労しのだった。
なかなかコツがつかめず、自分は一生できるようにはならないんじゃないかとさえ思ったこともあった。
そういえば、最初のうちはクレメンスの説明が全く理解できなかった。
何を言われてもチンプンカンプンで何のことを言ってるのか想像すらできなかった。分からなさすぎて、どこがどう分からないのかも全く分からなかった。
アリアもそうなのだろうか。あの時の自分と同じ状態なのだろうか。
「ロジーナ。教える側が熱くなりすぎてはならない。冷静に相手の状態を把握しなければ、適切な指導はできない」
クレメンスの言葉に、ロジーナはハッとした。
アリアのことを全く考えていなかった。一方的にこちらの思いを押しつけていたのだ。説明が理解できずに戸惑うアリアを、ロジーナは一方的に叱り飛ばしっていた。
そういえば、あのときアリアは泣きそうな顔をしていた。そんなアリアの様子すら、あの時は気付いてやれなかった。
「アリアが今どの段階で、どこでつまづいているのか、同じ道を歩んできたお前ならわかるはずだ」
そうだ。アリアは昔の自分なのだ。なかなかコツがつかめず四苦八苦していた自分なのだ。
アリアはどこで引っかかっているのだろうか。昔の自分はどこで引っかかっていたのだろうか。どうやってコツをつかんだのだろうか。
それには術の手順をもう一度、一から分析しなおさなければならない。
ロジーナはクレメンスに一礼すると、足早に池へと向かった。