アリアたち、騒ぎを起こす
合宿が始まってから、アリアは楽しくてしょうがない。
合宿での講義は魔術とは全く違った内容で、難しくはあったが、仲間と一緒に勉強をしたり、おしゃべりをしたりするのは新鮮だった。
普段、アリアの周りには大人しかいない。だから、アリアにとって年齢の近い仲間と過ごす日々は得がたい経験だった。
アリアだけでなく、カトリーナやサーナも同じようで、3人はほぼ一日中一緒に過ごしていた。
「あら、もうこんな時間ですわ。そろそろ帰るわね」
カトリーナは時計をチラリと見ていった。
あと10分ほどで消灯時間だ。
消灯時間を過ぎると、廊下や階段の照明が少し落とされる。
消灯時間に絶対に寝なければいけないわけではなく、それぞれの部屋の行き来も制限されるわけではない。が、カトリーナは真面目なところがあり、昨夜も消灯時間前には自分の部屋に帰っていた。
「おやすみなさい」
口々に挨拶をすると、カトリーナは部屋の出口へと向かった。
と、アリアの目の前を何かが横切った。
見覚えのある茶色のブチ猫だ。
「ミーア」
アリアが名前を呼ぶと、ネコが振り向いた。
アリアの目がネコの口元に釘付けになる。ネコの口の端から尻尾のようなモノが垂れ下がっていた。
「ぎゃっ」
それが何か気が付いたアリアは思わず悲鳴をあげた。
「え? 」
部屋のドアを開けかけたカトリーナが驚いて振り向く。
「あっ……」
ネコがネズミを咥えたままドアの隙間から廊下へ飛び出した。
「ミーア」
サーナが慌てた様子で部屋から出ていく。
呆然としていたカトリーナだったが、ハッとしたようにサーナに続いて部屋を出る。アリアも2人の後を追うように廊下へと飛び出した。
*******
やっとカメリアの礼儀作法の補講から開放されたリュークは、ホッと息をついた。
今日の補講は散々だった。
歩き方、お辞儀、返事の仕方など、全てにダメ出しをされ、最後まで居残ることになってしまったのだ。
リュークは普段から怒鳴られることには慣れている。師匠のカルロスに怒鳴られることはしょっちゅうだ。だから、怒鳴られても、蹴りを食らっても、げんこつを食らっても全然平気だ。
だが、カメリアのキンキン声は苦手だった。カメリアのあのキンキン声はリュークの脳髄に響く。あの声でまくし立てられると、脳ミソが破壊されるのではないかと思えてくるのだ。
早く部屋に帰って寝よう。
いつもとは違う疲労感に、リュークは足早に自室へと向かっていた。
リュークが階段に足をかけた時だった。
上の階から小さな何かが、こちらへ向かっておりてくるのが見えた。
「ミーア、待って」
上から女の子の声が降ってくる。
「おっ」
リュークは反射的に、その何かを捕まえようと動いた。
それ――ネコはリュークの手をかわすようにジャンプした。ネコの口から何かが落ちる。ネコは着地すると、そのまま走り去った。
リュークはその姿を見送ると、ネコが落としたモノをよく見ようと屈んだ。
「お」
そこには野ネズミの死骸が転がっていた。
「ミーアっ」
慌てた様子で階段を駈け下りてきたサーナはリュークには目もくれずに、そのままネコの後を追っていってしまった。
リュークはおもむろにネズミの尻尾を摘まむと、立ち上がった。
カトリーナとアリアがサーナの後を追いかけるように階段を駈け下りて来る。2人はリュークに気が付き、立ち止まった。
「サーナちゃん、どっちに行った? 」
リュークはネコとサーナが消えた方に視線を動かした。
「きゃっ」
突然、アリアが短い悲鳴をあげた。
「ん?」
リュークは首を傾げてアリアを見た。
「ちょっと、あなた、それ」
カトリーナは眉間にしわを寄せ、ネズミの死骸を指さした。
「なんだ、アリアっち、これがこえーのか?」
リュークはそう言って、アリアの目の前にネズミの死骸を突き出した。
「きゃっ。止めて、リュークくん」
アリアは手を顔の前にして、飛び上がるように後退する。
そのアリアの仕草に面白くなったリュークは、さらにアリアに向かって手を突き出し、「ほれほれ」と、ネズミの死骸をプラプラと揺らす。
アリアは涙目でイヤイヤしながら、死骸から逃げるように後退する。
「リュークさん。いい加減になさい」
カトリーナがアリアを庇うようにして、ネズミの死骸の前に立った。
リュークは笑いながら、カトリーナの後ろからこちらを見ているアリアに向かってネズミの死骸を掲げる。
「あなたたち、何をしているのですか!!」
突然、リュークの背後からカメリアのキンキン声が聞こえた。
リュークは反射的にネズミを掲げたまま振り向いた。そのため、カメリアの目の前にネズミの死骸が突きつけられるという格好になってしまった。
「ヒィ」
カメリアは声にならない悲鳴をあげ、そのまま後ろに倒れていく。
カトリーナがとっさに動き、カメリアを抱えた。リュークもネズミを放り出すと慌てて加勢した。
「カメリア先生っ」
アリアが、2人に抱えられぐったりしたカメリアに声をかけたが、カメリアの反応はなかった。




