アリア、お辞儀の練習をする
食堂はほぼ一日、受講生たちに開放されている。受講生たちは食事をとる以外にも自習室や談話室として、自由に利用することができる。
放課後、アリア、カトリーナ、サーナの3人は食堂に集まった。
明日の礼儀作法のテストに向けて練習をしようということになったのだ。
アリアとサーナは、カトリーナの前にしてお辞儀をする。
「うーん。お二人とも、動きがぎこちないわね。もっとリラックス、リラックス」
カトリーナはそう言って両腕を天井に向かって上げ、だらーんと力を抜いて下に下ろす。
アリアとサーナもそれを真似した。
「じゃ、サーナちゃんからもう一度」
サーナはゆっくりと上体を前に倒す。
先ほどよりはだいぶスムーズに倒れていったが、背中がぐにゃりと曲がり、少し斜め右に倒れた。
「うーん」
カトリーナは考えこむように首をかしげた。
「もう1回やってくださいます? 」
サーナは再び上体を倒す。
今度は少し斜め左に倒れた。
「サーナちゃん、腰に力を入れるのよ」
カトリーナは上体を起こしたサーナの後ろにまわり、
「ここよ。このあたり」
そう言うって腰を軽くポンポン叩いた。
サーナはそれに反応するように身体をのけ反らせた。
「背中まで全部力を入れたら、曲げられなくってよ」
サーナは首をかしげる。
「そうねぇ。サーナちゃん。ちょっとジャンプして下さる? 」
カトリーナはサーナの前に戻ると、お手本を示すかのように、軽くぴょんぴょん飛びはねる。
サーナはそれを真似してジャンプする。
「そのままジャンプなさっててね」
カトリーナは再びサーナの後ろにまわる。
「サーナちゃん、今、どこに力が入ってるかしら? 」
サーナはジャンプをしながら視線を斜め上にし、しばらく考えたあと、腰の辺りを抑えた。
「そうそこよ」
サーナはジャンプをやめ、確認するかのように腰をポンポン叩く。
「今の感じで、その辺りだけ力を保ってお辞儀をなさってみて」
サーナは手を戻すと、ゆっくりと上体を倒した。
サーナの上体がスムーズにまっすぐ倒れる。
「よく出来ました」
身体を戻したサーナに、カトリーナがニッコリと笑いかける。
「できたぁ~。ありがとうございます」
サーナは満面の笑みを浮かべた。
「今度はアリアちゃんの番ね」
カトリーナがアリアの方を向いてニッコリする。
「よろしくお願いします」
アリアはそう言って、最敬礼をしようと上体を前に倒した。
が、途中までしか倒せない。
「私、身体がかたくて……」
アリアはしょんぼりした。
「アリアちゃん。お辞儀ではなくて、普通に前屈してくださる? 」
アリアは肯くと、両手を前にだらーんと出して前屈した。
指先が微かに床につく。
「そこまで曲げられるじゃない。出来るはずよ」
「でも……」
アリアは身体を起こして、もう一度お辞儀に挑戦する。
が、アリアの上体は途中でブロックがかかったようにガクンと止まった。
アリアはさらに曲げようと力を入れ、もっと倒そうと反動をつけたが、力を入れれば入れるほど角度は浅くなっていく。
「ぷはっ」
上体を起こしたアリアは真っ赤な顔で息を吐く。
「分かったわ、アリアちゃん。お辞儀の時に息をとめてますでしょ? 」
「え? 」
カトリーナの指摘にアリアは首をかしげた。
アリアは上体を倒すことだけに集中していたので、息を止めていたかどうかは全く覚えていない。
「身体を倒すときに、力を抜いて、ゆっくり息を吐いてごらんなさいな」
アリアは肯くと、姿勢を正した。
「ふぅ~」
カトリーナが促すように息を吐く。
「ふぅ~」
アリアは真似をして、息を吐きながら上体を倒す。
上体は驚くほどスムーズに倒れていった。
「はい、ストップ。その角度ですわよ」
アリアはしばらくその角度を保ち、上体を起こし、確認するために、再度、息を吐きながらお辞儀をした。
「アリアちゃん。できてます」
サーナがパチパチと拍手をする。
アリアは少し照れながら身体をおこすと、カトリーナに向かって「ありがと」と、再びお辞儀をした。
「うふふ。お二人とも明日は完璧ですわね」
カトリーナはアリアとサーナの顔を交互に見ながらニッコリする。
アリアとサーナは大きく頷いた。
「カトリーナちゃん、すごいです。カメリア先生より全然分かりやすいです」
サーナのは両拳を胸の前で握って上下に振りながら言った。
カトリーナは微笑む。
「息を吐いただけで、あんなに簡単に曲がるなんてビックリ」
「アリアちゃん。呼吸はコツのひとつですのよ。全ての所作は呼吸ひとつで違ってくる。礼儀作法はもちろん、舞踊や武芸、そして魔術もね」
カトリーナはウインクし、
「って、これは姐さんの受け売りですけど」
そう付け加えて、ニヤリといたずらっぽく笑った。




