アリア、講義を受ける
講義が始まるまで、まだ時間があった。
三人はおしゃべりに花をさかせる。
「ジョン先生ってあんなにお若いのにお医者さまだなんて、すごいよねぇ」
アリアの言葉にサーナは「うんうん」と頷いた。
「ジョン先生ってカッコイイと思います」
サーナは目をキラキラさせる。
「ええっ!! サーナちゃんって、そう言うこというタイプでしたの?」
カトリーナは驚いてサーナの顔を覗き込んだ。
「え? 変ですか? 」
サーナは小首をかしげた。
「さっきお話してたとき、そういうお話しが嫌いなのかしらって思ってましたの。ねぇ、アリアちゃん」
アリアはカトリーナに同意するように頷いた。
「そんなことはないですよ。人間さんにも興味はあります」
サーナは心外だというように口を尖らせる。
「でもさ、私もジョン先生、かっこいいと思う。優しそうだし、なんとなく品があるし……」
「確かに、分からなくもないですわ。魔術師にはちょっといらっしゃらないタイプですわよね」
「ですよね。私のお友達がすぐに懐きそう」
三人がきゃっきゃとおしゃべりをしているうちに時間は経過し、予鈴が鳴った。
講義は静かになった。
先ほど紹介のあったジョン医師がやってきて、黒板に向かって黙礼をすると、講壇に上がり、受講生たちの方へ向きなおった。
「皆さん。改めてまして、魔術師協会専属医師のジョンと申します。これから数日間にわたり、『基礎医学と応急処置』の講義の担当をいたします。よろしくお願いいたします」
ジョンはゆっくりとお辞儀をする。
受講生たちもそれぞれペコリと頭を下げる。
「皆さんはこれから中級魔術師に認定されます。ご存じかとは思いますが、中級魔術師からは正式な魔術師として認められ、魔物討伐や救助活動などの危険な任務に従事するケースもでてまいります。また、日常におきましても、高度な術を行使することも増えてまいりますので、事故などの危険性も高まってまいります。この講義では、医学の基礎のほんのさわりと、緊急時における応急処置、人工呼吸や心臓マッサージなどの実技も学びます」
アリアはジョンの話を真剣に聞いていた。
ロジーナから事前に研修会の内容を聞いたとき、正直なとろ、あまり興味はわかなかった。
とても大切な講義ばかりだと聞かされてはいたが、魔術には全く関係ないことをなぜ学ぶ必要があるのかと疑問にさえ思っていた。
けれど、今、ジョンの説明を聞いていると、その考えは間違っていたと気がついた。
「この講義の内容は、普段はあまり使わない知識ではございますが、万が一の時に、皆さんや皆さんのまわりの方々の命を繋ぎとめる、とても大切な内容となっております。この講義が終わったあとも、定期的に内容を確認し、万が一の時に備えて下さい。また、協会の方でも定期的に講習会を行っております。他にもスキルアップ講習など、魔術と医術を組合せた内容の講習も行っておりますので、興味のある方は是非、ご参加下さい」
ジョンは一気にしゃべり終わると、確認するかのように受講生たちを見回した。
そして、にっこり頷くと、テキストを手に取る。
「では、講義をはじめます。まず、テキストの1ページ目を開いてください」
受講生たちがテキストを開く音が講堂内に響いた。




