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ロジーナ弟子をとる  作者: 岸野果絵
中級魔術師編
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アリア、中級魔術師試験を受ける

登場人物紹介(追加)


サーナ・・・初級魔術師。

カトリーナ・・・初級魔術師。

「えっ」

後ろから小さな悲鳴が聞こえた。

アリアが反射的に振り向くと、後ろの席の少女がお弁当を広げたまま固まっていた。


「どうかしたの?」

話しかけると、少女は目を潤ませた。

「お箸が……」

アリアは身を乗り出して少女の机の上を見てみた。

お弁当はあるが、確かに箸やフォークがなかった。

アリアは何か代わりになるモノはないかと、自分のお弁当セットを確認してみた。

が、残念ながら見つからなかった。

アリアが再び振り返ると、少女は真っ赤な顔をして今にも泣き出しそうだった。


よりによって、試験の当日にこんなトラブルに見舞われるなんて。

アリアは少女が気の毒でならなかった。


「はいっ」

アリアと少女の目の前に箸が差し出された。

二人が顔を上げると、見事なブロンドの少女が立っていた。

「あたくし、おにぎりだから大丈夫よ」

人懐っこい笑みを浮かべる。

「ありがとうございます」

お箸を忘れた少女は長い三つ編みを揺らしながらペコリとお辞儀をすると、箸を受け取った。

アリアはホッとして向き直ると、お弁当を食べはじめた。




*****************


午後の試験は実技だった。

受験生は協会の修練場に集められた。

受験番号順に数名が出て、動く標的に向かって魔弾を撃ち込む。

アリアは緊張しながら自分の順番を待っていた。


「ふー。ふー」

隣から荒い息づかいが聞こえてきた。

アリアがおそるおそるそちらに目をやると、先ほどの三つ編みの少女だった。

よく見ると、両手が小刻みに震えていた。

「大丈夫?」

アリアは小声で話しかけた。

「緊張しちゃって」

少女はぎこちない笑みを浮かべる。

「私も」

アリアは少女にニコッと笑いかけたつもりだったが、緊張で少し強張った笑みしか浮かべられなかった。


「次、85番、86番、87番」

アリアの番号が呼ばれた。

「はいっ」

アリアは元気よく返事をすると、気合いを入れて立ち上がった。


「頑張ってね」

振り向くと、先ほどの少女が手を軽くグーに握って小さく振っていた。

アリアはうなづくと、気合いを入れて歩き出した。



アリアは指示された場所に立つと大きく深呼吸をする。

浅く早くなってしまっている呼吸を整えるためだ。


大丈夫。

いつもやってるのと同じこと。

心の中で自分にそう言い聞かせ、アリアは慎重に魔弾をつくる。


アリアは試験官の指示通りに、魔弾を10発作った。


ブー

合図の音がした。

アリアはゴクリと唾をのみこんだ。


前方に標的があらわれゆっくりと動き出す。

アリアはすぐさま1発目を飛ばした。

アリアの魔弾は標的の進む先にめがけて飛んでいく。


しまった。

アリアがそう思ったと同時に、魔弾は標的の進行方向前方をすり抜けた。


標的の動きは、アリアの想像していたより全然遅かった。

まるで止まってるかのような、拍子抜けしそうな速度だ。


大丈夫。

次は絶対にはずさない。

アリアは気合いを入れなおす。


ブー

二度目の合図がなった。


標的が動き出す。

アリアはゆっくりとその動きを見極めて、慎重に魔弾を飛ばした。


パン

魔弾は標的のど真ん中に命中した。

アリアはホッと息をつく。


ブー

また合図がなった。


アリアは難なく魔弾を命中させる。

その後も4発目、5発目と命中させていく。


アリアはふと先日の鬼カルロスの言葉を思い出した。


「オレ様の動きについてこれるんなら、実技なんて楽勝だ。目をつぶってたってパスできらぁ」

あの時はカルロスが冗談半分に言ったとアリアは思ったいたが、あれは本当のことだった。

カルロスのその大きな体躯に不釣り合いなほどの俊敏な動きに比べれば、目の前の標的の動きは、まるでよちよち歩きの赤ん坊のようだ。

しかも、標的はカルロスのように想定外の動きもしないし、反撃もしてこない。

「楽勝」とまではいかないが、慌てずに冷静に狙えば難なく命中させることが出来る。

悔しくて認めたくはないけれど、鬼カルロスの訓練の成果に違いなかった。


その後もアリアは残りを全て命中させ、外したのは最初の1発目だけだった。




******************


試験が終わり、受験生たちは荷物をおいてある講義室へと移動した。


アリアも講義室に戻ると帰り支度をはじめた。

「ねぇ、あなた。なかなかやるじゃない」

振り向くと見事なブロンドの少女――あのお箸を差し出した少女が立っていた。


「あたくしはカトリーナ」

そう言ってアリアの方に手を出す。

「私はアリア」

アリアはその手を握り、二人は握手を交わす。

「お互い、頑張りましょう」

カトリーナはニッと笑う。

「あの……。私もお仲間に入れてください」

声の方をみると、先ほどの三つ編みの少女が立っていた。

「ええ。もちろんよ」

カトリーナはニッコリ笑って手を出す。

「私はサーナです。さっきは、お箸、ありがとうございました」

サーナはカトリーナと握手を交わすと、はにかんだ笑みを浮かべながらアリアの方を向く。

アリアとサーナも握手を交わす。

三人は互いに手をつなぎ、輪になった。


「みんな受かるといいね」

アリアはニコニコしながら言った

「筆記でポカしてなけば、大丈夫よ」

「そうなの? 」

カトリーナの言葉にアリアは首を傾げた。

「ええ。事前情報によれば、実技は7割、つまり7発当てればクリア。筆記は足きり問題にさえ引っかからなければ、なんとかなるらしいわよ」

「私、実技がギリギリです。カトリーナちゃんって情報通なのね」

サーナが目をぱちくりさせた。

カトリーナは「うふふ」と笑ってウインクした。


三人はその後、連れだって講義室を後にした。

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