アリア、転送される
「では、瞬間移動術を今の形に完成させたのは、魔女ラセリアではなく、魔術師マティアスなのですか?」
ルーカスの問いにクレメンスは「うむ」と肯く。
訓練の合間のティータイムではあったが、結局、魔術の話になってしまう。
「正史では魔女ラセリアの記載しかないのですが……」
「それはな」
語りかけたクレメンスの動きがとまった。
ルーカスも異変に気がつく。
何か大きな力が弾けたような圧力を感じる。
とても厭な気配だ。
ルーカスは、足早に居間を出て行くクレメンスの後を追いかけた。
二人は瞬間移動ゲートが設置されている部屋に飛び込んだ。
ゲートの中央にえんじ色の鎧を着た少女ーーアリアが呆然とした様子で立っていた。
鎧の装飾模様が怪しく輝いている。
その緊迫した様子に、ルーカスは息をのんだ。
「アリア」
呼びかけに反応したアリアはこちらをむ向いた。
少し震えているようだ。
「アリア、なにがあった?」
クレメンスがゆっくりと落ち着いた声で話しかる。
しかしアリアはあたりをキョロキョロ見回しているだけだった。
「時間がない」
クレメンスはアリアの額に人差し指と中指をあてると、魔術を練りはじめた。
アリアは抵抗する様子もなくボーッと立っていた。
しばらく静寂が続いた。
「ルーカス、後は頼んだぞ」
クレメンスはそう言い残し、姿を消した。
「アリアさん、大丈夫ですよ」
ルーカスはアリアの肩を優しく叩いた。
「ここは?」
アリアの瞳にルーカスがうつる。
「館ですよアリアさん」
ルーカスはアリアの不安を和らげようと微笑みかける。
「お師匠様は?」
アリアは震える声で尋ねた。
「……」
ルーカスは返答に困った。
ルーカスには何が起こったのか全くわからない。
ましてやアリアの師匠であるロジーナの身については検討もつかない。
「お師匠様は? ジャックさんは? カールさんは?」
アリアの目に大粒の涙があふれてくる。
「大丈夫です。大丈夫なはず…です……」
ルーカスはアリアの勢いに後ずさりしながら、どうしたらアリアを落ちつかせられるのか、頭をめぐらせた。
「お師匠様……お師匠様……うぅぅ…」
アリアは胸の前で拳を握り締め嗚咽をもらす。
「大丈夫です。ロジーナ先生なら大抵のことはなんとかなさるはずです」
ルーカスはアリアの背中をなだめるかのようにさすりながり言った。
「それに、師匠が向かったはずです」
アリアは顔をあげてルーカスの顔をじっと見つめる。
「先ほど、たぶんですが、師匠はアリアさんの記憶を読み取ってました。師匠とロジーナ先生、お二人ならどんなことでもなんとかなります」
ルーカスはアリアの目をまっすぐ見つめながら言った。
と、その時、もう一つの魔力の動きを感じた。
「もうお一人、動いたようですね」
ルーカスの言葉にアリアは何かを見るように視線を動かす。
「私たちに出来ることは信じて待つことです。とりあえず、場所を移しましょう」
アリアがうなずく。
ルーカスは、足元のおぼつかないアリアを支えながら居間へと誘導した。




