アリア、違和感をおぼえる
小鬼の巣があるという洞窟は、村のすぐ近くにある小さな山の陰にあった。
日中にもかかわらず薄暗い。
入口には木の枝がたれこめていて、不気味な雰囲気をかもし出している。
アリアはごくりと唾をのみこんだ。
想像していたよりも重苦しい空気を感じたからだ。
そんな気配を無視するかのように、カールはさっさと洞窟のなかに入っていく。
ジャックは驚いたように立ち止まった。
「ったく」
ロジーナの舌打ちと同時に、小さな光の玉がふわふわとカールを追いかけて行った。
ジャックやアリアのすぐそばにも光の玉が浮いている。
「打ち合わせも無理みたいね」
ロジーナのため息まじりの発言に、ジャックは苦笑いを浮かべながら頷いた。
「小鬼ですから……」
ジャックはポツリとつぶやくとカールの後に続いた。
アリアはそんな様子を黙って眺めていた。
「アリア、先に行きなさい。私がいるから大丈夫よ」
ロジーナがアリアの背を押し出すようにポンと叩く。
アリアは深呼吸をして歩きだした。
先ほど感じた異様な雰囲気はアリアの気のせいだったのだろうか。
カールはもちろん、ジャックも、そしてロジーナも、その事について触れない。
それどころか、何も感じていない様子だ。
はじめての魔物退治で緊張しすぎてるだけなのだろうか。
そうだ。
きっとそうに違いない。
おかしなことがあれば、きっとロジーナが何か言ってくれるはずだ。
何も言わないということは、おかしなことは何もないということに違いない。
アリアはそう自分に言い聞かせて歩きだした。
****************
「なんだ、これだけか」
カールが鼻を鳴らしながら言った。
洞窟はすぐに行き止まりになっていた。
その上、小鬼も数匹いただけだった。
その小鬼はカールがあっという間に屠ってしまったのだ。
「おい。この程度ならお前だけで何とかなったんじゃないか?」
「すみません」
小鬼の死体をもて遊ぶように蹴りながら問いかけるカールにジャックは申し訳なさそうな声であやまる。
「提示した報酬は出るんだろうな?」
「もちろん、お支払いいたします」
「俺は忙しいんだ。戻ったら即金で払えよ」
ぺこぺこと頭を下げるジャックに、カールは居丈高に言い放つ。
拍子抜けしていたアリアだったが、このカールの態度にムカムカしてきていた。
ジャックは報酬をきちんと支払うと言っているのに、なぜカールは威張り散らしているのだろうか。
アリアには全く理解できなかった。
アリアはその不快感を伝えようとロジーナをチラリとみた。
ロジーナは腕を組み、じっと床を見つめたまま、ピクリとも動かなかった。
アリアは、ロジーナも自分と同じくカールにムカついて、カールとジャックから目をそらしてるのだと思った。
だから、アリアもロジーナにならって、何も言わずにそこにじっとしていた。
「ったく、お前らみたいな臆病者のせいで」
カールは苛立たしげに洞窟の壁を蹴りあげた。
ボフッ
壁に穴があいた。
アリアの心臓がぎゅっと収縮した。
息が止まりそうになる。
カールは怪訝そうな表情を浮かべながら、穴が開いたあたりに二、三度蹴りをいれる。
壁はボロボロと崩れ、穴はさらに大きくなった。
アリアは浅い呼吸を繰り返す。
背中がゾワゾワする。
額に冷たい汗が浮かんできた。
「隠し部屋か」
カールはそう言うと、楽しそうに口笛を鳴らす。
その音は壁の穴に吸い込まれていった。
カールは斧の柄で穴を自分が通れるくらいに広げると、意気揚々という雰囲気でその奥へ行ってしまった。
「ちょっ」
ジャックは慌てたようにカールの後を追う。
アリアは突然肩を掴まれ、ビクッと振り向いた。
そこには眉間に皺をよせたロジーナの顔があった。
「アリア、あんたは先に戻りなさい」
ロジーナの言葉にアリアは首をフルフルとふった。
今すぐ逃げ出したいが、足がすくんでうまく動かなかった。
一人でこの洞窟を戻るのは不安だ。
そう、アリアは一人になるのが怖くて仕方なかった。
「そうね……。一人にするのも心配ね……」
ロジーナはそう言うと、確認するように息をついた。
「なにか起こったら、迷わずに逃げなさい。私はもちろん、他の人のことも考えなくていいいからね」
ロジーナにポンと背中を叩かれたアリアは、こくりと頷いた。




