ロジーナ、居眠りする
今年も無事に乗り越えた。
ロジーナは出勤するコーネリアを見送ると、ソファーに寝転がった。
明日には帰省しているアリアを迎えに行かなければならない。
ゆっくり休めるのは今日だけだった。
ここ最近の温泉ブームで、静かだった村は観光客が訪れる温泉街となっていた。
特に年末年始は、のんびりと温泉で過ごそうという人々で賑わう。
小さな村は、村人よりも多い観光客の応対で大わらわになる。
人付き合いが苦手なロジーナだったが、素朴な村人たちとは良好な関係を築いていたので、この繁盛期には裏方として、あれやこれやと協力していた。
年越しの準備、村や神殿の手伝い、さらに大晦日の夜から元旦にかけての初日の出ツアーの付き添いなど、ロジーナにとって年末年始は一年で一番忙しい時期だった。
人並み以上の体力をもつロジーナだったが、三が日を終えるころには、疲れ果て、立っているのすら億劫になっていた。
香ばしいにおいに、ロジーナの鼻が反応した。
お腹がギュルルと鳴る。
ロジーナはゆっくりと目を開けると、ハッとして起き上がった。
毛布がパラリと床に落ちる。
時計はすでに昼時を示していた。
ロジーナは慌てて立ち上がると、台所へと向かった。
台所ではクレメンスが昼食の支度をしていた。
「ごめんなさい。私が当番だったのに……」
いつもはアリアとルーカスが交代で食事の支度をしていたが、アリアが帰省している間は、ロジーナがアリアの代わりに食事の支度をすることになっていたのだ。
「疲れているんだろ? 気にすることはない。それに私は食べたいものがあるのだ」
クレメンスはそう言いながら汁物の味見をし、満足げにうなずいた。
「手伝うわ」
ロジーナはエプロンを手にしながら言った。
「ならばルーカスたちを呼んできてくれ。修練場にいるはずだ」
クレメンスが盛り付けをしながら言った。
「うん。わかったわ」
ロジーナはエプロンをおくと、中庭にある修練場へと向かった。
ロジーナは中庭に出た。
修練場の前でルーカスと立ち話をしているコーネリアの姿が見えた。
「あ。ロジーナちゃん。おはよ~」
コーネリアは手を振ると「うふふ」といたずらっぽく笑った。
居眠りをしていたのを見られた、と気がついたロジーナは軽く眉間にしわを寄せた。
「コーネリア。ずいぶん早いのね」
ロジーナは低い声で言った。
「うん。今日はおじちゃん達の訓示を聞いてあげるだけのお仕事だから~」
コーネリアは小首をかしげて「うふふ」と笑った。
ロジーナは何の気なしに視線を動かす。
ニコニコしながら立っているルーカスに気がついた。
「そうだ。ルーカス君。お昼ごはんできたわよ」
「あ、はい。いつもすみません」
ルーカスは一礼する。
「今日はクレメンス先生の手料理だもんねぇ。楽しみ~」
コーネリアはニコニコしながら胸の前で指を組む。
「え、師匠が?」
ルーカスは驚いた顔でコーネリアを見て、すぐにロジーナに視線を移す。
「そうよねぇ。ロジーナちゃん」
コーネリアはロジーナにニッコリと笑いかける。
ロジーナは顔をひきつらせ、咳払いをする。
「クレメンスが食べたいものがあるって言うから代わってあげたの」
ロジーナは斜め下を見ながら、少し強い調子で言った。
「そういう事にしとくね~」
コーネリアはクスクスと笑いながら、食堂へ向かって歩き出した。
ルーカスは不思議そうに首をひねながら後に続いた。
「しておくも何も、ほんとのことなんだから」
ロジーナはブツブツ文句を言いながら食堂へと向かった。




