エルナンド、現る
三人は料理をとると、座る場所を見つけ、食べはじめた。
最初は周りの様子に見とれていたアリアだったが、今は料理の方に夢中のようだった。
ロジーナとコーネリアは、そんなアリアを微笑ましく眺めながら、おしゃべりに花を咲かせていた。
「料理とってきます」
アリアは立ち上がると、まっしぐらに行ってしまった。
「あれは全種類食べる気ね」
ロジーナの言葉にコーネリアはクスクス笑う。
「ねぇねぇ、ロジーナちゃん」
ロジーナはコーネリアに肩を叩かれる。
促された方をみると、ルーカスが立っていた。
ルーカスの前に一人の老人の姿が見える。
「エルナンド先生よ」
コーネリアが小声で言う。
ロジーナは頷いて立ち上がり、ルーカスの方へと向かった。
エルナンドの様子はこちらに背を向けているのでよくわからないが、ルーカスは愛想笑いを浮かべ、ペコペコしているように見える。
どう見ても、エルナンドがルーカスに何やら難癖をつけているようにしか見えなかった。
エルナンドはロジーナの気配を敏感に察知したのか、ロジーナがルーカスのそばに到着する前にその場を離れた。
「ルーカス君」
ルーカスは固い表情を浮かべていたが、ロジーナに気がつくとすぐに微笑んだ。
「さっきの方は?」
「前の師匠です」
ルーカスは視線を落とす。
「そう。なんか言われてたみたいだけど、大丈夫?」
「大丈夫です。大したことはありません」
ルーカスは俯き気味でこたえると、顔をあげ、エルナンドの後姿を見据えた。
「もう、過去のことですから」
ルーカスは右手の拳をギュッと握りながら、静かにキッパリと言った。
「そう。ならいいんだけど。何かあったら言ってね。師匠に言いにくいようなら、私に言ってくれてもいいのよ?」
「ありがとうございます」
ルーカスは頭を下げた。
「ルーカス」
いつの間にかクレメンスがそばに来ていた。
「ついてきなさい」
クレメンスはそう言うと歩き出した。
「はい」
ルーカスは返事をすると後を追った。
クレメンスは、古参の師範たちと談笑しているエルナンドの横に立った。
「エルナンド先生。ご無沙汰しております」
エルナンドは会釈をするクレメンスに柔和な笑みを向ける。
「これはこれはクレメンス先生。お元気そうで」
クレメンスは顔をあげると微笑む。
「この度、私の元に入門したルカースです」
クレメンスはルーカスをチラリと見た後、エルナンドに視線を戻す。
エルナンドの瞳の奥に険が宿る。
クレメンスとエルナンドの視線が交差する。
「これはこれはご丁寧に。ルーカス殿と申されたかな?頑張ってください」
エルナンドは即座に柔和な笑みに戻ると、ルーカスににっこりと笑いかける。
「ありがとうございます」
ルーカスは深々と頭を下げた。




