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ロジーナ弟子をとる  作者: 岸野果絵
入門編
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アリア、強制送還される

<設定>

 この世界では、魔術師は専門職として認知されています。専業の者はもちろん、兼業の者も、基本的に全ての魔術師は魔術師協会という職能団体に所属しています。

「アリア。こんなところにいたのか!!」

 玄関から聞こえてきた男の声にロジーナの注意が向く。

 先ほどアリアが呼び鈴に玄関へと向かったはずだ。


 何かトラブルでもあったのだろうか。

 ロジーナはゆっくりと立ち上がると、玄関へと向かった。


「あなたが突然いなくなって、おじさんもおばさんも心配したのよ」

 玄関には見知らぬ夫婦らしき二人連れがいた。

 ロジーナは腕組みをしながら、じっくりと観察する。

 よくみれば、女性の目元はどことなくアリアに似ている。


「あんな書き置き一枚で……。さあ帰るぞ」

 男性はアリアの腕をつかむと、強引に引っ張ろうとする。

「イヤ。私はロジーナ様のお弟子なの!!」

 アリアはその場に踏みとどまろうと、必死に抵抗する。

「何を言ってるんだ。こちら様にも迷惑だろ」

「あなた、そんな乱暴に……」

 女性はおろおろしている。


「アリア。どういうことかしら?」

 ロジーナの低い声が響く。

 三人の視線が一斉にロジーナに向いた。

「お師匠様……」

「アリア。あんた、おうちの方とは話がついてるって言ったわよね?」

 ロジーナは片眉をあげる。

「……」

「どうなの?答えなさい」

 ロジーナは薄い目をしてアリアを睨む。

 アリアは黙ってうつむいていた。


「ロジーナ。こんなところですませる話ではなだろう。ささ、奥にどうぞ」

 クレメンスが一同を応接室に誘導する。

 ロジーナはアリアを薄目で睨んだまま、一番最後に応接室に入った。



 訪ねてきたのはアリアの親代わりの伯父と伯母だった。

 アリアの父親は魔術師だったが、魔物の討伐中に亡くなり、アリアの母親は心労が重なったため亡くなってしまった。そこで子供のいなかった伯母夫妻がアリアを引き取ったのだ。


 伯母夫妻の話によると、アリアは「魔術師になります。お世話になりました」とだけ書いた書き置きを残して消えた。二人は突然いなくなったアリアをあちこち探して、やっとこの館にたどり着いたのだった。


「アリアには魔術師になってほしくないのです」

 伯父は静かに言った。

「アリアを、あんな、あんな危険な目に……」

 伯母はそう言いながら、涙をぬぐう。

「もちろん、魔術師を否定するつもりはありません。でも、アリアには普通の、平凡な人生を歩んでもらいたいのです」

 ロジーナはそんな夫妻の話をじっと黙ってきいていた。


 魔術師は危険な職業。確かにその通りだった。

 一般人が足を踏み入れない場所に行ったり、危険な任務を遂行することもある。

訓練中に事故を起こしてしまうこともよくある。

 ましてや、アリアの父親は任務中に亡くなっているのだ。

 夫妻がアリアを魔術師にしたくないのは当然の反応だ。


 それに、孤児であるロジーナにはアリアの行動が許せなかった。

 実の親ではなくても、こんなに心配して駆けつけてくれる育ての親がいるのだ。

 突然姿を消したアリアを、必死になって探し回ったであろうことは、夫妻の様子をみれば明らかだった。アリアがどれだけ愛され、大切に育てられてきたか、アリアの明るい性格をみてもよくわかる。

 親という存在を知らないロジーナにとって、アリアのしでかしたことは、どうしても我慢がならななかった。


「お話は分かりました。アリアさんの入門は白紙に戻しましょう。立派なご両親がいらっしゃるのに、安易にお嬢様を入門させてしまい、申し訳ありませんでした」

 陳謝するロジーナに夫妻は慌てた。

「とんでもない。突然押しかけて、ご迷惑を……」

「いいえ。きちんと確認しなかった私に否があります」

「お師匠様は悪くありません。私が……」

 アリアは顔を真っ赤にして立ち上がった。

「アリアさん。あなたは私の弟子じゃないわ。荷物をまとめてさっさと帰りなさい」

 ロジーナは他人行儀に言い放つ。

「イヤです」

 アリアは両手をギュッと握って叫ぶ。


「この業界、舐めてもらっちゃ困るのよ」

 しばしの沈黙の後、ロジーナはテーブルを見つめがら、低い声で言った。

「親の一人や二人説得できないような、そんな甘ちゃんが生き残れるような、生易しい世界じゃないの」

「お師…ロジーナ様……」

 アリアはすがるような目でロジーナの方に来る。

 ロジーナは素早く立ち上がると、なにかを唱えながら人差し指と中指をアリアの額に当てる。

 アリアの髪が一瞬だけふわっとなびく。


「あなたの魔力は封印したわ」

 アリアの目が驚愕に見開かれる。

「それでは、ごきげんよう」

 ロジーナはにっこり笑うと、応接室を後にした。

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