コーネリア、依頼に来る
ロジーナの元に、試験官の依頼書を持ってコーネリアが訪ねてきた。
「中級じゃなくて、上級なの?」
ロジーナは依頼書の文面を見ながら言った。
「そうなのぉ~。ベテランの師範さんは、お弟子さんが受験生な方ばかりで、なかなか該当者がいなくて~」
協会の規定では、弟子が受験する場合、師範は該当試験の試験官にはなれない。
アリアはまだ中級魔術師試験を受けられるほどにはなっていなかった。
もちろん上級魔術師試験は夢のまた夢だ。
「う~ん。引き受けたいのは山々だけど……。上魔試験てのがねぇ。あれって色々細かいみたいだし、拘束時間長いし……」
ロジーナは渋面を作り頬杖をついて唸っている。
「ロジーナちゃん。お願い。助けると思って引き受けて」
コーネリアは手を合わせて懇願する。
ロジーナはコーネリアをチラリと見た。
なぜロジーナにお鉢が回って来たかは、薄々気がついていた。
ルーカスが春の上級魔術師試験を受験するのだ。
クレメンスは隠居中とはいいながらも、毎年試験官をしていた。
今回はできない。
そこでロジーナの名前が挙がったのだろう。
そのことをはっきり言わないのはコーネリアの人柄だ。
「しょーがないわね」
ロジーナはため息まじりに言った。
「ありがとう。助かるぅ~」
コーネリアは軽く小首をかしげてニッコリする。
「今回だけだかんね」
ロジーナは目を逸らし、口をとがらせてこたえる。
「うんうん、わかってる~。次回からはまたクレメンス先生に頼むから~」
「そうして頂戴」
ロジーナはそういうと、コーネリアの持ってきた羊羹を一口食べた。
「う~ん。マルヤの羊羹は絶品ね」
ロジーナは満面の笑みを浮かべて味わう。
コーネリアもニッコリして、羊羹を一口食べる。
「ねぇ、ロジーナちゃん。ルーカス君は順調?」
「うん。試験には余裕で間に合うはずよ」
「そう……」
コーネリアは視線を落とし気味だ。
ロジーナはコーネリアの様子に違和感を覚えた。
「私、なんかはずした?」
「ううん。そんなことないよぉ」
コーネリアは首を振るとふわっと微笑んだ。
ロジーナは首をひねった。
なんだろう。
コーネリアの反応がいまいちな気がする。
「コーネリア、どうかした?」
ロジーナは思い切って尋ねてみる。
「え? なに?」
コーネリアはきょとんとした顔になる。
「ごめん。なんでもない」
ロジーナは首を左右に小刻みにふる。
しばらく沈黙が続いた。
なんだか気まずくなって、ロジーナは口を開いた。
「ねぇ」
コーネリアも同時に言った。
「あ、ロジーナちゃん、どぞ」
「ううん。大したことじゃないから、コーネリアから言って」
「うん。あのね……」
コーネリアは言いかけて、考え込んだ。
ロジーナは黙ってコーネリアを見つめていた。
「あのね……」
「うん」
「その……」
「うん」
コーネリアは言葉を探しているようだった。
ロジーナは根気よく待った。
「紅葉。そう、ここって紅葉がきれいなんでしょ?」
コーネリアは話を逸らした、とロジーナは感じた。
何かを隠した。
「そうね。一部じゃ有名みたいで、けっこう観光客がくるわよ」
ロジーナはこたえながら、コーネリアの様子を窺う。
「そうなんだぁ~。うらやましい~」
コーネリアはいつもの口調に戻ったが、ロジーナは少し言い方がぎこちない気がしてならなかった。
「なんなら見に来る?」
「え、いいのぉ?」
コーネリアの顔がパッと明るくなる。
「もちろんよ。ちょっと遠いけど、とっておきの場所もあるのよ」
「うわぁ~行きたい~」
コーネリアは胸元で指を組んで小首をかしげる。
いつものコーネリアの仕種だ。
思い違いだったのかもしれない。
ロジーナはニッコリと笑うと言った。
「じゃあ、見頃になったら連絡するね」
「うふ。ありがとぉ。楽しみに待ってるね~」
コーネリアは満面の笑みを浮かべた。




