アリア、弟子になる
アリアはよく働いた。
朝は誰よりも早く起きて朝食の準備をし、ロジーナたちが食事をとっている間に、門の外を掃き清める。朝食をかっこむようにすませると、後片付けをし、掃除や洗濯をする。昼食を用意して、片づけてから買い物に行き、夕飯やお風呂の支度をする。
アリアは一日中、何かしら仕事を見つけては、くるくると動きまわった。
アリアが来てから数日が過ぎた。
ロジーナはアリアに魔術を教える素振りは一切なかった。それどころか、アリアの存在すら素知らぬふりをしていた。
ロジーナは食事を終えると書斎に閉じこもってしまうか、ふらりと出かけてしまう。たまにアリアに話しかけることといえば、「それとって」や「これ仕舞っておいて」などの雑用を頼むくらいだった。
アリアは完全に下女扱いをされていた。
しかし、アリアはロジーナの冷たい仕打ちにもめげなかった。ロジーナが雑用を命じれば、二つ返事で嬉々としてしたがった。
アリアにとって、ロジーナは子供のころからずっと憧れていた魔術師だった。
もちろん、アリアだって魔術を教わりたいし、いつかはそれなりの魔術師になりたいとは思っている。しかし、今はこうしてロジーナのそばにいられるだけでも大満足だった。
その日、めずらしくロジーナは居間のソファーに寝転んで本を読んでいた。
アリアは拭き掃除をしながら、そんなロジーナの姿を、ときおりちらちら眺めていた。
「ちょっと出かけてくるわ。ああ、あんたはついて来なくていいから」
ロジーナはふいに立ちあがり、読んでいた本を無造作にソファーに置くと出て行ってしまった。
アリアはちょっぴり残念に思いながらも居間の掃除を続けた。
一通り部屋の掃除を終えたアリアは、ソファーに置かれている本に気がついた。
テーブルの上にでも移動しようと、本を手にとった。
魔術書だった。
ちょっとだけ……。置いてあったんだからいいわよね。
アリアは自分にそう言い訳をして本を開いた。
アリアは辿々しく格闘しながらも、魔術書にひきこまれていった。
知らず知らずのうちに、時が流れていった。
「へぇぇ。字は読めるのね」
突然背後からふってきたロジーナの声に、アリアはビクッとなる。
本に夢中になっていたアリアは、ロジーナが帰ってきたことに気がつかなかったのだ。
振り向くと、ロジーナは腕組みをしてアリアを見下ろしていた。
許可なく勝手に本を読んでしまったのだ。怒られる。いや、追い出されるかもしれない。
アリアはその場にすくんでいた。
「その本あげるわ。飽きちゃったし」
ロジーナはそれだけ言うと部屋から出て行ってしまった。
アリアは呆然としていた。
怒られなかった。追い出されなかった。そうだ、あげるって。
この本。この本、あげるって……。
「ありがとございますっ!!」
アリアは魔術書を胸にギュッと抱きしめた。
翌朝、食卓を片づけているアリアに向かってロジーナが言った。
「アリア。それが終わったら、昨日の本を持って書斎に来なさい」
驚いたアリアが顔を上げると、ロジーナはドアノブに手をかけているところだった。
「そうだ。言っとくけど、教えるからには容赦はしないわよ」
ロジーナは振り向きもせずそう言い残すと行ってしまった。
「頑張ります!!」
アリアは目を輝かせながら叫んだ。