アリア、無事帰る
夢中で花を摘んでいるアリアのそばにルーカスがやって来た。
「アリアさん。もうそれで充分ですよ」
アリアは首をかしげた。
アリアの目の前には、まだまだたくさんの花があった。
「必要な分だけでいいんです」
「でも……」
「来年のためにとっておくんですよ。根こそぎとっていったら、もう二度と咲かなくなってしまいます」
「えっ。そうなんですか?」
アリアは驚いて目をばちくりさせる。
「そうなんです」
ルーカスはうなずきながら答えた。
アリアとルーカスが崖の上に戻ると、クレメンスは全ての魔法を解除した。
「ルーカス殿。アリア。すまないが、帰路は省略させていただく。妻が気がかりなものでな」
クレメンスはそう言いながら術を行使する。
辺りの景色が歪み、三人は朝の集合場所に瞬間移動した。
「本日はありがとうございました」
ルーカスが丁寧にお辞儀をする。
「いえ、こちらの方こそ。アリアには良い経験になりました」
「ルーカスさん。ありがとうございました」
アリアはペコリとお辞儀する。
ルーカスはニコニコしながら、アリアに小さな袋を差し出した。
あの赤い実の入った袋だった。
「良かったら、どうぞ」
「うわぁ。ありがとうございますっ」
アリアは大喜びで受け取ると、さっそく一粒食べる。
「おいしい」
アリアはうっとりと味わう。
「ルーカス殿。貴方には魔術の才能が有ります」
「え?」
ルーカスは驚いてクレメンスの顔を見る。
「ルーカス殿ならば、上級魔術師どころか師範魔術師も夢ではない」
ルーカスはぽかんとしている。
「もし、その気になったのならば、私の元に来なさい。いつでも歓迎しよう」
ルーカスはクレメンスに問いかけるように目を見開く。
クレメンスはそれに応えるように、大きくうなずく。
「あ、ありがとうございます!!」
ルーカスは顔を上気させて、深々と頭を下げた。
「では」
クレメンスは会釈をし、術を使い、アリアとその場から消えた。
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アリアとクレメンスが館に戻ると、ロジーナは食堂にいた。
「お帰りなさい。ずいぶん早かったわね」
ロジーナは食事をする手を休めることなく言った。
食卓の上にはたくさんの料理が並んでいる。
「もういいのか?」
「大丈夫みたい。ずぅっと食べてなかったから、も~お腹空いちゃって、空いちゃって」
ロジーナの血色はかなり良くなっていた。
クレメンスは肩をすくめてアリアを見る。
アリアはクスクスと笑いだした。




