アリアVSロジーナ
しとしとと雨が降りはじめた。
クレメンスは腕を組み、窓辺に身を預けていた。
先ほどから、その視線は変わらず外へと向けられている。
今日も懲りずにアリアはやってきた。
アリアが何度呼びかけ、門扉を叩こうとも、ロジーナは無視を決め込んだ。
「お弟子にしてくださるまで、ここを動きません!!」
アリアはそう叫ぶと、ついに座り込みをはじめた。
すぐにあきらめて帰るだろう、そう思った。
だが、その予想は大きく裏切られた。日が落ちてもアリアは帰らない。雨が降りはじめてもアリアは動かなかった。
「なんなのよ。言いたいことがあるなら言いなさいよ」
沈黙に耐えきれなくなったロジーナは、勢いよく立ち上がりながらクレメンスに怒鳴った。
「何を怒っているのだ。私はただ外の景色を見ているだけだ」
クレメンスは素知らぬ顔で言う。
ロジーナはキッとクレメンスを睨むと、ドスドスと足音をさせて部屋を出て行った。
「ちょっと、いいかげん帰んなさいよ。こんな雨の中座り込みされても、目障りなだけなのよ」
ロジーナはアリアを見下ろしながら言った。
「イヤです。お弟子にしてくださるまでは帰りません」
アリアは口をへの字に曲げた。
「ちょっと、どきなさいよ」
ロジーナはそう言うなり、アリアを小突いた。
アリアの前髪から雫が流れ落ちる。
「どきません」
アリアは踏ん張った。
ロジーナは舌打ちをすると、思いっきりアリアを押す。
「どきなさい」
「どきません」
アリアは石のように動かない。
「どきなさい」
「どきません」
そんな押し問答が、しばし続いた。
「あんたってほんと強情な子ね」
ロジーナはとうとうアリアの腕をつかみ、力任せに引いた。強引に動かすつもりなのだ。
アリアは歯を食いしばり、顔を真っ赤にして踏ん張る。
「ちょっとぉ、なんて力なの」
ロジーナは懸命に引っ張る。
アリアも必死に抵抗する。
しばらくの間、攻防戦は続いた。
「ロジーナ。どうやらお前の負けのようだな」
小一時間ほど経ったころ、クレメンスの静かな声が響いた。
ロジーナはフンっと鼻を鳴らすとアリアの腕を離した。
二人ともずぶ濡れだった。
「あんた、何でもすると言ったわよね」
ロジーナは腰に手をあて、アリアを見下ろした。
「はいっ」
「じゃあ、下女ならいいわ。下女としてならおいてあげる」
アリアの顔がみるみるパアッと明るくなる。
「勘違いしないでちょうだい。まだ弟子にするとは言ってないわよ。下女よ、下・女。見込みがなかったら追い出すからね」
ロジーナはそう言い残すと、プイッと館の中へ消えて行った。
アリアは祈るように両手を組み、目をキラキラさせながらロジーナの消えた先を見つめていた。
こうしてアリアは、この館で暮らすことになった。




