ケンカの真相
先に根負けしたのはアリアだった。
クレメンスが草むしりをしているところにアリアがやってきた。
「あの……。旦那様。お師匠様は人間ですよね」
「ん?何か言われたのか?」
クレメンスはアリアを見ずに、草むしりを続行しながら尋ねた。
「……人間ですよね?」
アリアは再度たずねた。
「誰かに何か言われたのか?」
アリアはクレメンスの問いに答えずに、クレメンスの横にしゃがみこんだ。
「魔物なんかじゃないですよね?」
今にも泣き出しそうな顔でクレメンスを覗きこむ。
クレメンスの手が止まった。
ケンカの原因はこれだったのか。ヘレンに、ロジーナは魔物だ、とでも言われたのだろう。アリアが激怒し手を出したのもうなずける。頑なに理由を言わなかったのも納得できる。
クレメンスはゆっくりと立ち上がった。アリアもつられて立ち上がる。
「ロジーナは歴とした人間だ」
クレメンスは、今のところはな、という言葉は省いた。
「よかった」
アリアは胸に手をあてホッっと微笑んだ。
「アリア。もし魔物だと答えたらどうする?」
クレメンスはアリアの顔をじっと見つめながら尋ねた。
「え?」
アリアは怪訝な顔で首をかしげる。
「嫌いになるか?」
アリアは首を左右にフルフルと振る。
「弟子をやめるか?」
「やめません!!」
クレメンスの問いにアリアは思わず大きな声をだした。
「そうか。ならば気にするな」
「え?」
アリアはきょとんとする。
「人間だろうがなかろうが、ロジーナはロジーナだ。そうであろう?」
アリアはクレメンスの目を見ながら大きく頷く。
「他人の言うことなど気にする必要はない。言いたい奴には言わせておきなさい。関わるだけ時間の無駄だ」
「でも……」
アリアは眉根を寄せる。
「お前の気持ちは分からぬでもない。だが、結果はどうだ?ロジーナを困らせてしまっただけではないのか?」
「……」
アリアは無言でうつむいた。
クレメンスはふっとため息をついた。
難しすぎたか。アリアの若さでは、まだ納得できなくて当然なのかもしれない。そのうち分かる時が来るだろう。それよりも大切なことがある。
クレメンスはアリアの顔を覗き込むようにして尋ねた
「アリア。ロジーナがなぜ怒っているのかわかるか?」
「……私が理由を言わないからです」
アリアはうつむきながら答えた。
「違う」
クレメンスは少し厳しい声で否定した。
「え?」
アリアは顔を上げる。
「お前が魔術で他人を傷つけたからだ」
クレメンスはアリアのじっと見据え、静かに言った。
「あ……」
アリアは口元に手をやる。
「何があっても魔術を使って他人を傷つけてはならない。最初に教わったはずだ」
アリアはこくんとうなずく。
「もう一度よく考えなさい」
クレメンスはそう言うと、草むしりを再開した。




