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ロジーナ弟子をとる  作者: 岸野果絵
見習い魔術師編
20/101

ロジーナ、梨を食べる

「食事はとったのか?」

 クレメンスは部屋に来るや否や、ロジーナに尋ねた。

「とったわよ」

 ロジーナは目を逸らしながら答えた。クレメンスは探るような瞳でじっとロジーナの顔を見つめる。

「……食べてないわ」

 ロジーナはうつむいて呟いた。

「そうか」

 クレメンスは部屋から出て行った。


 しばらくすると、クレメンスは食事を持って現れた。無言でロジーナの前におにぎりを置く。

「食欲はないわ」

 ロジーナは顔をそむける。

「いいから食べなさい」

 クレメンスは強い口調で言った。

 ロジーナは仕方なくおにぎりに手を伸ばし、一口食べる。お腹がギュルっと鳴った。ロジーナは二口、三口と食べ続ける。

 不思議だった。確かに、さっきまでは何も食べる気がしなかった。お腹なんか空いてないと思ってた。お腹なんか空かしてる場合ではないと思っていた。それなのに、一口食べたら、それが呼び水のようになって止まらない。

 ロジーナはあっという間に全てのおにぎりを平らげた。

「もっと食べるか?」

 ロジーナは首を振る。

「そうか」

 クレメンスは手にした梨を器用にむきはじめる。ロジーナはクレメンスの手元を眺めていた。

 ロジーナには、クレメンスがどうして何も言わないのかはわかっていた。今回の件は、ロジーナとアリアが自分たちで乗り越えなければいけない、云わば課題のようなものだ。絶対に乗り越えられる。クレメンスはそう信じているから何も言わない。たぶん、そういう事だ。

 クレメンスは梨を切り分け、お皿に盛っている。

 今のところ、ロジーナは致命的なミスを犯していない。もしもなにか重大な間違いを犯しているのならば、クレメンスは指摘してくれるはずだ。とりあえずは、このまま突き進めばいいはずだ。


 ロジーナは梨を一口食べる。心地よい歯ざわりとともに、みずみずしくさわやかな甘みがひろがる。

「おいしい……」

「だろ?今年は当たり年だ」

 クレメンスも梨を一欠片とる。

 シャリシャリという音が静かな室内に響く。

「食事はちゃんととるようにするわ」

 ロジーナがポツリと言った。クレメンスは満足そうにうなずいた。


 梨を食べ終えると、クレメンスはトレーを持って部屋を出ようとした。ロジーナはその背中にすがりつく様に額を押し当てた。クレメンスは振り向こうとしたが、ロジーナはそのままの態勢で首をフルフルと振った。

「少しだけ、こうさせていて……」

 ロジーナは少し態勢を動かし、クレメンスの背中に頬をあてた。

「アリアの様子はどう?」

「落ち込んではいるが、食欲はあるようだ」

「そう……」

 ロジーナは頷くと、ゆっくりとクレメンスの背中から離れる。

「ありがとう。もう大丈夫」

 振り向いたクレメンスに、ロジーナは微笑んだ。

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