ロジーナ、お怒り中
翌朝、ロジーナは朝食をすませると、何も言わずに出かけて行ってしまった。昼時になっても戻ってこなかった。
アリアは家事が終わると、修練場と書斎と自室の間を、所在無げに、何度も行ったり来たりしていた。
クレメンスはアリアの様子に気を配りながらも、何も言わず、いつも通りに過ごしていた。
夕方、クレメンスは注文した品をとりに、村の商店へと出かけた。その帰り道、ふと思いついて墓地へと向かった。
墓地の中央にはウィドゥセイト神の社がある。社の前の石段にロジーナの姿があった。ロジーナは石段に腰掛け、ぼーっと虚空を眺めていた。
クレメンスにはロジーナの心境が手に取るようにわかる。ロジーナがアリアを冷たく突き放すのは、単なる怒りの感情からだけではない。以前のロジーナなら、もっと感情をあらわにして怒っただろう。もしくはアリアを即座に追い出したかもしれない。
しかし、今回は違う。ロジーナはアリアが歩み寄ってくるのを待っている。待つことほど辛いことはない。これでよかったのだろうか。自分は間違っていたのだはないだろうか。もっと他にやりようがあったのではないだろうか。あのとき、ああすればよかったのではないか。何度も何度も自問自答を繰り返す。
手を差しのべてやることは簡単だ。だが、今はまだその時ではない。
クレメンスは墓地の入り口付近でロジーナの様子をしばらく眺めていたが、そのまま館へと戻った。
その日、ロジーナは夜遅く帰宅した。ロジーナは帰宅すると何も言わずに自室へ閉じこもってしまった。




