ロジーナ、人間観察する
登場人物紹介(追加)
フランク・・・師範魔術師。魔術師協会会長。クレメンスの元部下。
「ねぇ。あれ、なんなの?」
コーネリアはロジーナの視線の先を見る。そこにはフランク会長を中心に談笑する人々の姿があった。
「ああ。あれは……グルーミング~」
「グルーミング?毛づくろいの?」
コーネリアはウンウンとうなづく。
「猿とかの?」
「そう。ああやって親睦を深めるふりをしてね、群れの順位を確認してるの~」
ロジーナは思わず「ぶっ」と噴出す。
「観察してるとおもしろいのよぉ。まずね、ほらあれをみて。下位の方から声をかけるのぉ」
コーネリアは顎を突き出すようにして指し示す。ハンスがペコペコしながらフランクに何やら話しかけているところだった。
「でねぇ、上位からボディタッチ~」
フランクがにこやかに何か言いながらハンスの肩を叩く。ハンスは嬉しそうにペコペコしている。
と、フランクは誰かに気付いたようで、そちらに向かって声をかける。フランクの視線の先はカルロスのようだ。
「あ、レアケースぅ。上位から声かけた。でもボディタッチの法則は崩れないはず」
フランクはカルロスのそばに行くと、何やら言いながら片手をだす。どうやら握手をするつもりらしい。
「ほらね。そして、上位がポンポン」
二人は握手をしながら、フランクがカルロスの肩を親しげに叩く。
ロジーナは堪らず、再び「ぶっ」と噴き出した。
「コーネリア、あんたずいぶん詳しいわね」
「えー、だってぇ、ほとんど毎日観察してるんだもん」
「論文書けるんじゃないのぉ?」
ロジーナはクスクス笑う。
「そうかも~。題目は……集団におけるおじちゃん達の習性と行動……。うわ~。発表したら殺されそ~」
「間違いなく闇に葬られるわね」
二人はゲラゲラと大笑いした。
**********
ロジーナは腕をツンツンされて目を覚ました。
「おはよぉ~。終わったよぉ」
コーネリアが小さな声で言う。
講習会とは名ばかりでほとんどが魔術師昇級試験等の手続きや日程についての説明会だった。わざわざ招集しなくても資料さえ読めばわかる内容だ。
退屈したロジーナは途中から居眠りをしていた。
「ふぁぁ、つまんなかった」
ロジーナは大きく伸びをしながら言う。
「毎回こんななの?」
「うん。いつも同じ説明なんだけどぉ~。毎回必ず居るのよねぇ~、不備がある人」
コーネリアが眉根を寄せながら言った。
「えー、信じらんない。そういうバカは師範取り消しした方がいいんじゃない?」
「う~ん。私もそう思うんだけどねぇ~。なかなかそうもねぇ~、この業界、人手不足だからぁ」
「あ~、そういわれると、確かにねぇ~」
ロジーナは腕組みをしながらウンウンと頷く。
「あ、こっちに来るよぉ」
コーネリアに肩をツンツンされ、ロジーナは前方を見る。フランクが部下を引き連れこちらに向かっている。
「ロジーナちゃんのとこにだよ」
「え?なんで私?」
コーネリアの予言通り、フランクはロジーナの前に立った。
「ロジーナ殿、お久しぶりです。その節はどうも」
ロジーナは仕方なく立ち上がると、愛想笑いをしながら会釈する。
『その節』がどの節のことなのか全く記憶にない。ロジーナはとりあえず、愛想笑いで誤魔化すことにした。
「ところで、クレメンス先生はお元気ですか?」
ロジーナの動きが一瞬止まる。
そういうことか。フランクはロジーナになど用事はなかった。フランクの目的はロジーナの夫で前会長のクレメンスなのだ。『その節』はただの方便、記憶に無くて当然だ。
「はいー。ものすごーく元気ですよー」
ロジーナは一オクターブ高い声で、にこやかに答える。
「それはよかった。どうかよろしくお伝えください」
「はいー。伝えておきまーす」
「では」
フランクは会釈すると、部下を引き連れて去って行った。ロジーナは作り笑いのままフランクの姿を見送る。
クスクスとコーネリアの笑い声が聞こえる。ロジーナは咳払いをする。
「コーネリア。私は観察対象じゃないからね」
コーネリアの笑いはしばらく止まらなかった。




