ロジーナ、指導法をかえてみる
翌日、ロジーナはアリアにもう一度手本を見せた後、一人でやるように促した。
水柱が上がる。
アリアはチラリとロジーナを見た。
「大丈夫よ。集中しなさい」
アリアは視線を水柱に戻し、ゆっくりと魔力を操作する。
水柱が高くなる。
ピシャ
パチャン
水柱は空中崩壊した。
怒られる。そう思ったアリアは首をすくめた。
しかし予想に反して、ロジーナの叱責は飛んでこなかった。
アリアはゆっくりとロジーナの方をみた。
ロジーナは顎に手をやり、視線を落とし、考えをめぐらしていた。
どこが悪いのだろうか。手順のおかしいところはわかったが、どうしたらそうなってしまうのかが分からない。アリアの引っかかりを直してやるには、どうしたらそうなるのかを、ロジーナがしっかりと認識しなけばならない。
自分が教わっていた時、クレメンスはどのようにしていたのだろうか。他の弟子を指導していた時はどうだったか。ロジーナは過去の記憶を引っ張り出す。
思い出した。相手の真似をするんだ。相手と同じ動きをすれば見えてくる。
「お師匠様……」
「アリア。悪いけど、もう一回やってくれる?」
「はい」
アリアは頷くと、再び集中する。
水柱が上がった。
ロジーナはアリアの様子をじっと見つめながら、自分も魔力を操作する。
アリアの水柱の横に、ロジーナの水柱も上がった。が、先ほどロジーナが手本に見せた水柱とはいささか趣が違った。アリアの水柱と、高さも弱々しさもそっくりな水柱だ。
アリアの水柱の高度が少しずつ増す。ロジーナの水柱も高くなる。
アリアの額に汗が浮かぶ。
ロジーナはアリアの動きをじっと見つめながら、その動作をなぞる。
ピシャ
パチャン
アリアの水柱が空中崩壊する。
ピシャ
パチャン
ロジーナの水柱も空中崩壊する。
「うーん」
ロジーナは唸りながら、もう一度やってみる。
ピシャ
パチャン
この違和感の正体はなんだろう。何かが引っ掛かる。
一瞬だけ、なにかが垣間見えた気がする。
もう少しで見える。あと、もうほんの毛筋ほどで糸口が見えてくるはずだ。
ロジーナは何度か再現してみる。
ピシャ
パチャン
ピシャ
パチャン
ロジーナの目が見開かれる。見えた。
ああそうか。そういうことなのか。ロジーナは頷きながら、アリアの方を向いた。
「アリア。よく見てて。私のはこう」
ロジーナは再び手本を示した。
「で、あなたのはこう」
アリアの水柱を再現した。
「どう?違いが分かるかしら?」
アリアは首をかしげる。
アリアにはロジーナが何を言おうとしているのか全然わからなかった。確かに自分の水柱とロジーナのお手本の水柱は違う。だがそれは、自分の水柱はなんとなく弱々しいというくらいだった。
「そう……」
アリアの様子をみながら、ロジーナは考えていた。
アリアが違いを感じ取れない状況では、いくら口で説明しても、それはただの机上の空論だ。なんとなくでも違いを感じ取れなければ、ここをクリアすることはできない。
頭で理解することはわりと簡単だ。問題はそれを身体まで降ろしてこれるかなのだ。感じなければ、腑に落ちなければできるようにはならない。
どうやったら、アリアは違いを感じとることができるのだろうか。どのようにアプローチしてやればいいのだろうか。ロジーナは思考をめぐらした。
「アリア。もう一度、よく比べてみて」
ロジーナはそう言うと、二本の水柱をつくる。
「右があなた。左が私」
アリアはうなずく。
今度こそは違いを見つけたい。アリアは目を皿のようにして水柱を見つめる。
「ちょっとオーバーにやるわね」
ゆっくりと二本の水柱は高度を増していく。
「いい。ここからよ。よく見ててね」
ロジーナはゆっくりと、まるでスローモーションのように水柱を操作する。
ビシャ
バッチャン
右の水柱が崩壊する。
「あ……」
アリアが声を上げる。
「みえた?」
「なんとなく……」
アリアはコクコクとうなづく。
「そう。じゃあ、すぐにできるようになるわね」
ロジーナはアリアにニッコリと笑いかけた。




