表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋の種  作者: きさらぎ
萌え出ずる若葉を待ちわびて
4/6

ラッキーデー?

テレビで見た昨日の星占い

 今年一番のラッキーデー。

 ★ラッキーアイテム お気に入りのアクセサリー。

 ★ラッキーカラー ピンク。

 ★ラッキースポット 学校、職場。

 ◎今日は何事もうまくいくでしょう。素敵な出会いがあるかもしれません。積極的に行動しましょう。


 いつもは見過ごしてしまう星占いは、昨日は何故か目に留まって、しかも一位だったから綾かってみようと思ったのが運のつき。

 お気に入りのピアスにサーモンピンクのパンツスーツ、今日は仕事。

 これで準備万端、ラッキーさんいらっしゃいと期待に胸を膨らませて、意気揚々と出社した。


 占い通りにいけば最高な一日になるはずだったのに、ラッキーどころかアンラッキー、最低な日になってしまった。


 社員食堂でうどんをつつきながら一人ため息をつく。

 ああ、ズキズキと傷が痛む。わたしはガーゼに包まれた右耳にそっと手を当てた。

 痛い。あとで痛み止めを飲んでおこう。


 昨日、出社したまではよかった。

 会社に着いて思い出したのは朝一の会議の準備。早めにきて準備しなきゃいけなかったのに、すっかり忘れていた。先輩はもう来ているかもしれない。新人が遅れるわけにはいかないから、一目散に会議室へと向かった。

 学生時代はバスケ部だったし、足には自信があったから、とにかく走った。走った。

 ひたすら前だけを見ていたから周りなんて見えていなかった。でもまさか人にぶつかるなんて、醜態もいいとこ。


 ぶつかった相手は白河櫂斗しらかわかいと。我が社のイケメン御曹司。隣には橘部長。どちらも女性社員の憧れの的。

 朝一に超VIPに会うなんて、ラッキー。じゃないわよね。

 よりによって、御曹司にぶつかるなんて自分が信じられない。直後に耳のあたりに引きつるような痛みがあったけれど、それもすぐに吹き飛んでしまった。ぶつかった挙句に転ぶなんて恥ずかしい。 

 

 思いがけず御曹司が手を差し伸べてくれたけれど、彼の手を煩わせるなんて恐れ多い。幸い身体は大丈夫そうだったから、自力で立ち上がった。



 それよりもピアスはどこにいったんだろう。

 大事なものだったのに。

 ないことに気付いたのは治療が終わったあとだった。

 失くした場所はあそこしか思い当らなかったから、今朝、早くに来てあの通路を時間をかけて探したけど、どうしても見つからなかった。

 ピアスなんて小さいもの。

 ごみと一緒に捨てられたか、どこかの隙間にでも入り込んでしまったか、誰かに踏まれて無残な姿になっているのかもしれない。だとしたら一生見つからない。


 あれは本当に大切なものだったのに、片方しかないなんて。

 彼になんて言おう。


 就職が決まった時に、初めてのお給料で、お互いにプレゼントをしようって約束した。入社して一か月後、約束通りにわたしは彼にネクタイをプレゼント。彼はわたしにピアスをプレゼントしてくれた。

 ずっと身につけられる飽きの来ないシンプルなもので、オーソドックスなデザインだったけど、とても気に入っていた。


 それなのに――


 どうしよう。

 次に会う時に、お互いに身につけて来ようねって、言ったのはわたしだったのに。

 失くしたなんて言ったら、彼はどんなにがっかりするだろう。

 どうしよう。デートは今度の日曜日なのに。


 いつもは占いなんて聞き流すのに。

 どうして、占い通りにしたんだろう。今更、昨日になんて戻れないけど。

 ペンダントだって、指輪だって、お気に入りはあったのに。

 どうして、あのピアスを選んだんだろう。今更、悔やんでも遅いけど。


 

 腫れた傷口がズキズキする。

 傷も痛いけど、心のほうがもっと痛い。



 これからは絶対に、占いなんて信じない。

 

 あー。もう、最悪。

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ