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出会いは突然だった

……ただそれだけ







「ふ~ふん」

笑顔で鼻歌を歌いながらくるくると回っている少女。こう言うと何処かの花畑で踊っている映画のヒロインでも思い出しそうだけれど、あいにく此処は僕の部屋だし、踊っている少女はユキだ。



「やっ!」

しばらく眺めていると、掛け声と共にスカートの裾を手で少し持ち上げてユキの動きが止まる。どうやら終わったらしい。

「どう?」

何処か誇らしげに僕を見上げて尋ねてくるユキ。一体何がどうだと言うんだ。

「何が?」

「ゆうくん、見とれちゃった?」

「え?」

一瞬何を言われたのか分からず情けない声を上げてしまった。だけど自分のその声に少し冷静になった僕は、目の前で自分の言葉に恥ずかしくなって「えへへ」とはにかむユキを見て考える。……母さんか美夏さんのどちらだろうかと。

「ユキ」

「う、うん」

「ユキは素直で良い子だ」

「ほんと? ありがとう!」

褒められて両手を上げながら喜ぶユキは良い子だ。

「それでどうかな?」

「何が?」

「えっと、あの」

手を体の前で合わせたり離したりしながら不安そうに僕を見上げるユキ。ああ、見惚れたかどうかを聞きたいんだな。

「そうだね。見惚れたかな?」

嘘は言ってない。部屋に戻ったらいきなりユキが歌いながら回っていたのだ。一体全体どうしんたんだと気になって最後まで見てしまったのだから、まあ見惚れていたとも言えなくも無い。それにどちらにしろユキは見惚れるの意味を良く分かっていないだろうからそう言っておけば大丈夫だろう。

「えへへ。そっか」

頬を赤くしながら嬉しそうに握り拳を作るユキ。本当に感情表現が豊かで良い事だ。こういう仕草は本当に可愛らしいと思う。

「でも、どうしていきなり踊ってたの?」

「くーちゃんがね男の子はこういうのに弱いって言ってたの!」

くーちゃんとは多分ユキの友達だろうけど、これを吹き込んだのは母さん達じゃなかったのか。その事実に僕は驚きと共に二人を疑ったのは悪かったなと一瞬思ったけれど、母さん達の日頃の行いが悪いのだと結論付けて心の中で謝罪するのもやめにした。

しかし問題はそのくーちゃんなる友達がどんな子かと言う事だ。女の子だとは思うけど男かもしれない。

いや、まあそれは良いとしてユキに変な事を吹き込むのはやめてもらいたい。ただでさえ母さんたちがいらない事を吹き込むし、僕まで巻き込んでユキをからかうのだから。

「そのくーちゃんって友達?」

「うん。なかよしなの」

「なるほど。つまりマブダチ?」

「まぶだち?」

不思議そうに首を傾げて、僕の言葉を口に出して反芻するユキ。どうやら意味は通じなかったようだ。むしろユキがそんな言葉を知らなくて少しほっとする。

「いや、ごめん気にしないで。その子は女の子?」

「そうだよ。すごく可愛いの」

可愛い女の子か。まあユキの友達だしなと納得して僕は頷く。だけど待てよと少し疑問にも思う。

小学生の女の子が母さん達が言うようなことをユキに吹き込むだろうか? その子は本当にユキの同級生なのだろうか……いや、そもそも存在しているのか? と僕はユキとユキの友達(存在するなら)に失礼な事を考えながらも、一度疑問に思うととても気になってしまい、ユキの事をからか……いやいや、少し心配になったのでもう少しくーちゃんについて尋ねる事にする。

「えっとその子はユキと同い年なんだよね?」

「そーだよ? 席も近くだよ」

「ユキの膝の上とかじゃなくて?」

「うん。となりのとなり」

どうやらユキはくーちゃんの存在を疑っていないようだ。でも子供って何も無いところを見て喋っていたりする事があるらしいからまだ安心は出来ない。

「その子ユキ以外の友達とも喋ってたりする」

「うん。でもわたしがいちばん話しするよ」

「なるほど」

やはりユキと会話することが一番多いらしい。ますます怪しくなってきたな。そのユキ以外と話しているのもユキの妄想かもしれない……って事にしてからかって、じゃなかった話を続けてみよう。

「でもユキ以外とはあまり話はしないんだよね?」

「う~ん。そんなこと無いとおもうけど」

僕の言葉に必死で思い出そうと目を閉じたり開いたりしながら頭を抱えるユキは正直面白くて、少し母さん達の気持ちが分かる気がした。まあ許す許さないはまた別の話だけど。

「よく思い出してみると、くーちゃんと話してるのはユキが一番多いんだろ?」

「うん!」

「で昼休みとかもユキとよく一緒に居る」

「そうだよ。ゆうくんよく分かるね?」

「当然の事だ」

「すごい!」

拍手をしながら尊敬の目を向けてくるユキに頷きを返し僕は話を続ける。

「そして給食も一緒だし帰るのも勿論一緒」

「ううん違う。くーちゃんの家べつほうこうだもん」

違ったらしい。

「なるほど、家は別方向って設定か。なかなかこっているなユキは」

「せっていって何言ってるの?」

「くーちゃんはたまに浮いてたりとかする?」

「しないよ。ゆうくんどうしたの? 人は浮かんだりしないよ?」

ユキはこの年にして子供ながらの夢を無くしてしまっているようだ。誰に辛い現実を押し付けられたのか。

「誰がそんな事を言ったんだ? そんな辛い現実をユキに教えたのは誰だ?」

「ゆうくんがおしえてくれたんだよ。だから忘れない!」

そうか僕が教えたのか、なら仕方ないな。どうせいつかは知るのだから、子供のうちに知っておいたほうが傷も浅くてすむ。

「まあそれは置いといて、じゃあたまに光ってたり突然消えたりはしないのか?」

「……しないけど」

僕の言葉を否定しながらユキの顔がどんどん不機嫌そうになってきている。何か辛いことでもあったのだろうか? いや、だからこそ『くーちゃん』なる存在を生み出してしまったのか。可哀想なユキ。

「ねえゆうくん」

何か変な物でも見るように目を細めながら、僕の名を呼ぶユキ。そんなユキに気づかないふりをしながら意識して作った優しげな目を僕はユキに向ける。

「なんだいユキ?」

「もしかして、ユキが嘘ついてるっておもってるの?」

「そんな訳無いだろ? くーちゃんはいるし空だって飛べる。たまに光ったり消えたりもするだろうけど、ちゃんと存在してるよ」

「……ゆうくんのばか!」

「ユキ」

「ほんとだもん。くーちゃんは友達だもん。仲いいもん! きょうだって一緒にあそぶんだから!」

大きな声を上げて怒り出すユキに僕はからかい過ぎた事を今更になって自覚した。さすがに目に涙まで浮かべ始められては謝るしかない。

そして僕は必死でユキのご機嫌取りを始めた。




「わかった!?」

「わかった」

腰に手を当てて怒る小学生の前で正座する高校生を見て人はどんな印象を持つか。きっと深い事情があるのだろうと皆優しい眼差しと共に同情するだろう。少なくとも僕ならそうする。

嘘じゃない。昨日までならそんな高校生はお近づきになりたくない奴だと思っただろうけれど、今の僕は違う。誰よりもその高校生の気持ちを分かってやれる自信がある。

「ほんとに?」

「ほんとほんと」

「こころがこもってない!」

「悪かったよユキ。許してくれないか?」

「ほんとに反省してる?」

疑わしげに僕の顔を覗き込むようにして問いただすユキに、僕は当然だと頷く。

「してるよ」

正直からかい過ぎた事には反省している。母さん達にバレたら面倒だし、何よりユキを泣かせるつもりは無かったのだから。

「じゃあ許してあげる。とくべつだからね!」

そういって僕の顔の前で人差し指を立てて笑顔を見せるユキ。何だこの仕草は、大人ぶっているんだろうか? ただ背伸びしてる子供にしか見えない。いや事実子供なんだけど、それを口に出して怒らせるような愚は犯さない。

「ありがとう」

「いいよ。ゆうくんはしかたない人だから」

何て言い草だろうか。そして僕を見つめる優しげな眼差しとやれやれとでも言いたげなその態度。これではまるで僕がユキに頭の上がらない駄目人間みたいじゃないか。

最近のユキは少し調子に乗っている気がする。これが反抗期って奴だろうか? いや、でも別に喧嘩腰で罵られる訳でもないし、どうなんだろうか?

「ユキは変わった」

「え?」

「9歳になってから変わってしまった」

「そ、そうかな?」

頷く僕に反応に困ったのか、照れてはにかむユキは変わった。言っていて何だかいつも通りな気がしてきたし、よく考えたら変わってない気もするけれど。

「ああ、どこか遠い人になったような気さえする」

実際は今までと同じように身近に感じる。

「そんなことないよ。わたしは今までと同じでゆうくんの知ってるゆきだよ」

「そう?」

「うんずっといっしょ」

そうか今までと一緒で変わってないか。本人が言うのならその通りなのだろう。

「そっか」

「そうだよ」

お互いに相手の顔を見ながら、しばらく何度も頷きあっていると、家の中にインターホンの音が響いた。どうやら来客らしい。生憎と今家には僕とユキしか居ない。だから僕はユキに「待っていて」と一言だけ残して、外と会話するためにリビングに向かった。

「はい」

『あ、あの水谷雪さんはいらっしゃいますでしょうか?』

画面の向こうには不安そうな顔で告げる少女が映っていた。この小さな女の子は一体どこの誰だろう? と僕が一瞬固まっていると背後から近づいてくる足音が聞こえてきた。

「あ、くーちゃん」

『あ、ユキちゃん』

どうやらユキの友達らしい。ユキは「今行くね」と画面に向かって答えると玄関に向かって走っていった。

そんなユキの背中を見送りながら、僕の脳裏に何故ユキの友達がこの家にきたんだとか色々と疑問が浮かんだのだけれど、そんな事はこのさいどうでも良かった。そんな事よりも重要な事があったからだ。

「そっか……くーちゃんって本当に居たのか」

僕の疑問の氷解と共に、室内にはその言葉がやけにはっきりと響いた。




つづく


少し思ったのですがこれって短編連作なので1話2話って書くのはどうなんだろうか? と疑問を抱いたりとか、題名が何かありきたり過ぎるので変えようかなとか考え中の後書きでした。 お読み頂きありがとうございました

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