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06

寒いですね。

雪が振ってもう大変ですね。

そういえばバレンタインでしたが、最近は逆チョコとか言うのがあるんだとか、お菓子業界今度は男か! と思ったり思わなかったりします。

   白の雪




簡単に溶けて消えて無くなってしまう

雪に似てるけどそれは黒くて甘かった









カーテンの隙間から入る日差しの眩しさに、僕は目を覚ました。

「朝か」

冬の日に珍しい天気の良さだけど、どれほどの人の心が今日という日に、同じように晴れ渡っているのだろうか? それともこれから曇っていくのだろうか?

カレンダーを横目に僕は顔を洗うため部屋を後にする。

2/14その日付がやたら目に付くのを、何とか気にしないようにしながら。




2/14と聞いて連想するのは何か

冬だろうか? それともただのいつも通りの日常でありイベントなど無いと過ごすのだろうか?

だが大抵の人はバレンタインと答えるだろう。正直な話僕だってそうだ。『好きな人に想いを伝える日』『恋人たちの日』『男が涙する日』『感謝を渡せる日』『お菓子業界の陰謀』良かれ悪かれ思い浮かぶのはバレンタインだろう。

なんにしても僕達男にとっては、とても気疲れする日だ。

貰える事に期待する者、貰えない事に嘆く者、どうせ自分には関係ない日だと平静を保つ事に力を使う者。

どちらにせよ僕のような学生にとっては無視出来ない日だ。そう思うとまだチョコを貰ったわけでも、貰ってないわけでも無いのに何か疲れた気がしてくる。僕は学校に行く準備をしながら人知れず溜息をついた。


「おはよう母さん」

「あらおはよう」

準備(というと大袈裟だが)を済ませてリビングへ向かうと、ちょうど机の上に母さんが料理を並べていた。そんな母さんに挨拶をして、自分の茶碗を取りご飯を装って席に着く。

「いただきます」

「はい」

味噌汁に卵焼きに簡単なサラダ、朝には十分なそれらをおかずにご飯を口に入れていく。

「今日はバレンタインね~」

「そうだね……そういえば父さんは?」

からかってくるんだろうと確信していて話題を避けたかった僕は話しを変えようと尋ねた。

「もう行ったわよ。今日も早いみたいでね」

「そっか」

「もしかしたら、チョコを期待して早く出たのかもね~」

しかしこの話題は避けられないようだ。

「……母さんはそれで良いの?」

いや、別に本気で父さんがチョコを期待して早く家を出たとは、僕は思ってないし勿論母さんだって思っていないだろう。でも何としても矛先だけは逸らしたい。

「私はもう渡したから。それにチョコごときでどうにかなるような仲じゃないし」

「はいはいご馳走様」

惚気か。息子としては両親が仲が良いのは喜ぶべきことなんだけど、正直気恥ずかしいような複雑な気分になる。

「ところで……あんたは大丈夫なのかしら?」

見る人が見ればいやらしいとでも言うのだろうか、そんな笑みを浮かべて母さんは聞いてくるが、実の息子をからかって楽しいか? ……楽しいんだろうな。

「大丈夫って何だよ」

「いえね。チョコを貰えるあてはあるのかなってね。誰にも貰えなくて裕也が落ち込むんじゃないかって母さん心配で心配でね~」

「……大丈夫だよ」

それくらいで落ち込んで溜まるか、さすがに僕はそこまで期待していない。偉そうに言う事では無いので言葉にはしないけど。

「そうよね。例え学校で貰えなくてもユキちゃんがくれるものね~」

結局それが言いたかっただけなんだ母さんは。正直少しいらついてしまう。

「ご馳走様。もう行くから」

「はい、いってらっしゃい」

母さんの声を無視するように玄関に向かって僕は家を出るのだった。

けっしてユキがチョコをくれるから大丈夫だなんて思ってはいない。






「よう、裕也」

「ああ、おはよう公太」

教室の自分の席に着くと、吉田よしだ 公太こうたが声をかけて来た。こいつとは結構気が合うし、良く遊びに行ったりしている仲だ。

「おいおい、何だその辛気臭い面は?」

「お前こそ何でそんなに元気なんだよ」

「何でって今日が何の日か知らないとか言うなよ?」

勿論知っているに決まってる。しかし僕が元気になる理由は無い。

「バレンタインだろ」

「その通りだ。周りの奴を見てみろ」

公太の言葉に教室内を見回す。どこか落ち着かない男子といつも通りに見えてどこか違うような気がする女子たち。

「どうだ? 男共は気にしてませんって顔をしながらそわそわしてるだろ?」

「言うなよ。あいつらだって必死だし、僕達だって他人事じゃないだろ」

「そうだ。ならもっと元気を出して胸を張れ。今日は俺たち男にとって無視出来ない日だろ」

つまり格好良く過ごせと言いたいのか。

「今日かっこつけても意味ないというかむしろ遅いだろ」

「……確かにその通りだな」

納得するのかよ。でもこいつは他の男子と違って多少なりとも余裕なんだろうなと内心思う。短く揃えられた黒髪に、顔は結構整ってるし明るくて女子に結構人気がある男だから。

「まあでもせっかくのイベントなんだし楽しく行こうぜ」

「僕なりに楽しく行くよ」

二カッと音が聞こえそうな笑みに、何だかんだ良いながらも僕は少し気持ちが軽くなってしまうのだ。





長いような短いような午前の授業は終わり、昼休み。そわそわと教室から出て行く男子や女子。そして寝たふりや、興味ない風に駄弁る奴らのいる教室で、僕と公太は昼飯を食い始めようと向かい合う。

「腹減った。飯だ飯だ」

「お前は」

「どうした?」

「いや、いい」

こいつは朝にあれだけバレンタインだと言って来たくせに、本当にいつも通りに弁当を食べ始める。何と言うかある意味凄い奴だと関心しながら、僕もお弁当を開こうとした時、一人の女子が僕達に近づいてきた。

「ちょっと吉田」

「なんだよ寺石?」

声をかけて来た女は同じクラスの寺石春香てらいし はるか吉田にチョコを上げに来たのか? と何故か公太では無く僕の方が少し挙動不審気味に黙って二人を見る。

そんな僕に気づいているのか、寺石は教室の外を指差して「お客さん」とつげる。

僕と吉田が、そちらを見ると別クラスの女子二人が教室の外に立っていた。片方の子がチョコらしき物を持っているから、一人は付き添いのようだが、それにしても結構可愛い子達だ。

「ああ、わかった。じゃあ行って来るな裕也」

「行け行け。そしてもう帰ってくるな」

「いや、俺は絶対に帰ってくるぜ。お前の元にな」

一体お前は僕の何だと言うのか。

「あんた達気持ち悪いから。吉田は早く行きなさいよ」

「おう任せとけ」

公太は教室の外にでると、二人組みと一緒に僕達の教室から離れて行った。

そんな公太達を見送った僕は一人食事を再開する。


再開したのだが、何故かさっきまで公太の座ってた僕の向かいの席に寺石が腰を下ろしている。

「本当何であいつが人気あるんだろうね?」

「良い奴だからね」

そう言って僕は寺石に目を向ける。

茶色がかった肩まである髪。整った目鼻立ち。それらを持つ彼女の容姿は世間一般において悔しいが可愛いのだろう。

「あれ? 悔しくないの?」

「何で悔しがらなきゃいけないのさ」

「そりゃね」

「あいつがもてるのは知ってるし、それだけ良い奴なのも知ってるから」

言っていて少し恥ずかしくなるが、公太に悪い印象を持っているわけでもないので素直に思ってる事を口に出す僕。それを聞いた寺石は、少し驚いたと言いたげに目を見開いた。

「そっか、西野って吉田が好きなんだね」

「……そんなふうに言われると否定したくなる」

「いいから、はいこれ」

そんな僕を見て笑みを浮かべる寺石の手には綺麗にラッピングされた袋。その袋を僕の目の前に差し出してきた。

「え?」

「チョコ。こっちは吉田に渡してね」

「ああ」

その言葉に僕も納得がいく。義理だなと。

いや考えるまでも無く当たり前の事なんだ。寺石とは特別仲が良いわけでもないし、それなりに会話するくらいだ。だから僕は期待してなんか居ない。義理でも貰える事に驚いただけで……。

「何? 嬉しくないの?」

「いや、ありがとう。公太にも渡しておくよ」

「何か軽い。もしかして自分だけだって期待した?」

悪戯が成功した子供のような目で見てくる寺石。勿論僕は期待なんかしていないので「してない」とはっきり告げる。

「本当に?」

 当然だ。

「ねえ、本当に?」

「……少しだけ期待しました」

畜生、僕だって男なんだよ。

「素直で宜しい。お姉さん素直な子は好きですよ~」

からかうように言って僕の頭を撫でてくる寺石。

何だそれは? お前はどういったキャラなんだと内心思いながら。僕はその手を振り払う。

「誰がお姉さんだ」

「あはは、じゃあね」

寺石は笑って席を立つと、教室から出て行った。おそらく他の奴にもチョコを渡しに行くんだろうなとその背中を見送っていると、戦利品を二つ持った公太が帰って来るのが見えた。

やっぱり二つか。

「帰ったぜ!うん? どうしたよ?」

「別に」

決してその二つに、先ほどの寺石のチョコが加わるのを見ても僕は悔しくなんて無いのだ。





「さて帰ろうぜ」

「ああ」

席を立つ公太の右手には袋。あの二人の後も数人にチョコを貰っていたのを見たが、さすがだ。まあ僕もクラスの女子に(義理だろうけど)いくつか貰えた分が鞄の中に眠っているので良い日だったとしておこう。

「あの吉田君」

帰ろうとした僕達の足が、その声に止まる。また公太目当ての女子のようだ。それを見て僕はここで公太と別れることにした。

「先帰るな」

「おう、悪い。また明日な」




一人僕は校舎から出る。公太と多少喋っていたせいで時間が結構経っていたのか、もう殆ど生徒は残っていないようで僕は一人校門に向かう。

それでもちらほらと、男と女が二人で居るのを見かけるので何だか場違いな気分になる。別に僕はここの生徒だし、何も気まずくなる必要は無いはずなのだけど。

「あの」

そんな僕の背後から声が聞こえてきて、僕は振り向く。

「西野君」

振り向くとそこには、長い黒髪を風に揺らしながら、少し潤んだ目で僕を見つめる女の人が居た。可愛いと言うより綺麗という言葉が似合う大人っぽい容姿。でも決して冷たいような顔ではなく優しげな、お姉さんと言う言葉が似合うような女の人。上級生だろうか。

「今大丈夫?」

不安そうにかけられる声。そしてその不安そうな顔はどこかユキを連想させる。ユキが成長したら彼女みたいになるのだろうかと考えながら僕は「大丈夫ですよ」と返す。

声は震えなかったと思う。少なくとも目の前の人には気づかれない程度には。

「あのこれ」

「チョコ」

「ええ、もらってくれるかな?」

「は、はい勿論です」

今度は動揺が声に出るのを隠せなかったが、彼女は気にした様子も見せず。その綺麗な緑の袋と赤のリボンでラッピングされたチョコを僕の方へ差し出してくれたので僕は手を伸ばし受け取る。

「その、受け取っておいて言うのも何ですが、僕が貰って良いんですか?」

「うん。西野君にあげたいの。君に貰って欲しいの」

そう言って最初の不安そうな顔が嘘のように、笑顔で彼女はそう言ってくれる。

正直今の僕は顔が恥ずかしさで赤くなっているのを隠せ低無いんだろうなと何処か他人事のように思いながら、何か言わなければいけないと、口を開こうとするが、何を言って良いのかも分からない。

「ありがとうございます」

結局僕が返せた言葉はそれだけだった。

「うん。そ、それじゃあね」

「あ」

そう言ってその場からあわてたように歩いて行ってしまう彼女の背中に、僕は声をかける事が出来なかった。


「名前聞いてなかった」


その日彼女の名前を僕は知ることは出来なかった

貰ったチョコにはカードも何も付いては居なかったから





「ただいま」

家に帰った僕を出迎えたのは静寂だった……。と言っても別に何か事件があったわけでも無いし、一々誰かが出迎えるわけでもないのが普通だし当然の事だ。


――おかえり、ゆうくん!――


ただ去年はユキが真っ先に出迎えてくれたから、もしかしてと思っただけで、別に期待したわけでもないし、気落ちしたわけでもない。

ましてや今日は義理とはいえチョコもいくつか貰ったし、最後には……放課後にはあんな綺麗な人からチョコを貰えたのだ。その事実を喜ぶべきだし、母さんにも胸を張って言い返せる。何を気落ちすることがある。

たとえ気落ちしていたとしても、きっとあの上級生の名前が分からなかったからだ。

そう結論付けて僕は、靴を脱いで手を洗った後リビングへと向かう。

いつも通りに……。




「ただいま」

「おかえりなさい、どうだった?」

「……ほら」

お茶を飲んでいた母さんに声をかけると早速聞いてくるので、僕は母さんに今日貰ったチョコの袋を見せる。

「あら、結構貰ったのね」

「普通だよ」

「言うわね。まあでも貰ったわりに元気ないわね」

「こういう空気に疲れたんだよ」

どのみち貰えるにしろ貰えないにしろ、こういうイベントのある日と言うのはどうしても気疲れしてしまう、ただそれだけ。

「私はてっきり」

「なにさ?」

「ま、あんたが気にしないならいいわ」

何だと言うのだ。……いや、本当は分かってる。ユキの事だ。今まで出会ってからは毎年貰っていたから、今年は気にならないの? とでも言いたいのだろう。

何せ美夏さんの後ろに隠れていた時期でさえ、くれていたのだ―美夏さんに言われてだろうけれど―ましてや、気を許してくれてからは毎年、会うと真っ先にチョコをくれるのだ。


―ゆうくん―


そう言って、照れながらも笑顔を浮かべて去年もくれたんだから。

だから

「母さん」

「なに?」

「そのさ……えっと」

「どうしたのよ? はっきり言いなさい」

別に普通に聞けば良いんだ。そう、いつも通りに聞けば何もおかしくなんてないんだから。

「ユキの学校って終わるの遅いのかな」

馬鹿だ。我ながら呆れる。何が『終わるのが遅いか』だ。

「ぷっ……あはは、あんたもう、本当に」

僕の言葉に笑い出す母さん。もういいさ、僕だって逆なら笑ってるかもしれない、それくらい今の僕は滑稽だろう。

しばらく母さんの笑い声が部屋の中を包んだ。


「ユキちゃん体調崩して、学校休んだんだって」

「え?」

ユキが体調崩した? 大丈夫なのか? 何か病気なのだろうかと僕の頭をいろんな言葉が駆け巡る。

「ああ、大丈夫だから。軽い風邪だし、今日休んで大分よくなったそうだし、明日にはいつもどおり学校に行けるだろうって」

「そっか」

「ただ、今日一日は休ませとか無いといけないから」

当然の話だと僕は納得し頷く。

「だからチョコはお預け」

「別にユキの体調を悪化させてまでチョコなんて欲しくない」

当たり前だ。そんな物のためにユキに無理させて何になる。それでも欲しいなんて我侭を言うほど僕は子供では無いし、チョコが特別好きなわけでもない。

「そうね。まあ明日は学校も休みだし、心配しなくてもユキちゃんは大丈夫でしょう」

その後少しして夕飯を食べた僕は、いつもどおりに風呂に入りベッドに横になって夢の中へと行く。




「眠れない」

けれど僕は今、ベッドの上で一人そう呟いている。

今日あった事とかを思い出し、眠れないのだ。貰ったチョコの事、ユキの事。

「名前聞けなかったな」

あの上級生の事。

僕だって男だから、あんなふうにチョコを貰えて嬉しいと思う。だけどそれ以上に戸惑ってしまう。何故僕に? とか本命なのか義理なのかとか……別に僕達男が思うほど、そこに気持ちなんて入ってるわけでは無いのかもしれない。

そうバレンタインは所詮お菓子会社の陰謀なのだ。だから深く考える必要は無いだとか誰に対しての言い訳かも分からない事をつらつらと並べ考えてるうちに僕は眠りについていた。




「ゆ……おき 」

少しゆらゆらと体が揺れる。

「……くん」

その心地良い揺れを感じながら、僕の頭はまた夢の中へ落ちていく。

「もう……おきて」

その小さく聞こえる声と共に、あの心地良い揺れは消えてしまう。それを残念に思う間もなく僕は布団の中で自分以外のぬくもりを感じた。

「ゆうくん。朝だよ」

近くなった声に薄く目を開く僕の前に、女の子の顔があった。というかユキが笑顔で僕の前に居た。

「えへへ。おはようゆうくん」

「……あと5分」

「むぅ。おきてよ、ゆうくん」

「眠いんだよ。ほらユキも一緒でいいから」

「あっ……」

その時の僕はまだ寝ぼけていたのか、目の前に居るユキを抱き枕のように抱きしめて、ユキの声も態度も気にせず眠りにつこうとする。

「……ゆうくん」

「ん」

「チョコ持ってきたんだよ。ゆうくんいらないの?」

その言葉にまた僕は目を開いてユキの顔を見る。少し照れたように赤く上気した顔で、心なしか悲しそうに僕を見るユキと目が合う。

そして僕の意識は急激に覚醒へと向かった。

「あっと、おはようユキ」

「おはよう」

「あ~ごめん。顔洗ってくる」

「うん」

そう言って僕はユキを部屋に残して、急ぎ足で洗面所へと向かった。




何を焦っているんだ僕はとか色々と考えながら、顔を洗って歯を磨いた僕が部屋に戻ると、未だにベッドの上で僕の布団に顔を埋めているユキが居た。

「……ユキ」

「うん、だいじょうぶ」

そう答えながらも僕の布団に顔を埋めるユキ。一体何が大丈夫だと言うのか。見てるこっちからは変な行動にしか見えない。

「いや、戻ってきたから」

「おかえり。だいじょうぶ、まだだいじょうぶだから」

そんなユキに、まだ体調悪いんじゃないのかと心配になってきた僕は、とりあえずユキへと近づいていく。

「ユキ」

「うん」

「あのさ」

「なあに?」

「まだ体調悪いのか?」

「ううん大丈夫!」

そう言って顔を上げて僕の方を見たユキは満面の笑みを浮かべる。本人が言うには大丈夫らしいので、多分大丈夫なんだろうけどまた布団に顔を埋めるユキの奇行は、正直大丈夫には見えないけれど、子供とはそういう物だと納得する事にした。

したのだけれど、このままでは話が進まないので、本題に入ることにしよう。

「ユキ」

「なあにゆうくん?」

「えっと、チョコくれるんだろ?」

そう聞いたとたんユキは勢い良く顔を上げ、そのまま立ち上がると僕の机の上に置いていたのであろう袋を持ってきて僕の前に差し出した。

「はい、ゆうくん」

「ありがとうユキ」

「……おくれてごめんね」

「いや、いいよ。ユキこそ体調大丈夫?」

「うん。バッチリ!」

そう元気に返してくれたのだが、ユキはすぐに顔を俯けた。

「どうした?」

「……きのう。わたせなかった」

「だからいいよって」

「でも、いつもわたせてたのに。バレンタインにゆうくんにあげてたのに」

そんな2/14日に拘らなくて良いのに。

「ユキ」

「うん」

僕の声に少し潤んだ目で僕を見上げるユキ。本当に感情豊かだ。

「今日僕は誰にもチョコを貰ってないんだ」

「え?」

それはそうだろう、何せバレンタインは昨日だしそうでなくても朝起きて会ったのはユキだけなのだから。

「だからユキだけが僕にくれた。凄く嬉しいよ」

だけど当たり前の事が言いたいわけじゃないんだ。落ち込んでるユキに感謝を伝えたいだけ。

「あ、わたしだけ?」

「うん。ありがとう」

「うん」

笑顔を浮かべて抱きつくユキを僕は無言で抱きしめ返すのだった。




「あのね、ゆうくん」

「なに?」

「あのチョコだれにもらったの?」

その後僕が昨日貰ったチョコを見て不機嫌になるユキを慰めるのに時間を費やし、そしてその後会った美夏さんから貰ったチョコを見て拗ねるユキとからかって来る母さん達に僕のメンタルは削られていくのだった。




 終わり








まだつつくんじゃよ






※ここから先は本編とは一切関係ありません。

 またキャラクターのイメージを壊す可能性がありますので、それでも良い!「うっせーな俺の勝手だろ」という方のみお読みください





ゆきちゃん○さいの日記



○月×日 はれ

今日うんめいのひとにであいました

わたしよりとしうえのおとこのひとです

なまえはゆうくん

こくはくはわたしからしたほうがいいのかな?



○月×日 はれ

今日はゆうくんとでーとです

いっしょにえいがをみにいきました

とちゅうゆうくんのしりあいにあいました

あいさつをすると「えらいね」といわれました

とうぜんです

つまのこうどうでおっとのひょうかはかわるのです

ですからへんなことはできません

とおかあさんがいっていたからなのはないしょ

あとゆうくんとてをつないだ!



○月×日 くもり

今日はかぜをひいたのでゆうくんにあえなかった

むりにあいにいこうとしたら

おかあさんにしかられて

かなしい



○月×日 はれ

今日はゆうくんがしんぱいしてあいにきてくれました!

すごくうれしかった

もうげんきになっていたけど

ついついゆうくんにあまえてしまいました

ごめんねゆうくんありがとう

やっぱりわたしたちはうんめいでむすばれているのです



○月×日 あめ

今日はいやなひ

ゆうくんがほかのおんなのひととあるいてた

こないだみたひと

ひとのだんなさまに、ちょっかいをかけるなんてさいていなひと

ゆうくんにもいっておかないと



○月×に血 あめ

きょう

ゆうくんにおこられた

きらわれたかもしれない、いやだよ

あしたもあやまらないと

おかあさん、どうしよう



○月×日 はれ!


今日はねこんだわたしを心配してゆうくんがきてくれた!

きのうはごめんねっていって

だきしめてくれた

どうしようねれない

ゆうくんだいすき





ゆきちゃん○さい日記 おわり




本編には関係ありません

少し電波を受信したようです。

では皆さん良い休日を















お読み頂きありがとうございます。

一言でも感想など貰えたら作者が喜びます。

勿論無理でしたら良いですからね!

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