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05

第5話投稿。

何かやたらと寒くなってきたこの頃






    白の雪





ひらひらと気紛れに降る白い雪

小さくてすぐに溶けて消えてしまうのに、たまに凄く印象に残るのはその冷たさのせいだろうか






「あたま痛い」

額に冷たいタオルを乗せて、ベッドに横になりながら僕は一人呟いた。



秋になり少し油断したせいなのか、僕は見事に風邪をひいてしまった。調子にのって薄着で夜中まで起きていたのがまずかったのだろうか……どちらにしろ、今の僕には風邪薬を飲んでゆっくり眠るしかできない。

母さんは外せない用事があるようで、少し前に出かけてしまった。とは言う物の心配する母さんに、大丈夫だからと半ば無理やり行かせたのは他ならぬ僕なのだけど。

最後まで母さんは心配そうに「何かあったら連絡しなさいよ」と言っていたけど、僕だってもう小さな子供では無いし別にそこまで心配するほどではない。

「はあ」

 自分の今の状態に思わず溜息が出る。僕としても今日と言う日に風邪はひきたくなかった。別に学校で大事なテストがあるだとか、友達との大事な約束があるとかそんな事ではないし、好きな女の子に会いにいけないのが悲しい……と言う訳では勿論無い。

ただ単に楽しみにしていたゲームの発売日が今日だったと言うだけだ。しかしこんな状態では買いにも行けやしないし、買ったところで出来ない。

「なんか悲しくなってくる」

 病気になると気が弱くなるだとか言うけれど、それだろうか? 少し寂しいような自分で何を考えてるのか分からなくなる。薬のせいで少しぼーっとするし……





「ここが……ゆうくんのおへや」

僕よりも8歳年下の小さな女の子が僕の部屋に初めて入って、最初に言った言葉がそれだった。

「そうだよ。だけどユキ、あまり勝手に物に触って散らかすなよ?」

「う、うん」

少し怯えたように、頷く女の子。水谷雪。今のユキよりもさらに小さい。

当時13歳だった僕。そしてその1年前に僕の家の隣に引っ越してきた女の子がユキだ。初めて会った頃は怖がられていたのか、あまり近づいて来なかったけれどこの頃から多少慣れてきたのか、ユキの母親である美夏さんが居なくても、僕に近づくようになっていた。

「何かする?」

「うん」

 尋ねる僕に小さく頷いて返事をするユキ。だけど何をするかは言って来ないし、僕もこの頃は自分よりずっと年下の女の子と二人で遊んだ経験なんて無かったし、何をして遊んだら良いかなんて分からなかった。

だけどユキの母親である美夏さんに頼まれていたし、当時の僕は恥ずかしながら綺麗な年上のお姉さんである美夏さんに憧れていて、少し良い所を見せようと、ついつい遊び相手を引き受けてしまったのだ。

「トランプでもする?」

俯いて黙ってるユキに当時の僕が提案した遊びは凄く一般的な物であり、二人でやっても面白いかどうかも分からない物だった。

「うん、やる」

それでもユキは僕の提案に小さな声で同意してくれたのだ。


「はい、上がり」

ユキの手にあるカードから最後の1枚を引き当て僕はそう告げる。ババを握りしめたユキはくやしそうに眉を寄せている。そう僕達がやっていたのはババぬき。その頃の僕はあまり気にしなかったけれど、今思えば当時5歳のユキがよく出来たなとは思う。家で良くやっていたのか、ユキはルールを知っていたのだ。

「まけた」

しかし知っているからと言って強い訳ではなく、それどころかユキはすぐに顔に出るから、正直凄く弱かった。

「もういっかい」

だけど負けず嫌いだったのか、ユキはすぐにそう言ってきた。今の僕ならわざと負けてあげるくらいの事はするだろうけど、当時の僕は情けない事にまだまだ子供で、二回目の勝負も容赦なくユキを負かす。そしてもう一回とユキの言葉と共に三回目を始め、そしてまた負けたユキは涙を浮かべ始める。

正直この頃の僕自身にそこは負けてやれよ! と怒りたくなるのだが、過ぎた過去は変えられない。

「……またまけた」

「あ」

ここに来てようやく昔の僕も自分のした事に気づいて、慌ててユキに他の遊びにしようと提案し、ユキを慰めてから神経衰弱に変更したのだ。

こちらの方がユキにも分かりやすかったのと、僕がわざとユキが分かりそうなカードを外すなどして、なんとかユキに勝利を送る事が出来た

「かった!わたしかった!」

「ほんとだユキ凄いな!」

飛び跳ねて本当に嬉しそうな笑顔を浮かべ喜ぶユキに、僕自身も勝たせるために必死だったのもあり一緒になって喜びユキを褒め称えて。

「おめでとうユキ」

「ありがとうゆうくん!」

ただその勝利がよっぽど嬉しかったのか、ユキは僕に抱きついてきて、そして僕もしっかりと抱きしめ返したのだ。ただ多少懐いてきたとは言え、この頃のユキは僕にたいして距離を取っていた。

「……わわ」

だからすぐに我にかえると、慌てて僕から離れて恥かしそうに俯くと、何やら言いながら小さな指先をもじもじと交差させる。

「え~と僕の事怖い?」

そんな姿に僕も少し不安を覚えたんだと思う。気がつけばそう尋ねていたのだ。

「……あ」

ユキは小さいながらも優しい子だったし(勿論今でもそうだが)僕の不安そうな顔に気づいたのか、小さく声を上げて首をぶんぶんと横に振ってその問いを否定してくる。

「じゃあ嫌い?」

「ううん」

小さくでも即座に否定すると、ユキは不安そうに僕を見上げる。

「そっか」

「うん」

当時の僕とユキは何故かそれで納得して、二人してしばらくの間変な笑顔を浮かべた。




「……くん……」


「……うくん……じょうぶ」

心配そうな声が聞こえる。もう少し眠っていたいけど、その声を聞くと起きなきゃいけない気がする。

「ゆうくんだいじょうぶ?」

目を開けて声の方を見ると、今にも泣きそうな顔のユキが僕の傍に立っている。

「ユキ?」

「うん。ゆうくんだいじょうぶ?」

凄く心配そうに僕の顔を覗き込んでくるユキ。でも駄目だそんなに近づいてユキに風邪がうつったら困る。

「大丈夫だから。ユキ部屋から出て」

「どうして? ゆうくんしんどそうなのに」

「ユキに風邪が移ったら嫌だし」

「そんなのいい」

良くないって。

「……良いわけないだろ」

「だってゆうくんしんどそうだもん!」

今にも泣き出しそうな顔で声を荒げるユキ。こんなに心配してくれるのは気恥ずかしいけど嬉しい。妹が居る奴ってこんな感じなのかな? と思いながら僕はユキの頭に手を伸ばしゆっくりと落ち着かせるように撫でる。

「本当に大丈夫だから……ね?」

「……でも」

「ユキまで風邪ひいたら僕も困るし、僕が治った後一緒に遊べないよ?」

「……」

「それでも良いの?」

僕の言葉に首を横に振ると、ユキは納得してくれたのか俯きながらも扉の方に歩いていく。

「ユキ」

その後ろ姿が凄く寂しそうだったから、僕はいけないと思いながらもついつい声をかけてしまい。その声にユキは振り返って僕に顔を向ける。

目には涙が浮かんでいた。本当にすぐ泣く子だ。

「えっとさ」

「なに?」

「僕が元気になったら一緒に何処か行こうか?」

「……本当?」

「うん。だからそんな顔しないで、僕が美夏さんにユキを泣かせたと思われるだろ?」

「うん。泣かない!」

自分の腕で涙を拭ってユキは勢い良く言った後「やくそくだよ」と僕に念押しして、部屋から出て行った。

出会った頃からは考えられないくらい懐いてくれたと思う。そういえば僕の部屋で遊んだ後から少しずつ自分から近づいてくれるようになったんだったかな。

昔を思い出しながら僕はまた睡魔に襲われて眠りについた。



そうきっとあの頃から。



「また遊ぼうな」

「うん。やくそくだよ!」




05

おわり。



今回は前後編ではなく一話で終わりです。

何か最終回っぽい終わり方なので、最後に使えば良かったのかな? と少し後悔。


あとこの主人公(?)何かやたらと昔の夢見てるなと書いてて思います。

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