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04

読んでくださってる方はお久しぶりです。

結構日が空いてしまいましたが、続きです。

    白の雪





僕は今部屋に居る。そして目の前には腰に手を当てていかにも『私怒ってます』というような表情を浮かべた……訂正浮かべているつもりのユキが居る。

結局あの後、数分もしない内に僕の視線に気づいたのか、いきなり振り向いてこちらに近づいてきたユキに見つかってしまった。本当に変な所で鋭いと思う。

そして一緒に部屋に入る事になったというわけだ。

「もう!」

「いや、僕何か悪い事した?」

「した。わたしを見てわらってた!」

そう言ってユキはむくれて睨んでくる。迫力は無いけど。

でも笑っては居ないと思うんだけど、ユキにはそう見えたらしい。

「ごめんね。でも笑ってないから」

「わらってた!」

駄目だ意地になってる。こうなっては仕方ない、子供相手には譲る事も必要だろう。

「わかった。ごめん」

「うん、わかればいいの」

首を縦に振りうんうんと頷いてユキは言った。機嫌は直ったようだけど、何か偉そうだ。いや、むきになってはいけない。それにこれはこれで何か可愛いから許してあげるとしよう。

「ありがとう。じゃあ僕着替えるから」

「うん」

「着替えるから」

「うん。わかった」

……いや、出て行ってくれよ。何で頷いたのに当然のようにその場で立っているんだ? そう思って僕はユキをじっと見る。

しかしユキは意味がわからないのか、僕を見つめ返して首を傾げるだけだ。くそっおかしい、普通気づくだろ。

でも僕も男だ、負けられない。我慢強くユキの目を見る。ユキも負けじと見返してきてその時間数十秒。ユキは照れながら笑顔を見せてくる。良い笑顔だ。だけど部屋からは出てもらう、僕は着替えるんだ。いくら8歳とはいえユキは女の子だ、今のうちにそういう事は覚えてもらわないと困る。

ユキが成長して、知らない男の着替えを覗くような女になってもらっては困る。そんなのは嫌過ぎるし。だからここで負けては行けない。今ユキを救えるのは僕だけだから。僕は訴えかけるように願うように視線に力をこめる。

「……ゆうくん」

ユキはやっと諦めたのか、頬を赤く染めて視線を逸らして俯く。

勝った。ユキの将来を救った。――いやそうじゃない、睨めっこをしていたわけでは無いのだ。どやらこのままではユキは気づかないらしい。

仕方ない、出来れば自分の力で気づいて欲しかったのだけれど、これが教育って奴なのだろう。

「ユキ。僕は着替えるから出て行って」

「何で?」

「いや着替えるから、裸になるんだ」

「……い、いいよ」

良いわけあるか! 僕が母さん達に殺される……いや、あの二人なら笑顔でからかってきそうだ。どっちにしろお断りだ。

「僕が良くないから。それに男の裸を軽々しく見てはいけません」

「じゃあ後ろむいとく」

そう言ってユキは僕に背中を向けるが、チラチラと何度か振り向いて見てるのを誤魔化せていると思っているのか? ばればれだ。

「駄目部屋から出てって」

「だいじょうぶ。ゆうくんの裸ならだいじょうぶ」

両手の拳を握り締めて力強くユキは言う。男前だなユキ。かっこいいけど可愛い。だけど許さん。

「駄目だ。出なさい」

「わがままはいけないとおもいます」

また変な事を言い出す。美夏さんと母さんどっちだ? はあ、もう良いや。お腹も空いたし、母さん達も待っているだろうから。

「分かったよ。僕の負けだよ。じゃあ着替えるから後ろ向いといて。こっち見たら駄目だよ」

「だいじょうぶ!」

まあ、ここは信じてあげよう。僕はシャツとズボンを箪笥から取り出し。制服を脱ぎ始める、少し汗臭いかな? いやだい「わあ」そうわあだ。だから「わあ」?

……ユキこっち見たな絶対見た。だってユキの耳赤いし、僕はため息をついて今脱いだ服をユキの頭に被せた。

「わわ!?」

慌てているユキをほうっておいて僕は素早く下も脱いで着替え終えた。

「ゆうくんなにするの!?」

脱いだ僕の服を抱きしめながら、ユキは怒鳴ってくる。やっと外したのか。

「いいからご飯食べに行くよ」

「ごまかした! ゆうくん酷い」

「酷くないよ。ほら置いてくよ」

「や、やだゆうくんおいてかないで」

そう言ってユキは僕の足にしがみつく。下に降りるだけなんだけど。

「はいはい置いてかないから行くよ」

「わかった!」

そう言ってユキは僕の手を握り締める。はやっ! たまに素早いなこの娘は。まあいいや、さっさとご飯だ。お腹すいた。



ユキと一緒に居間に戻ると、母さんと美夏さんが口の端をいやらしく歪めた。からかうつもりか、いいさもう。僕はお腹が空いたんだ。

「遅かったわね。ほら座りなさい」

「ほらユキ。裕くんの手を離して」

あれ? からかわれない。さすがに二人ともいい加減自分たちの行いを反省してくれたのだろうか。まあ害が無いなら別に良い。もうテーブルに晩御飯も並んでいる。まずは腹ごしらえだ。


ご飯を食べ始めても二人は特にからかって来るわけでもなく。母さんは時折ユキを構って、そして美夏さんと日常的な会話を交わすだけだ。

美夏さんも笑顔でたまにユキに「あ~ん」と言ってご飯をあげたりしている。僕にもしてきたのはどうかと思うが。にしてもこの人もあった頃と変わらず美人で若いな。まあ正確な歳はしらないけど母さんと父さんよりも年下で、ユキの父親でもあるおじさん(彼は父さんと同い年だ)と年の差結婚らしいし、当たり前なのかな。


「「「「ご馳走様」」」」

「ユキちゃんお腹いっぱいになった?」

「うん! おいしかった」

「あら嬉しい」

母さんの言葉に、笑顔で答えるユキ。美夏さんはそれを笑顔で見た後。食器を片付けていきそのまま洗い物を始める。もうなれたもので、この辺は母さんと美夏さんの暗黙の了解のようだ。

ただ前に気になって手伝おうとした事が何回かあるのだけど、そのたびに「いいから、ユキの相手してあげて」と断られる。だからさすがに僕も諦める……でも次はまた言ってみようかな。

「ユキちゃんクッキーあるけど食べる?」

「いいの?」

「勿論よ。ユキちゃんのために用意したんだから」

母さん凄い良い笑顔で言ってるけど、僕としては少し複雑なんだけどね。いや別にユキと張り合おうなんて無謀な事は考えないけどさ。

「じゃあ取って来るから少しだけ待っててね」

「うん」

母さんは立ち上がり台所の方へお菓子を取りに行った。

「♪」

ユキはそれを嬉しそうに見送っている。と言ってもすぐそこなんだけどね。しかしクッキーだけでここまで喜ぶとは安上が、いやいや本当に良い子だなユキは。

ただ、成長してから食い意地がはらないか心配だ。

「ユキ。食べ過ぎちゃ駄目だよ」

「うん、わかってる」

こちらを見て頷くが、すぐにまた母さんの後姿を追うように向こうを見るユキ。そんなにクッキーが大事なのか。これでは将来が心配だ。お菓子にしか興味の無い女の子になんて僕がさせない。

「ユキ。こっち見て」

「どうしたの?」

よし、こちらを向かせた。しかし、どうしよう。何となく振り向かせたが……とりあえずユキを見ながら僕は考える。

「ゆうくん、どうしたの?」

「ユキ。さっきのエプロン姿可愛かったよ」

服装褒め作戦だ。これでユキがお洒落に興味を持つようにしむける。今はまだ8歳だから早いが、いずれはこれが実を結ぶ日がきっと来るはず。

「え、あう。……ありがとう」

顔を赤くしてユキが俯く、照れているが少し嬉しそうな声だから、効果はあるようだ。

「あら、裕也あんたやるわね」

母さん!? もう戻ってきたのか、いや遅いくらいだけど。しかし僕は何をやってるんだ。我ながら今日の僕は少しおかしい、やはり疲れているからか。

「ゆうくん。わたしまた着るね」

「あらあら、よかったわね裕也」

ユキありがとう。でも母さんの前ではやめてくれ! そんなに顔を赤くして言ったら、母さんにまたからかわれる

「ユキちゃん御免ね。裕也がわがまま言って」

「ううん。ゆうくんが喜んでくれるなら大丈夫」

「もうユキちゃんは優しいわね! はいクッキー持ってきたから食べて食べて」

手をもじもじさせながら言うユキに、母さんがどんどん上機嫌になっていく。

持ってきた結構高そうなクッキーをお皿に乗せて、僕たちの前に置いて、母さんは笑顔でユキを見やる。

「いただきます」

「はい、召し上がれ」

ユキと母さんの会話を横に僕もクッキーを口に放り込んだ。なかなかおいしい。

横を見ればユキも「おいしい」っと笑顔で喜んでる。母さんも食べながら「なかなかね」と頷いている。初めて買ったクッキーだったのか。

しばらくすると美夏さんも戻ってきてクッキーを一緒に食べ始めた。



「あ、これハートの形だわ。裕君はい、あーん」

「いや、美夏さん流石にそれは」

「いいじゃない。あーん」

クッキーを僕の前に持って来る美夏さん。正直恥ずかしい。僕だってもう小さな子供ではない。でも母さんは口元にいやらしい笑みを浮かべて止めようとはしてくれない。ユキは何だろ? じーっと僕と美夏さんを見てる。

「裕君はやく」

「わかりましたよ」

諦めそうに無い美夏さんに僕は観念して口を開く。まあ美味しいからもう良いや。と横から服を引っ張られる感触がして振り向くと。

「ゆうくん。あーん」

お前もか。

「あら裕也良かったわね~」

「あら~妬けちゃうわね」

母さんはともかく、ユキさんそれは勿論僕にですよね? 娘が取られて悔しいんですよね。

「ユキあのね。さすがに恥ずかしい」

「おかあさんは良くてわたしは駄目なんだ?」

眉を寄せて言ってくるユキ。何か言葉だけ聞くと何か嫌だな。これ拒否してる僕はおかしくないと思うんだけど。

「わかったよ」

「はいあーん」

やっぱり美味しい。まあユキの機嫌も良くなってるしまあ良いか。にしても女3人に男が僕1人ってのは疲れる。父さんたち早く帰ってこないかな。……でもユキ達もこっちの家で食べるって事は二人とも今日は遅くなるんだろうな。



「疲れた」

居間で喋ってる母さんたちを放って僕は自分の部屋に戻ってくると、ベッドに体を投げて横になった。

賑やかなのは良いのだけど、やっぱり疲れる。一緒にいたらからかってくるし。やはり女ばかりで男一人となると肩身が狭い。

「ゆうくん入っていい?」

トントンとノックの音と共に扉のほうから、ユキの声が聞こえた。母さん達の話に飽きたのか、それとも行ってこいとでも言われたのか。

まあどの道断る理由も無いのだけれど。

「いいよ」

「ありがと」

扉を開けてユキを部屋に入れると、ユキが左右に首を動かして部屋の中を見てくる。

「なにしてたの?」

「ちょっと疲れたから寝転んでたんだよ」

「そっか」

「うん」

嘘をつく必要も無いので、事実を伝えると首を縦に振ってユキは何かを考えるように黙り込んだ。

何だろうか? と不思議に思ってユキを見ていると顔を勢いよく上げて言った「わたしも一緒に寝転ぶ!」と。

だけどそれは困る。今の時間にベッドに横になればユキは多分寝る。そしたら美夏さんが家に連れて帰るのも一苦労だろうし。

「駄目だ」

「どうして?」

不思議そうに首を傾げるユキ。そもそも一緒に寝転がることに疑問を持って欲しいと思ったけど、8歳だし仕方ないか。

「ユキそのまま寝てしまうだろ?」

「大丈夫!」

手を上げて自信満々にそう言って来た。この自身はどこから来るんだろうか?

「駄目。そう言ってもユキ寝るから」

「ねないもん!」

「いや、寝るね」

「……ねないもん」

まずい俯いて自分の服を握り締め始めた。もう少ししたら泣くかもしれない。泣かれたらさすがに面倒だし、僕も良い気分はしない。

僕は折れるしかなかった。





「……ん」

「結局これだ」

あれから一時間もしない内にユキは眠ってしまった。最初はほら大丈夫! と言わんばかりに僕に笑いかけていたが、少しして声から力が無くなっていき、寝てしまった。

……しかも僕の服を握り締めて。

僕がどうしようかと悩んでいると、扉の方から「裕君入るわね」と声が聞こえてきた。僕が了承の返事を返すと美夏さんが中に入って来た。

「あらユキってば寝ちゃったのね」

「すいません、寝ないように気をつけてたんですけど」

「裕君の傍で安心しちゃったんでしょう」

仕方ない子ねと美夏さんは微笑んで、優しい眼差しをユキに向ける。

「帰るんですよね?」

「ええそろそろね。仕方ないから、このまま連れて行くわ」

美夏さんは言ってユキを抱き上げようとした。

「やだ……ゆう……くん」

けれど寝てるはずのユキが僕の服を離さなかった。

「もう、夢の中でまで裕君にべったりなのね」

「はは、どうなんでしょうね」

「きっとそうよ。でもどうしようかしら」

まあユキがあの発言をした時から、うすうすはこうなるだろうと気づいていたのだ。

だから困ったわと溜息をつく美夏さんに、僕がかける言葉とそしてその後に取る行動は決まっていたのだろう。


やれやれと溜息を付きながら美夏さんの家に向かう僕の腕の中で、ユキは幸せそうな顔で眠り続けるのだった。



つづく



読んでくださってありがとうございます。

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