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初投稿です。開いてくださりありがとうございます。

      白の雪



少し話をしようと思う。

物語と言えるほどでは無いけれど。

ただこれは、僕にとって大事な人の話。







僕がその娘に初めて会ったのは……雪が舞う冬の夜だった。僕にとっての12回目の冬。

若い夫婦に手を引かれた髪の長い小さな女の子。


「ほらユキ挨拶しなさい。彼がユウヤ君だ」


挨拶をしろと言われた小さな女の子は、少し恥ずかしそうに僕を見上げてその小さな口を開いた。


「み、みずたにゆきです」


それが辺りに降り続く、白い雪と同じ名前の少女―水谷雪みずたに ゆき―の僕に向けた最初の言葉だった。






「さ……ゆ……くん」

声が聞こえる。

「……よ……うくん」

少しずつ明確に聞こるようになる声。

「朝……ゆ……くん」

その小さな声と共に体が少し揺れる。だけど僕はこのまどろみに体を委ねていたくて、その声を無視するように布団に顔を埋める。

「朝だよ。起きてよ、ゆうくん!」

その悲鳴のような大きな声を聞いて僕は一気に目を覚ました。声の方向を見れば、目に涙を浮かべた少女が僕の腕を掴んでいる。

ユキ……どうやらこの娘は僕を起こしに来てくれたようだ。

「おはようユキ」

「……やっとゆうくん起きた」

そう言ながら涙目で睨まれてしまう。どうやら怒らせてしまったようだ。と言ってもこの娘が睨んでも可愛らしいだけで、怖くはないのだけれど。

ただこのまま泣かれてしまってはまずいので一先ず謝っておこう。

「ごめん。起こしてくれたんだね」

ユキの頭を撫でながら僕が言うと、彼女は小さく頷いた。

「ずっと起こしてた」

拗ねた声を出してユキは俯く。

「あ~本当にごめん。許してくれる?」

僕の言葉に、ユキは俯きながらも小さく首を縦に振ってくれる。

「……ゆうくんだから許してあげる」

「ありがとう」

僕の言葉にやっとユキは俯いた顔を上げて、笑顔を見せてくれた。

「おはよう。ゆうくん!」

笑顔になってくれた事にほっとしながらも、他の人だったら許さないのだろうか? と僕は心のなかでその疑問を人知れず呟いた。



ユキは4年前……僕『西野(にしの) 裕也(ゆうや)』がまだ12歳だった頃に隣に引っ越してきた夫婦の娘で、兄弟の居ない僕にとっては妹のような存在だ。

出会った当時4歳だった彼女は、4年経った今ではその長い黒髪にとくりりとした黒い瞳。そして愛くるしい笑顔が特徴的な女の子に成長した。とは言ってもまだ8歳の少女なのだけれど。

そんなユキの両親は僕の父さんの古い友人らしく、引越しを機にまた親交を深め始めたようだ。それから現在まで家族ぐるみの付き合いと言うわけで、ユキも僕に懐いてくれているのだ。

懐いてくれてると今でこそ言えるものの、出会った頃のユキは僕に怯えていたようで、ろくに会話さえしなかった。そんなユキが普通に話してくれるようになったのは何時からだったろう?



「ゆうくん。ミキさんが朝ごはんって」

昔の事を考えていたせいで、少し待たせてしまったようだ。

「ああ、ごめん。顔洗ってくるから先に行っといて」

ユキは少し迷うように数秒目をさまよわせた後に頷くと、部屋を出て行った。それにしても何を迷う必要があるのだろう? まあ良いけど。



顔を洗い僕が居間に入ると、母さんとユキが料理の置いてあるテーブルの前で椅子に腰掛け何やら笑顔で話している。

すると母さんが僕に気付いたようで、顔をこちらに向けてきた。

「おはよう裕也。せっかく雪ちゃんが来てくれてるのに、全然起きてこないんだから」

「おはよう。いや、でもさ今日は日曜で学校も休みだし……」

僕は内心うんざりしながら言い訳を口にする。

「関係ないわよ。全く雪ちゃんは早起きしてあなたを起こしてくれたのよ? 本当に雪ちゃんありがとうね」

最初は僕に向けて、そして最後はユキに笑顔を向けて言う母さん。嫌味かよ……いや、そうなんだろうけど。

「ううん。わたしもゆうくんに起きて欲しかったから」

はにかみながら言うユキに、母さんは「本当に雪ちゃんは良い子ね~」とユキの頭を撫でながら僕を見てくる。

「わかった。僕が悪かったよ」

けれど減ってない朝食を見る限り、二人は食べずに待っていてくれたようなので、ここは素直に謝っておく。

二人の許しを得た僕は席に座って両手を合わせた。

「「「いただきます」」」

三人の声が同時に部屋を埋めた。



「ごちそうさま」

「はい、ああ雪ちゃん。ゆっくり食べたらいいからね」

僕が食べ終わるのを見て、何故か少し焦りだしたユキを見かねた母さんが声をかける。

別に僕が食べ終わったからと言って、急ぐ事も無いだろうに……ユキのこういう所は良く分からない。いや、でもまあ周りが食べ終わって自分がまだだったら焦る、のかな?

「ああそうだ裕也。今日なんだけどね」

「何かあるの?」

少し言いにくそうにしている母さんに僕は問い返した。

「あのね。今日母さんと美夏は出かけなきゃならないのよ。ただ……」

ああ、なるほど。つまり今日はユキを見ていて欲しいって事か。美夏(みなつ)さんというのはユキのお母さんの事だ。

美夏さんはユキの母親だけあり美人だ……ってそれはどうでもいいか。ユキのお母さんである美夏さんはユキを凄く可愛がってるし、それでも一緒に連れて行かないって事は連れて行けない場所なのか、それか大分遠い場所でユキの体力じゃ心配だからって所だろう。

「今日一日ユキを見ていて欲しいと」

「ごめんね。お金も少し置いてくから、ね?」

別に今日は友達と遊ぶ予定とかも無いけれど、でもユキとか。

「でもユキが納得しないんじゃ?」

「ああ、大丈夫。美夏が雪ちゃんに話したら『ゆうくんと一緒なら良いよ』って言ってたそうだから」

母さんはからかうような笑みを浮かべて僕を見る。

ユキめ、美夏さん大好きっ子の癖に。いや8歳の子供だし母親が好きなのは当たり前か。

「美夏も『ごめんね裕也君。でも本当に無理なら今日はやめておくから』って言っていたわよ」

……美夏さんにそんな風に言われて断れるかよ。優しいし色々世話になってるし。

「分かったよ。美夏さんにも言っといて」

「ええ、『ありがとう』だって」

僕の了承に対する、母さんの言葉に違和感を感じる。

「まだ伝えて無いだろ?」

「美夏『裕君ならきっとそう言ってくれるだろうから』って」

「……はあ、もう良い」

「ああ、でも本当に無理そうなら言ってくれって」

「いや、良いよ。美夏さんがどっちも本気で言っているのは分かってるから」

「ありがとう。さすが私の息子!」

「はいはい、ありがと」

僕は笑顔の母さんにうんざりしながら、投げやりに返す事しかできなかった。



「じゃあ行って来るわね」

「いってらっしゃーい!」

出かける母さんに、手を振って笑顔で返すユキ。その後ろで僕も母さんを見送る。

それにしてもユキと一日か、小学生の女の子と何をすれば良いんだか。悩む僕をよそに、ユキは鼻歌を歌いながら居間に戻って行くし。

「まあ初めてって訳でも無いし」

さてどうするかと考えながら、僕はユキを追って玄関を後にした。



居間に戻るために扉を開けると、ユキが笑顔で僕を見上げてきた。どうやらずっと待っていてくれたらしい。それにしても扉の前で待たなくても良いのに。

「ユキ何かしたい事ある?」

「ゆうくんの部屋で遊びたい」

ああ、僕の部屋ね。まあ漫画とかもあるし、映らないけれどDVDやゲーム用のテレビもあるからユキは良く僕の部屋で遊びたがる。

「分かったよ。でも暴れちゃ駄目だからな?」

「うん!」

ユキは大きく手を伸ばし満面の笑みを浮かべてそう言った。



「ゆうくんの部屋だ!」

「朝も入ったし、それにいつも入ってるだろ?」

ユキは僕の部屋に入るといつも何故だか機嫌が良くなる。さすがに見飽きても良いだろうに。

ふと気がつくと服を引っ張られる感触がして横を見ると、ユキが僕の服の裾を引っ張って俯いてる。何だ?

「ゆうくん……二人きりだね」

「っ!」

何言ってんのこいつ!? 思わず噴出しそうになったよ。え……いやどこで覚えて来たんだ? いや誰かに吹き込まれたんだな。母さんか? ありえる。

「……ユキ。どこでそんな言葉を覚えて来たんだ?」

「えっとね。みきさんがこう言ったらゆうくんは喜んでくれるって」

やっぱりか。『みきさん』と言うのは母さんの名前だ。何故ユキが母さんを名前で呼ぶのかと言うと、おばさんと言われるのが嫌だった母さんが、最初にユキに仕込んだようなのだ。別にいい年だろうに大人気ない。

まあそれは置いといて今は目の前のユキだ。いらない事を教えた母さんへの怒りで口元がひきつりそうになるけれど、その怒りを我慢して僕がちゃんとユキに教えてあげないといけない。

「あのねユキ。そう言う事は軽々しく言っちゃ駄目なんだよ?」

「どうして? ゆうくん……うれしくないの?」

いやいや、そんな暗い顔されて言われてもね。これで喜んだら僕変態だから。

「ユキ、えっとさ」

何って説明したら良いんだ? 正直分からないし、いや駄目だ僕も少し混乱てる。

「……ゆうくん」

駄目だユキの目が潤んできた。これをほっといたら泣きだしてしまう。いや、でもここで嬉しいて言ってしまったら人として僕は何かを失ってしまう気がする。

「ゆうくん……ご」

「いや、嬉しいよユキ!」

その何かを失う選択しか僕には出来なかった。。

「ほんとう?」

「ほんとほんと。いや嬉しいな」

見る間にユキの表情が明るくなっていく。仕方ない相手は子供だし、まあ別に僕も軽く流せば良かったんだよね。少し疲れた。

「よかった。あ、ゆうくん二人」

「ストップだユキ。嬉しかったけど、その言葉は軽々しく言って良い事じゃないからね? ユキがもっと大きくなってから使う言葉だから……いやでも、軽々しく男と二人きりになっちゃいけないけど。そうじゃないっ、えっととりあえずユキが大きくなって意味がわかってからね?」

「でもゆうくんとユキの二人だけだよ?」

首を傾げてユキは不思議そうに聞いてくる。いやそうなんだけど。

「ユキは僕の言うこと聞いてくれないの?」

「ううん!? そんなこと無いよわかった」

ユキは首をぶんぶんと音がしそうな程横に振ってそう言ってくれたけれど……くそっ子供相手に大人気ない手を使ってしまった。母さんのせいだ。ユキにいらない事教えやがって。

「はは、ありがとう。とりあえず何かしようか?」

「うん。まんがよむ!」

わかったと頷いて僕は内心ため息をついた。



つづく。


短いですが一話終わりです。

駄文に付き合っていただき感謝します。では次の話で読んでくださるのならまた会いましょう。

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