その8
私の家にたどり着くと、庭先に蒸機鎧を着地させ、私と男は降りた。
男はインターホンを鳴らすと、既にパパは帰宅してて、パパがドアを開いた。
パパは金髪のオールバック、背は大きく、眼鏡がトレードマークの温和そうな顔をしているの。
多分傍目には軍人じゃなく、医者とか、科学者に見えるような人ね……自慢のパパだけど。
ただ、その時は本当に男がパパの友達なのか、私は不安に感じたわ。
「……よ、ドクさんおひさ」
そう、男は陽気にパパに挨拶をした。
「おひさ?って……アレン、アレンじゃないか!どうしたんだこんな所で!」
パパも旧友にでも会ったかのような顔を浮かべ、それに応えた……私はほっと息を撫でおろす。
アレンと言われた男、彼はパパの友達だったと言う事は確かだったから、この異常事態だらけの時間に、終止符が打たれた安心感が私を襲う。
「キャロルも一緒か、どうしたんだ?」
パパは私に気付く、私はパパに微笑んで返す。
「ああ、ちょっと色々あってな……」
「まぁ玄関で話すのもアレだ、2人とも上がってくれ。
もう飯は出来ているからな?」
こうして、私は何とか帰宅に成功する。
食事の後お茶を飲みながらパパに色々な事を話したわ。
逆卍党とかいう日本の兵器を使う犯罪組織にクラスメート2人が捕まった事。
私を人質にとって、パパを狙っていた事。
そしてアレンさん、彼が真作鎧を使って私を助けてくれたことを。
「なるほど……逆卍党か……すぐに軍部に伝えておくか……アレン、お前は知らないのか?」
「いんや、俺の方もクライアントにジパング人のテロ組織がドクの娘を狙ってる、ちょっと尾行して守ってろって言われたぐらいでしかねぇや」
「……さっきから、パパの事をドクって言ってるけど……ドクって何?」
「ああ、南軍でのジョンの綽名だよ、白と赤のピースメイカーが医者見たいだったからドク・ホリディって異名なのさ」
割と初めて聞いた話だった、パパの戦績については色々聞いたけど、南軍視点での評価とかはよくわからなかったから、というのはあったけど……
「俺としては白騎士ホリディの方が良かったんだけどな……」
苦笑いしながらパパは言う、確かに医者ホリディじゃちょっとしまらない、というかどっかのマッドサイエンティストの異名みたいに感じるわ……外見からすれば、お似合いの異名って言えばそうなんだけど。
「白騎士様か、そりゃ南軍が付けるわけないだろ?何か正義の味方っぽくてアレだアレ」
「畜生黒く塗るべきだったか!そうすれば黒騎士ホリディって言われた筈だ……黒なら悪役っぽいだろう?」
したり顔でパパは言う、けど、黒騎士ってイメージは何か正直パパには似合わない気がする。
「何言ってんだ、お前の気質じゃ仏のホリディだろ?何たって元南軍の奴とダチをやるぐらいなんだしさ」
「それもそうか……」
パパは納得した様子で、残念そうな顔をする。
確かにパイロットとしては凄い強いけど、パパは優しかった、とても優しくてだから、戦争の後前線で戦うのが嫌になって一線を退いた。
公的文書には持病の喘息が原因だと言ったけど、ママは何時も、パパは優しすぎたと言っていた。
「……南軍も色々な人がいるのねぇ」
呑気そうにママは言う、ママはイングランド貴族の末裔で、この家だって本当はママのものだったりする。
本当に呑気な性格で、危機意識が薄くなんでもパパとのなれ初めはパパの上官の紹介だったらしい。
私にもパパぐらい素敵な人がお見合いでくればいいなと思うけど、多分無茶だと薄々感づいていたりする、流石に戦争の英雄で心優しくて品性もあるなんて、完璧なナイスガイはパパぐらいしかいないもの。
「まぁ、戦争が終わったら誰も彼もがまたアメリカ国民さ」
パパはそう、笑って言う。
「そうだな……」
だけど、アレンさんはどこか暗い顔を浮かべていた。
私とママはパパとアレンさんが戦争での武勇伝を互いに話しているのを聞く、敵である南軍の話だけど、ママも私もパパも、終わってしまった出来事なので、特に怒りなんてものは湧かなかった。
パパも同じように武勇伝を語り、互いに戦場で出会った時の決闘の話になると互いに「この状況が無ければ勝っていたと主張した。
でも、そういう偶然があったから今互いに生きているんじゃないと私が言ったら、2人とも派手に笑った後「もっともだ」と返した。
様々な話を聞いて、それでパパとアレンさんは長い話になりそうになったので、私とママは先に寝室に戻り眠りにつこうとした。
ベッドの中にもぐりこみ、夜空を見上げる。
まだ訳の分からない記号や図形は表示され続けていて、目をつむれば消えるものだけど、それが何か気になって眠れなかった。
何でこんなものが出るのか、私は考える、確か逆卍党がアムとリンに対し、ひどいことをしていると言ったから怒って、それでその勢いでいろんな図形や文字や記号が表示されるようになった。
昔はこんな事は無かった、だとしたら一つ、心当たりが浮かんだ。
私は鞄に戻していたプレートを取り出す。
あの店長さんが渡したプレート、これの力なんじゃないかと。
だとしたら、そのプレートの力であの時怪力は出せたと言う事になるのかしら?
そう私は考える。
けど、力があっても結局すぐ力は切れて、捕まって危うく腕を切り落とされる所だった事を考えると、店長さんの言う事も宛にならないなと思っちゃう。
そう考えているとふと、部屋のドアが開かれる。
部屋の外で灯されてた光がさしてくる。
起きていると知られたらちょっと面倒だと思った私は、咄嗟に布団の中にもぐりこんだ。
こつん、こつんと足音がして、そして私の部屋のテーブルに、何かを置く音がした。
「キャロル、一人でも生きれるようにするんだぞ」
パパの声だった、一人で、という言葉に不吉な何かを感じ、起き上がる。
「……え!?」
「……起きていたか、ああ、すまない、心配させてしまったか?」
パパは微笑みながら私に言いかける。
「だって一人でもって……」
「ああ、一人でもってのはこういう事だよ」
そう、パパは電灯をつける、電灯を使うのは最近のお金持ちのステータスで、ガスライトよりも安全性に優れた代物だった。
電灯が薄く照らした明り、テーブルの上にあったのは、リボルバー拳銃だった。
「これって……」
「私の拳銃さ、今度変なのに出会ったら、これで守れるようにした方がいい」
「……貰っていいの?」
「ああ、構わないさ」
パパはまた、優しく微笑む、その笑みはどこか寂しげだった。
「……ありがとう、じゃあパパ、約束してくれる?」
「何だい?」
「さっきからパパが死んじゃうんじゃないかって不安なの……だから、どこかに行かないで」
私はさっきから感じていた不安を吐露する。
パパを狙う人間、パパの昔の宿敵、なにもかもが不安だった。
「ああ、解ってるさ……おやすみ、キャロル」
そう、パパは言って電気を消した。
パパは私が寝付くまで、そこに居るみたいで、部屋の椅子に座っていた。
不安感が抜け、安心感が心を満たしてくる。
私はそのまま、すぐに眠りについた。
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