その7
私は今、黄金の蒸機鎧の中に入り家まで目指している。
蒸機鎧の中は通常の米軍標準機である<ウェスト・オブ・ピースメーカー>と違い複座式で広く、結構なスペースがあった。
またこの蒸機鎧の計器はモニターから状況が表示される形式であり、普通の計器タイプとは違っていた。
操縦する形式も男の左右両側にある球体のようなものに両手でも片手でもいいから触れるだけのようで、既存の蒸機鎧と全く違う……これが真作鎧ってやつかしら。
「……本当にお父さんの友達なの?」
心配だった、彼が本当にそうなのか。
冷静になって振り返るとヤクザの親分は、彼を南軍の残党だと言った。
南軍の人間が、何でお父さんに借りがあるのか、嫌な予感がする。
この人の実力は多分、お父さんと同じぐらい強かった。
「ん?南北戦争ってあったよな?それで俺は南軍に居てとっ捕まっちまったのさ。で、捕まっちまって収容所暮らし、俺はエースだから絞首刑になるって所を、あんたの親父さんが助けてくれたのさ」
気のいい笑顔を浮かべ、彼は言う。
「なら、何で最初にそう言わなかったのよ」
「あー、まぁ、あれだ、この街に来た理由ってのがなんだ、あの黒い機体の連中居るよな?そいつらからアンタを守れって話だったのさ……見事に撒かれたが、コイツで居場所が分かったのが幸いだったぜ」
そう言いながら男はポケットからパネルを取り出す、前に見たときに弄っていたものだった。
パネルは画像が表示され、スイッチのようなものはなかった。
「なにこれ」
「古代文明の遺産、スマートフォンとかいうやつさ。まぁこいつに対応したソフトと装置さえあれば、発信機と探知機にもなる優れもんだよ」
「何時発信機をつけたの?」
「粉末タイプのやつを通り過ぎたとき、ちょっとな?」
男は笑いながら言う、ありがたいけど発信機をつけられた感じは、少し微妙な気分だった。
「ただまぁ途中でノイズが入って、どこか解らなくなっちまったんだよな……何処歩いてたんだ?」
ノイズが入って解らなくなった所と聞かれ、私はあの不思議な店を思い出す。
あのお店なら、不思議な店長さんがそんなものを持ってきてもおかしくない、そんな気がした。
「わからない、けど……それよりも私の友達は行方不明よ、そっちの居場所は解らないの?」
店の話は何かしたらいけない気がしたから私は嘘をつき、そして一緒にお店で楽しく和気藹々と話をしていたリンとアムの顔を思い出し私は暗い表情になる。
彼らが狙っていたのは私、だとすれば、私一人で動いていれば2人は巻き込まれなかった筈だからだ。
「2人か……悪い、俺の発信機でも反応はねぇ……だが、もうサツには言ってやった。あいつらだって人間だ、ヤク漬けにした廃人なんて抱く気もおきねぇから適当に飼い殺しさ」
「そんなものなの?」
「じゃあお前、死体を見てどう思う?」
「気持ち悪いわ」
「じゃあお前、老人ホームで介護状態になって、もう動くこともままならない奴らを見てどう思う?」
「……見てられないわ」
「それと同じさ、頭の中がクスリ漬けでもねぇ限り過激なポルノ小説みたいな展開はねぇよ」
「さっきの光景は、過激な小説顔負けだったわ」
私は苦笑いする、肉片と弾痕ばかりの地獄は流石に思い出すと、きつい光景だった。
段々と日が沈み、住宅に明かりが灯る。
モニターから映るそんな夜景はとても綺麗な、芸術的な光景だった。
「さてお嬢様、どこの家かい?」
「そうね、まだちょっと遠いかしら」
私は少し笑みを浮かべる。
蒸機鎧から見下ろして見るその光景は酷い惨状を見た私の心を、少し和ませたからだ。
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