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その6

港の巨大な倉庫に私は椅子に縛り付けられ、そこに居た。


アムやリンは別の場所に移されたみたいで、それで男たちはテーブルに置いた電話で、私の学生証をカバンから取り出し、パパ達に電話をかけ、何かを話していた。


恐らく脅迫なんだろう、身代金をとって、それで私からお金を巻き上げるつもりなんだ。


倉庫の周囲にはだいたい5mぐらいの鉄の巨人……蒸機鎧が4機、全部が中に人間が入っている事を示すためにカメラアイが赤く光り、装甲は真っ黒に塗装されていて、肩には卍を傾けたようなマークがしてあり、どこの機体かは解らなかった。


少なくとも、アメリカやイギリスの蒸機鎧には見えない、だけどその機体を観察していて一つの点が見えた。


黒く塗装され帯刀しているのは西洋剣で手に持つのは蒸気エンジンがごてごてについたアメリカ製の45mm砲。

でも、背中の羽と胸部のデザインは昔見たジパング制の蒸機鎧と同じだった。

輸入品?でもジパングとの貿易はまだ本格化していない、かと言って軍事機密品をホイホイとマフィアに渡す筈もない。

マフィアのリーダー、紫色のスーツの男の顔を、もう一度見る。

さっきは恐怖と驚きで良くわからなかったけど、髪の色は黒く、肌はそう、黄色人種だった……


ジパングにはヤクザと言うマフィア集団が居る。

それは強大な武力と人員、そして政治的影響力を持ち、いわばジパングの裏の稼業を行う「闇の政府」と言うべきものだと、ジパングに関する本で見た。


それなら自分の国の蒸機鎧を保有していても何ら問題は無い。

そしてリンを撃った男は、彼女がチャイナの人間だとわかった……


私達白人にはわからないけど、チャイナの人間とジパングの人間、それと黄色人なら大独逸帝国の人は顔つきが多少違うらしく、それぞれの国の黄色人ならすぐにわかると言われている。


変な魔女のような人から、形見のプレートを渡されて、それからヤクザに捕まるなんて、彼女が言った運命が変わる事ってこの事?


だとすればもっと実用的な護身道具を買ってればよかった。

そう、私はひどく後悔して、そして段々とあの恐怖から冷静になってきた事を実感する。

ヤクザの親分の言葉だと、私だけに用があって、後の2人はおまけみたいな言い方だった。

だとすれば、本命の私には脅しこそすれど、殺しはしない、だとすれば話をする事もできる。

「……貴方達……ジパングのヤクザなの?」

単刀直入に、顔をヤクザの親分に向け言う。


「そうだ、と言ったら?」

肯定、やっぱりヤクザだった……だけど、彼もその取り巻きも銃を向けなかった。


それが私にとっての死の恐怖を拭い去り、安全だという確証を作り出す。


「何でこんな事をするの?ジパングとアメリカは影で同盟を組んでいるじゃない」


「我々は国の意思で動いてる訳では無いからな、国の同盟など無意味だ。それに君の父、彼は私達の目的に必要なのだよ、だから君を使いここまで呼んでいるのではないか」


パパを呼ぶための人質、目的はパパの体、そして、このヤクザ達はジパングの人間だけど、政府の人間ではないから国交問題も何も無い……だとすれば、このヤクザ達はテロリスト?


でも無茶苦茶よ、そんな事をしてもパパはすぐに裏切って脱走する。

だってパパは英雄だから、一人で戦場の真ん中に立ち、何十機の南軍の蒸機鎧を破壊した存在だから極東の島国だって私達を連れて逃げられるに決まっているわ。


「君はそんな事をやっても無駄だと言いたげのようだが……まぁそれはそれでいい、脳だけでも残っていれば、我ら逆卍党の研究者により有力な力となりえるのだよ」


「ぎゃく……卍党?」

聞いたこともない名前だった。

それがヤクザ達の組織の名前だとすると、頭が痛くなる。


「おっと、それ以上の情報は君は知る必要はない、とだけ言っておこう」ヤクザの親分は三流悪役のようにはペラペラ話そうとしない、うう、ちょっと気になる。

けどこのヤクザはジパングの工作員でなくてもジパングの蒸機鎧を購入できるだけのバックを持つ。

そしてパパの体を狙っている……そうなったらパパも危ないかもしれない、大丈夫だけど……多分。


とりあえず死に至る事はまだないというのは自覚したけど、気になる事があった。


「……それで、リンとアムは無事なの?」

そう、私のクラスメート2人だ。

あの2人に何かあったら、私だって暴れてやる、そう胸の中で決意する。


「ああ、彼女達か、そうだな……まぁ、殺さないのなら好きにしろ、そう言ったさ」

最悪の答えが出た、リンやアムが何をしたと言うの?


「我ら逆卍党の顔や名が出るのは危険だからアジトに送らせてもらったよ、勿論、君も父親が要求を拒否すれば、同じ目に遭うが……」

そう、男は薄ら笑みを浮かべて言う。

凄い怒りの湧く顔だった。私の中の恐怖はすっかり失せて、色々と言いたくなる。


「っ……あの子達が何をやったって言うの!ねぇ!解放しなさいよ!彼女達は何も知らないのよ!」

感情をありったけぶつける。

ヤクザのボスがめんどうくさそうな顔をした。

本当に苦い虫を噛んだような、黙らせたいけど黙らせれないと言った顔だ。


「あたしには縛るだけしかできない癖に!いい加減にしなさいよアンタ達!ねぇ聞いてるの!」

どんどんと私は怒りを吐き出す。


「撃ちたきゃ撃ちなさい!でもね!パパはきっと……ううん……私もアンタなんかに屈しないから!」

<使用ユーザーの感情値、規定以上に到達したため緊急起動しました>

<使用ユーザー情報検索……登録ユーザーに該当なし、非正規ユーザーと判断>

<非正規ユーザーの記憶スキャン開始……終了>

<非正規ユーザーの正規ユーザーへの敵対度……皆無>

<非正規ユーザーを臨時ユーザーと承認、以後ユーザー03として登録>

<ユーザー03の使用言語の辞書データ……該当なし>

<辞書データ登録までの間、緊急措置として日本語及びピクトグラムにおいてサポートを行います>

<MAOS 無頼機構 ver10.1 起動>


その時、視界の中心に良くわからない様々な言語がいきなり浮かびだした。


<アカシャ粒子計測中、発動者体内粒子量20、大気中の粒子含有量:低>


<身体情報表示、動体レーダー、温度計、以下の常駐エフェクトを起動>


どんどんと、視界の隅に良くわからない文字が浮かび上がってくる。

その後人体の形の図形、丸い図形、アラビア数字の温度計、視界に様々なものが浮かび上がってくる。

頭の中に良くわからない情報がドンドンと入って来て、それにより力がみなぎってきた感覚を覚える。

抜け出したい、この拘束を解きたい。


<ユーザー03の要望により、肉体強化、強化出力:5倍で発動します>

そう考えたら、力が出てきてロープが千切れた。


「……っ!魔道力を使っただと!?」ヤクザの一人が叫び、銃を構えようと腕を動かす。


<肉体自動制御エフェクト、起動します>

すると彼が銃を構えたのと同時に、私の体は勝手に体を傾ける。

引き金は引かれ、拳銃から弾が飛ぶ、けど、それは私に当たらなかった。

私は椅子を持ち上げ、銃を構えた男に投げ飛ばす。


「があっ!」

男は椅子が突き刺さり、そして胴体から上と下が解れる形になる。


<ユーザーの心理的ショックを計測……活動不能になると判断、精神安定術式を起動します>

普通なら叫んでいるぐらいの大惨事だけど、あまり怖くはなかった。

それに怖気づいたヤクザは、さっきまで私に怯えていたのと同じ様子で、蒸機鎧の後ろに隠れた。


だけどヤクザのボスだけは怖気づく事など無く、私を見据えていた。


「魔道力を生身で発動させたか、詠唱も無く発動するとは……妖術師の資質があったと言う事か?」

何を言ってるのか解らない、だけど、今の私なら勝てる。

そう考え、彼に私は一目散に飛びかかった。


だけどヤクザの親玉は私がとびかかるとアイキドーの動きで、私が殴りかかろうとした腕をつかみ、流し、投げ飛ばした。


だけど私も体が勝手に動き、受け身をとってダメージを軽減してまた、飛びかった。

力まかせのタックル、アイキドーをやってればわかるけど、圧倒的な力があれば、アイキドーの技なんて結局は流しきれないのだ。


タックルはヤクザの親分に思いっきり当たり、壁まで吹き飛び、そしてマウントポジションを取った。

今なら一方的に殴れる、アムとリンの痛みを思い知らせられる、そう、勝利を確信したんだけど……


<緊急!粒子の枯渇により、各種術式を緊急終了させます>


殴りかかろうとした瞬間、体の力が抜けた。


非力なパンチが、ヤクザの親玉に当たった。


「え?」

さっきまであった力が無くなり、驚く。

するとヤクザの親玉はその隙に強引に立ち上がり、私のマウントポジションを解除し、そして私のおなかに思いっきり蹴りを入れた。


「あがっ!」

息が出来ず、酷い痛みに襲われ、私はお腹をかかえうずくまる。


「ボス、大丈夫で?」

「魔力切れか……しかしどんな制御機を使ったんだ……まぁいい、また暴れられたら困る……彼女を押さえつけていろ」

そうヤクザの構成員何名かが私に近寄ってきて、腕を抑える。

必死に手足を動かそうとするけど、痛みで体が動かない。


そしてヤクザの親分は、構成員から長い曲刀……カタナを受け取り、引き抜いた。


「ヤクザというものは責任と義務により構成されている、それは逆卍党の人間も同じだ……そして今、お嬢さんはうちの組員の命を奪った、どういう意味か解っているな?」

その声は淡々としていたけど、怒り狂っているのは行動で分かった。

「……嘘、よね……私を殺したら、パパが怒って殺しに来るわよ?」

「腕二本と脚二本切るだけだ」

冷淡な、だけど恐ろしい答えだった。


どうしよう、不安感と、くやしさで一杯に私の心はなる。


死にたくない、怖い。


でも、さっきみたいな力は出せない。



ヤクザの親分は刀を振りかぶり、そして──



ドンと、倉庫の外から爆音が鳴った。



「な、何だ!?」

ヤクザの親分は剣を振り下ろすのをやめ、そして周囲を確認する。


私にはどういう状況か解らなかったが、次の瞬間、今度は巨大な鉄塊が近くに落ちた音と、同時に強い衝撃が周囲を襲った。


「なっ!」

強く地面が揺れ、ヤクザ達が私を押さえつける力が弱まる。

チャンスだった、私は必死に彼らの拘束を振りほどき、立ち上がり、そして鉄塊が落ちた音の方を見る。


そこに立っていたのは黄金色の蒸機鎧だった。


まるで鳥のような羽を持ち、胸部には大砲がついている。


様々な煌びやかな装飾が施され、腕にはリボルバー式の120mm砲を持つ巨人。


天井は貫かれ、夕陽の光が倉庫を照らす。


背部の機構が何らかの目的で使われたのか蒸気を噴出していた事から、私はその機体が空中飛行が可能な、真作鎧だと判断した。


それはまさに黄金の騎士であり、見るものを畏怖する力そのものに私は感じた。


「な、なんだアレは……」

近くに居た、ヤクザの構成員がわなわなと怯えた様子で、その黄金の蒸機鎧を見ていた。

視線は私でなく、彼らに向いている……チャンスと見た私は、一目散に走り、倉庫のコンテナの陰に隠れた。


追ってくる人間は居なかった。


コンテナの陰から私は顔を出す、黄金の蒸機鎧はヤクザの親分が居た所に銃を向けていた。

「……何が目的だ」

親分はそう、蒸気鎧に強気の態度で出る。

既にヤクザの蒸機鎧も手に持った45mmオートマチックカノンを黄金の蒸機鎧に向けていた。


黄金の蒸機鎧からの返答はない、沈黙を続けていた。


一触即発の間が、空間を支配する。


静寂、誰もが言葉を紡がなかった。

一瞬で勝負は決まり、生きるものと死ぬ者に別れる時間。

何秒か何分か解らない時間が経ち、そして……先に動いたのは黄金の蒸機鎧だった。


黄金の騎士は巨大なリボルバー銃……120mm砲を黒い騎士達に向け、そして引き金を引いた次の瞬間には銃を持っていない方の手でまるで扇を回すかのように撃鉄を上げて弾倉を回転固定させるとによって、引き金を一瞬のうちに何発も引いた。


引き金を引く度に別の敵に瞬く間に狙いをつけ、撃ち抜く。


ファニング、私のパパが蒸機鎧でやっていた事があるけど、リボルバー式の120mm砲や人間の持つリボルバー銃で高速連射を可能にする技法。


荒野のガンマンが産みだした必殺の技。

欠点は狙いをつけ、的確に撃つ事は困難であり、また蒸機鎧の操作法では更に腕部の制御が困難な為、これを使えるのは北軍でも私のパパとあと3人、そして南軍でも2人おり、それらは全て後世にて伝説とも言えるほどの戦績を残したパイロットだと言われている。


その技により自らを包囲していた黒の蒸機鎧は、瞬く間にそして全て胸部のコックピットを貫かれた。


少し間を置き、黒の蒸機鎧達は体制を保てず、崩れ落ちる。


一瞬の動きで、相手が反応する間も無く勝利していた。


黒い鉄の、武士道を忘れたサムライたちは、騎士道精神を持った荒野のガンマンの技の前に敗北したのだ。


「ファニングだと!?貴様……CIAか!?それとも……ジョン・ホリディか!」

ヤクザの親分が叫ぶ、乱入者の手により絶対的優勢は崩壊した、それも完璧な形でだ。

だが、動揺することはあれど、恐怖により発狂する事は無かったのが私には強く印象に残った。


「……どっちでもねぇ、ただの亡霊だよ」

黄金の蒸機鎧の拡声器からの声、それは荒っぽい男の声だった。

少しイメージとは違ったけど、ワイルドで、それで生命力に溢れる声だった。


「南軍の者か!?まさか……この作戦を見透かして!?」

「うるせぇ、陰謀ごっこなら自分の国でやってろ」

すぐに黄金の蒸機鎧は、銃をヤクザの親分に向け、引き金を引いた。


爆音、瓦礫が飛びそうな気がしたから、私はコンテナの陰にすぐに隠れた。


「ひぃっ……に、逃げるぞ!逃げろ!逃げるんだ!」

「お、親方……!」

「良いから生きてアジトに戻るぞ!戻って体制を立て直すんだ!」

そう、何名かの男の声が聞こえた。

けどその次の瞬間には爆音が起き、その爆音は何回か続いた。


それは逃げたヤクザの掃討に使われた弾だと、すぐにコンテナの方にまで肉片が飛んできた所から解った。


「ったく……どうしてこんな黄色人種なんて来たのやら……さて、と、もう大丈夫だぞ、出てこい嬢ちゃん?」

私への声だった、彼は私を助けに来たみたいだけど……何が目的かは、見当がつかなかった。

でも、こうして倉庫の隅にうずくまってても何もならないから、周囲を確認すると私は隠れていたコンテナから黄金の蒸機鎧の居る場所に戻った。

「……助けてくれたの?」

「ああ、親父さんには借りがあるからな」

そう、蒸機鎧の男は言い、次の瞬間、蒸機鎧の胸のハッチが開く。




そこに居たのは私を尾行していた、あの中年男性だった。

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