その4
迷路のような入り組んだ道を私達は進み続ける……周囲の足音に気をつけて、どんどんと移動していると曲がりくねっているが、一本道の場所に出てくる。
「……私が300m先行する、貴方達は後ろから来て」そう、私はモールス通信で仲間に知らせ、先行する。
どんどんとくねる道が、直覚的になっていき、そしてある角の安全を確認しようとした時だった。
角の奥にはピースメーカーと思わしき機体が4機ぐらい、うち2機が前、もう2機が後ろを守る形となっており、内側と外側からの襲撃を警戒しており、その先は……青い空があった。
そう、外への通路だ。
「……ん?」
敵が私に対し、視線を向けた瞬間に私は角から通路に跳び出し、そして床を蹴り敵に対し、ジグザグに動くように、そしてかつ射線から逸れるように背を屈め接近を始める!
一発でも終わればお仕舞い、こちらの武器は無手、相手の武装はフル装備の最悪の状況。
その状況を打破するには、キャリバーの格闘性能をフルに使っての電撃戦しか存在しない──!
「なっ!」
驚いた敵機はそれぞれ1発づつ120mm砲を撃つ、だけどその砲撃は照準が甘く、周囲を揺らすのみに留まる!
だけどこれで終わりじゃない、私はスラスターを強引に最高出力で急加速し接近する!
「おい!どうした!お──」
<クロススラスターの損傷率限界!これ以上の作動は危険と判断しパージします!>
MAOSからまだ文字が表示され、ピクトグラムから赤く点滅していたクロススラスターが消失し、同時に背中から重いものが消えた感覚をつかむ。
クロススラスターもどうやらここが限界だったようだ、だけど、これだけ活躍すれば十分!
私は加速を載せての踵落としを前方の1機にたたきつけ、そしてもう1機の首に向け手刀。
手刀を叩き付けられ敵機が揺れ、体制を崩した隙に120mm砲をその敵の手から奪い、その引き金を後列の敵が反応する前に何発も引く!
爆音が近距離で鳴り響き、私は何発も敵に向け砲弾を近距離で叩き込む!4機の敵機はぐらぐらと体を揺らし、私が砲弾を撃ち尽くした後、ばたりと倒れこんだ。
「問題ないわ、早く来て」
敵機の沈黙を確認した私は彼らにモールス通信で伝え、仲間を待つ。
「おっかないな……1機でやったのか」
「すげぇ……」
仲間の傭兵はやってくるや否や、驚きの声を出す。
「褒めてもお金は出ないわよ?」
そう言いながら、私は敵機の手荷物の120mm砲を仲間に渡す。
敵も4機、私も4機、丁度4挺あったのが幸いね。
武器を渡し終えると、私はすぐに隠し入口だった先を見る、一応それなりの広さの床が入口の先にはあり、そこを伝って行けば甲板に出られそうな感じはした。
「……さてと、先急ぐわよ?」
「ああ、これで俺らもお荷物じゃないぜ?」
「頼もしいわ、でも無駄に死なないでね」
そう私は威勢よく言う傭兵に返し、また先を進む……道は斜めに上る形になっており、直ぐに戦艦を止めた場所とは違う甲板にたどり着く。
「……さてと……傭兵2人は先に行って合流して、私達は追撃をここで叩くわ」
「……あら、私も?」
「当たり前じゃない、敵も恐らく残った2機で潰しに行く筈よ」
「そうですわね」
「……おいおい、俺達じゃ足手まといなのか?」
「ぶっちゃけそうよ」
「……男として悲しくなってきた」
「これを言うのが女の皮を被った怪物だと思えば、面目は保てるわよ?」
「おいおい、そういう事を言ったら怪物じゃなくていい女になるじゃないか」
「そうね、でも私は化け物よ、機械で出来た化け物、だから行きなさい、仕事は別にあるわ」
「……だそうだマリガン、早く行こうぜ」
「そうだな、じゃ、先に行ってくるが……死ぬなよ?」
そう言って2人の傭兵は去って行く……そして私とキャロルは振り向き、そして敵の気配を警戒する……
「全く、ここは一体どうなってますの?」
「私が知りたいぐらいよ」
リチェットのぼやきに対し、私は返す。
「……全く、こんなものがこんな所にあるなんて、そんな情報を流したのは誰でしょうね」
その後、私は疑問を口に出す。
不可解な部分だった。艦内のAIはどうやら今回起動したのが初めの様子だった、だが、南軍残党も、逆卍党もここに遺産があると知っていた。
軍内部ではそんなものの資料はない。抹消されてたとしても、諜報部に居た来夏なら何か知っててもいいぐらいだ。
「そうですわね、どうなのでしょう、逆卍党の小さな人質さん?」
「私は総統閣下から教えられた通りに来ただけだ。私でも知らないよそんなもの」
リチェットが彼女に伺うと、カグラは機嫌の悪そうな感じの声を出す……嘘を付いてるようには聞こえないわね。
なら、本当にどういうことなのかしら?ひょっとして、ここに「遺産」があり「鍵」が必要だと、様々な組織に伝えた第3勢力が存在する──?
その時だった。
私が来た道の方から、蒸気鎧特有の、跳ねた音がした。
「……上!」
私は叫び、後ろに跳躍し、銃を構え、一撃、けん制に撃つ。
それと同時に私の機体スレスレを、砲弾が掠め、そして……2機の蒸気鎧が甲板に着陸した。
ブラッキーの蒸機鎧と、アレンの蒸機鎧だ。
2機は私達に銃口を向け、私も向けあう形となる。
「……仕留め損ないましたわね……」
隣のほうからリチェットの声がする……彼女の方を向けば撃たれるだろうから場所は確認できないけど、彼女も私と同じように回避したのね……
アレンと私、リチェットとブラッキーの蒸気鎧が、向き合う形となる。
先に撃たない、無駄弾は撃たない、緊迫した空気が、甲板を支配する。
「よう、よくもまぁ……やらかしてくれたな」
「ええ、どういう気分かしら?」
私は挑発するように、愉しげな気分で語る……本当は愉しくもなんともないけど、心を揺らせればそれでよかった。
「最悪の気分だよ」
「そう、それで……この状況、所謂決闘の形式よね……私はこういうの、あまり好きじゃないのよね……非効率的で、リスクだけが高い手段よ」
リチェットの後ろに居るカグラが聞いたら笑ってるだろう、そう私は頭の片隅で思う。
「解ってないな、西部式の尤も理知的でたった一つの冴えたやり方だよ、決闘ってのはな、なぁブラッキー?」
「私は奇襲を仕掛けろと言ったのに……もうどうにでもなれだ、決闘?上等ですよ、英国紳士らしく行こうじゃないですか」
ブラッキーの愚痴を最後に、甲板は蒸機鎧の駆動音と、風の音のみが流れる空間に変わる。
張り詰めた殺意、一瞬でも油断すれば、砲弾がコックピットに当たるだろうという、睨み合い。
使う武器は120mm砲、蒸機鎧の為の、リボルバー銃。
先に撃とうとすれば、それを読まれ先に撃たれる可能性が高い、だからこそ、互いに油断したと判断する材料を、探し求める。
腕が下がればグラブスティックを持つ力が下がったと判断でき、そしてそれは油断であると判断できる。
だけど熟練の兵は、それらをブラフにして一撃を誘い、そして回避し、カウンターを叩き込む。
だとすればアレンの挙動は参考にならない、頭脳役のブラッキー、彼は腕は悪くないが、それでもぎこちなさみたいなものは、言動の端々に感じられる……けど、それがブラフなのかもわからない。
だけど彼の相手はリチェットだ、彼女がやるべきことをきちんとやれば、私は余計なことをしないですむ。
前方に、互いに銃を向けあった状態を保ち、集中を保つ……静寂の中の死闘……!
何秒か何分か、はたまた何時間かわからない間、集中をし続け……私はその静寂を打ち破る事にした。
早撃ちならアレンの領分、だとすれば、先手を上手くとり、機動戦に持ち込むか、先に撃つか、そうしなければ勝てない、そう私は確信する……
気取られず、悟られない様に腕を保ち、そして、引き金を引く指に全力を入れた──
4つの砲声が、ほぼ同時に、だけどわずかにずれて、甲板に響き渡る。
<左肩部破損!左肩部及び胸部にある程度の損害確認!警告!警告!今の状態は危険です!>
それと同時に、何かが当たり、私は吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。
また、私が先に撃たれたのだろうか。
また、ダメだったのだろうか。
太陽の光が私の眼に入る、これが最後に見た、私の空なのだろうか。
追い打ちを私は覚悟する。
がしゃん、がしゃんと蒸機鎧の、足音が聞こえる。
やってきたのは、アレンでも、ブラッキーでもなかった。
リチェットが駆る蒸機鎧、バントラインだ。
リチェットは私に手を差し伸べる。
私はその差し伸べられた手を、強く掴み、起き上がった。
「……大丈夫ですの?」
リチェットが心配げな声を上げる。
「……何とかね」
私はそう言いながら、起き上がった視界の先を見る……そこには、120mm砲の直撃を胸部に受け、無残な形となった2機の蒸機鎧の姿があった。
私は、アレンに勝った、パパの仇を討つことができた……だけど、勝った気がしないし、嬉しくもなかった。
あまりにもあっさりと、あっけない、カグラとの死闘に比べれば、一瞬でついた勝負だからだ。
けど彼がカグラよりも弱いとは思えない、私よりも弱いと思えない。
運がよかっただけ、そう私は思う。
「……私は、勝てたのかしらね……」
「まぁ、運が良かったと思いますわ」
「やっぱり?」
自分と同じ感想をリチェットが持ってくれて、ほっとする。
来夏とかなら褒めちぎりそうで怖いし……
「ええ、しかし……疲れましたわね」
「そうね、でも、まだ私達にはやる事があるわよ……とりあえずみんなと合流しましょう?」
そう、まだ私にはやる事があった。
やっぱり、こんな空高く浮上したままだと、大変よね……
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