その3
被害状況としては、フジオカ隊長の特殊部隊は半数が壊滅し撤退、それについて行って傭兵も何割かが逃げ、リチェット達殿として戦っていたら捕まり人質となったと言う所だ。
私はそれについて怒りはしない。
私が同じ状況になったとしても命を捨てれるとは思っていないし、何より、リチェット以外にも何名かの傭兵まで人質になったからだ。
私は今、飛行戦艦の奥深くまで連行されている。
蒸機鎧には乗せられたまま私達は歩かされ、機体から降りる行動すら許されない、恐らくちょこまか動かれても管理が大変だから、と言うのがあるのかしら?
歩き進む戦艦の奥深くの壁面は様々な文字や図形に溢れ、何がなんだかわからない状態で……そして巨大な扉に、私達はたどり着く。
「見張っていろ」
アレンは部下にきつく言った後その扉に近づく。
すると扉はすっと開かれ、その先には……外の映像を投影するスクリーンと、その中央にある玉座のようなものがあった。
「さてと……嬢ちゃん、あの椅子に座れ、変な真似したら仲間を撃ち殺すぞ」
アレンはそう言いながら、私に銃を向ける……どういうこと?
「いいから座るんだ、いいな?」
戸惑っているとアレンが私に対しせかすように、向けた銃口を上下に揺らす。
私は不安に思いながら玉座に蒸機鎧を動かし、座る……
<キーAの所在を確認、キーBの所在を確認、正規ユーザーの確認……正式起動、開始いします>
MAOSから文字が表示され……スクリーンもMAOSのように様々な情報を表示し始める。
「おお!動いた動いた!ブラッキー!今度こそマトモに動いたぞ!そこの嬢ちゃんやクソ傭兵どもも見とけ!これが古代遺産だぞ!すげぇぞ!」
「ええ……これでわれらの悲願が……」
ブラッキーと呼ばれた男が、イングランド訛りの強い英語で歓喜している……このMAOSが鍵だってこと?
「……動いたみたいね、どうすればいいの?」
「ああ、浮かぶのをイメージしろ、いいな?警告を何度も言わせるんじゃねぇぞ?」
私は言われるままに浮上をイメージする……轟音が更に鳴り響き……そしてドンドンと飛行戦艦が上昇していき、床のスクリーンに表示された地面が、遠くなっていく。
だが、その時スクリーンがふっと消えた。
「何だ!?」
ブラッキーと言われた男が、狼狽する。
<正規起動者の確認。私は本艦の統合制御AI アーカイバです、これから本艦の概要を説明します>
解りやすい言語……どこかで聞いたことのある、女の人の声が艦内に鳴り響いた。
そして画面に映像が、表示される。
<この惑星13th-EDENはかって星間の戦争ショーの為の舞台として扱われました>
真作鎧のような兵器を用いた、兵器の戦争……夢の中で見た光景だ。
<ですが……それらの戦争ショーは人間を徴兵し戦争を強要するものであり、本システムの創造者である星主様の意思により、兵器は地下に埋められ本星からの干渉を途絶……そして人々は創始者の意思により、この星の開拓者として生きることとなりました>
そう画面に表示された褐色の肌、セミロングの少女の姿は……まぎれも無く、あの変なお店の店長だった。
だとすると……私は店長さんの記憶を追体験した?
「……悪いジョークね……」私は呟く、本当に悪いジョークよ……あの店長さん一体何歳……?
「ふむ……つまり、我々はその人物の手により助けられた者たちの末裔、と……」
ブラッキーとかいう男は素直に話を吞みこむ。
<そして私が知っている限り、星主様主導の開拓政府を作り200年の間安泰の状態となっていた筈なのですが……何かの大災害があり文明は崩壊、人類はかってあった地球文明を曖昧な形でなぞりながら、発展と再生を遂げて行ったのです……>
店長さんと愉快な仲間達が星をどんどん切り開く映像の後に表示されたものは異質だった。
中世の映像とかは、まだよかった。
逆卍の旗を掲げる白人。
プロペラで動く、鳥のような機械で戦う人々。
独逸の旗があるけど、それは黄色人種の国には見えない……
ジパングと思わしき国は、また別の、むしろ私達の言う独逸寄りの雰囲気になっていた。
「……どういう事ですの?」
リチェットだ。
「……艦内AI、貴方に意思があるのは今ので解ったわ、今見せてる世界と今の世界の差異を教えて頂戴」
「はい、まず天主に当たる存在はドイツに移民していませんし、徳川は彼らを滅ぼそうとしませんでした。したがってドイツはゲルマン民族の国であり、逆卍のシンボルを掲げたナチ党もジパングでなく、ドイツにありました」
「……模倣、だと……?世界は再演されているというのか?」
後ろからカグラの声がする……動揺しても仕方が無いわね。
自分の所属してた組織が、昔あったものの模倣だなんて解ったら……誰だって驚くわ。
<ちなみに正規ユーザーであるキャロル・ホリディの父であるジョン・ヘンリー・ホリディは本来の歴史なら1ガンマン、リチェット・アープに当たる人物は彼の相棒で、そもそもワイアット・アープという男ですね>
そう言って2人の男の写真が画面に表示される……さすがにそこには驚くわ……そんな個人レベルの情報まで模倣してたの?いやパパの場合名前が似た別人レベルでしょうけど……出てきた白黒写真みたいに細くないし。
「……ふぅむ……どうなってるんだこれ?」
「見たまんまでしょう?歴史の授業の時間よ」
<正規ユーザーに会ったのは初めてなんです、知ってる情報をいろいろ語りたくてたまらないのですよ?>
「止められないのか?」
アレンがげんなりとした声を出す。まぁ仕方がないわよね……あけた宝箱の中にいたのはおしゃべりなお姫様だったもの。
「ええ、ストップ、別の話題にできない?」
私はアレンに言われるがまま、ちょっと愉快な気分でそのAIに話しかける……私としてはできれば長話にしてほしいけど。
<では、次の話題に移りましょう、これらの説明を終えなければ本艦は正常動作致しません。間違っても私が説明好きだからわざわざ長話しようなんて魂胆ではないのですよ?>
AIはそう言うけど……時間稼ぎになるのは助かるわね……
「知性のあるAI、飛行戦艦……何もかも素晴らしい……この力があれば……我々は……!」
ブラッキーはそう何か自分の世界に入り込んでる……この位置からじゃアレンや他の敵が見れないわね……見事に死角に入ってるわ。
「次の話題ね……なら、星主って一体何者なの?」
<星主様は本外宇宙脱出艦の製造主任にして、本惑星13th-EDENの統合政府議長ですね、それ以外の情報は不明です。現在貴方に正規ユーザー権限が譲渡されてるということは貴方が面識があるのでしょう?貴方が聞けばいいのでは?>
「……分かったわ、ありがとう」
……一番知りたかった情報だけど……分からないって一体どういう事……?
あえて自分に関するデータは消したのかしら……まぁ、ちょっと気になったけど……本人に聞くしかないというの?
<では話を戻しましょう、現在、私が起動したと言う事は……キャロルさん、現在世界全体で危機的状況はありましたか?見た感じ隕石が落ちてくるわけでも異次元からタコ型宇宙人が襲ってくるわけでもアフロカマキリ星人が大量にやってきたわけでもないみたいですけど>
そうAIは私に聞いてくる……どう言えばいいのよ。
アレンは何も言わない、ブラッキーもだ……あまり強要する言動をとればAIはシャットダウンするでしょうね……
でも、そうなれば彼らの目的……大体、この船を使ってのろくでもない野望は潰える事となる……そしたら私の命もここまででしょうね……
だけど、まだ助けが来る可能性もある……なら……
「……えーと、宇宙人が本当にニューヨークを攻撃して私達は──」
そう、言おうとした時だった──
背後から、連続した爆音が鳴り響き、周囲の空気が振動する。
「何だ!?仕掛け爆弾か!?」
「隊長、早く逃げてください!」
来夏からのいきなりの通信……今の行動は……来夏の仕業なの?
「おっと、これはまるで忍者の仕業かな……手馴れか、恐ろしいものだ」
カグラが嘲笑うように語る中、私は即座に椅子から立ち上がり、周囲を見渡すと……アレンの部下のピースメーカー型のほとんどが、爆発して倒れ込んでいた……
「ちっ……誰が爆弾しかけやがった!何処だ!」
アレンは狼狽し、冷静さを失ってる……隙が出来ていると言う事は……今なら、逃げれる……!
「みんな、今すぐ走って逃げて!」
私はそう考え叫ぶと、即座にフットペダルを使い、地を蹴り飛び跳ね、制御室から抜け出そうとする。
「こ、この!」
ブラッキーと呼ばれた男の声。その後砲声が何回も鳴り響き、着弾したのか、何人かの仲間の傭兵の叫び声が聞こえる。
けど私達は振り向かず、一目散に部屋の外に出て、通路の先のエレベータに乗り込んだ。
このエレベータも妙に上がったり下りたりする時間が長いわよね……
「ふぅ……腕は萎えては居ないわね」
久しぶりの通常操作での機動で、まともに地を蹴って走れて、私は少し満足だった。
元レーサーとしての腕は全く萎えてない、むしろこの体になって調子が更によくなったかもしれないわ。
「……助かったのは私含めて4機、ですわね」
隣でリチェットだ、周囲を見ると私とリチェットと、2機の蒸機鎧が確かに居た。
「ああ、運が良かったぜ嬢ちゃん達」
傭兵の一人が言う。
「ああ全くだ。一体あの爆弾、何だったんだ?」
もう一人が、来夏の仕掛けたと思わしき爆弾について、疑問を述べた。
「多分来夏のつけた爆弾よ……来夏、聞こえる?」
私は音声通信を起動し、来夏に話しかける。
「……大丈夫です、その調子だと無事みたいですね……良かった……」
「……一体何をしたの?」
「簡単な話ですよ、あの敵達が結構な数、回り込んで甲板まで来たから博士と一緒に隠れて……それで相手の視界に入らないように動いて、爆弾を取り付けただけです……リーダー格は無理でしたけど」
「……簡単?」
ちょっと私は驚く。元CIAの工作員だけあってそういうのは手慣れてる訳ね……というか、蒸機鎧に乗れない原因でもあるのかしら?
「私基準での簡単ですよ、一応元CIAですし、そういう手段は戦中色々やってましたからね?」
自慢げに来夏は語る……こうして考えると、ビルもリチェットも博士も来夏も、最高レベルの人材よね……少数精鋭しすぎてると私は思うけど。
「それで……何でそんな大切な事、通信で報告しなかったの?」
「一応通信しましたよ?でもどうも逃げてきた人たちによると、艦内には電波が届かなかったみたいなんです」
「なるほどね……解ったわ、それで今どうなってるの?」
「現在艦内都市にて合流した保安官隊と一緒に交戦中……今から合流するのは危険ですね」
「なるほど……」
私は他の機体の状況を確認する、私のキャリバーゼロの武装は後ろに乗ってる厄介な女の子との戦いで損失して全くない、あるとしたら両腕と、自慢の十万馬力、そして壊れかけのクロススラスターぐらいだ。
他の機体は全部、得物となる武器は無いわね……だとすれば……別のルートから行くのが得策かしら?
「だとすれば、敵が侵入した隠し通路を使って移動するのがいいわね……さっきの道は一本道だったから、ここから先の道を探すわよ……前衛は私が勤めるわ」
そう私は言いながら、先頭に立つ。
キャリバーの装甲は硬い、各部はガタガタだろうと、強引に一発ぐらいの弾なら正面から受け止められると、私は希望的推測を行う。
「……あ、そうだ、キャロル、ちょっとこの子預かってくれない?」
私はそう言って機体を座らせた後、機体のハッチを開く。いい加減捕虜を乗せて動くのはきついわ……だからキャロルに預けたいけど、大丈夫かしら?
「はい?」
キャロルの機体が私の方を向くと、私はシートベルトを一端外し、後ろに居るカグラを抱えてコックピットから降りる。
「……はぁ」
カグラは溜息を付きながら私をじっと睨みつける……まぁ、恨まれても仕方が無い事はしたけど。
「逆卍党の捕虜よ、名前はカグラ、ちょっと預かってくれない?」
「……ふむ、解りましたわ」
そう言うとリチェットも、機体を座らせハッチを開ける。
私はすぐにそこに入り込み、リチェット機の予備に用意された後部座席が目に付いたので、そこに座らせベルトを付け降り、またゼロに乗り込み、コネクタに接続し意識リンク式の操作方に切り替え起動した。
「さてと……これで準備万端ね、行くわよ」準備が
終わると、待ちかねたように、エレベータの扉が開く。
扉の先には警備もなく、この先には迷路のような道があるだけ。
追撃は来る可能性は高い、上手く行くかは解らない、けど、こうなったらやるだけやる、そう私は自分に言い聞かせるように強く思い、エレベータから一歩、足を踏み出した。
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